熱射病と山口瞳

朝7時、奈良からの夜行バスで旬公が帰宅。それで眼が覚めて、山口瞳の本を読む。なにが何でも今日書かねばならないのに、まだ目を通してない本が何冊かあったのだ。10時過ぎに、旬公と〈花歩〉へ行き、コーヒー。こないだから土曜日開いてませんね、と奥さんに云うと、4月から土曜日もお休みになったのだという。『谷根千』の新しい号に、4ページにわたり「一箱古本市」の記事が。仰木ひろみさんによる、かゆい所に手が届くルポだ。75人の店主リストも掲載。森まゆみさんの体験記も。店主もお客さんも、あの日参加したヒトみんなにとって、コレは保存版ですよ(http://www.yanesen.net/)。『谷根千』はこの号で80号に達した。この持続力には、頭が下がる。


自転車で、根津へ。〈好来〉で、ワンタンと半チャーハン。〈往来堂書店〉の山口瞳コーナー(があるのだ)で、『山口瞳の人生作法』『やってみなはれ みとくんなはれ』(新潮文庫)を探すが、残念ながら2冊ともなし。文京区ふれあい館の図書館で、何冊か借りる。端末で検索すると、先の2冊のうち1冊は湯島図書館にあると出た。暑いからどうしようかなあと迷うが、原稿に使うかはべつにして、見ておかないとマズイ気がして、行くコトに。その前に、御徒町の〈明正堂〉に行くが、ゼンゼンない。


そこから、松坂屋のほうに出て、湯島へ。途中、いまはなき〈上野文庫〉の看板が残っているのを見つける。蔵前橋通りを、えっちらおっちら上がる。帽子をかぶってこなかったので、頭がヒートしてくる。熱射病みたいだ。湯島図書館に行くも、データ上で見つかる本が棚にない。館員に探してもらうも、見つからず。ああ、ムダだったと、本郷に出て、本郷三丁目の書店で期待せずに探したら、あっさり見つかった。こういうコトもある。この店、数年ぶりに入るがマンガが増えたなあと思ったら、店名が〈ブックス・ユニ本郷店〉に変わっていた。経営者が別の人になったのだろうか? ほかに、本秀康『ワイルドマウンテン』第2巻(小学館)と、『NONFIX ナックルズ』第2号(ミリオン出版)を買う。赤門前を通ったので、ついでに「落第横丁」へ。〈ペリカン書房〉の看板は健在だが、店は閉まっていた。


向丘まで走り、日医大の坂を下りて、西日暮里へ帰る。この暑いのに、二時間ぐらい走り回ったせいで、疲れてしまう。ちょっとヨコになってから、また山口瞳の本を読む。手元の本をぜんぶ見ておかないと、原稿に取り掛かれない(というか、なかなか書き出せないので、逃避している)。夕方、今度は本駒込図書館へ。そうこうしてるウチに、7時になった。


切羽詰っているにもかかわらず、晩飯を食べながら、DVDで増村保造兵隊やくざ》(1965)を観る。兵営の中で繰り返される、初年兵いじめ。その理不尽さに立ち向かう、勝新太郎田村高廣のコンビ。この二人、最初から奇妙に仲が良く、最後は一緒に脱走する。男と男の友情というよりは、濃密な愛情があるかのように描かれている。これは原作にあるのか、増村の演出なのか。


原稿で書くことをメモし、なんとか取りかかれる体勢をつくる。1時間ほど眠って、2時から書き始める。途中、詰まりながらも、5時には書き上げる。『山口瞳通信』の第5号に掲載予定のもの。昨年、中野朗さんに依頼されながらも、山口瞳にほとんど関心がなく、お断わりするしかなかった。中野さんは律儀に今年も依頼してくれた。それからの一ヶ月で、にわかに山口瞳に入門し、まだ好きになったのかも判らない段階で書くしかなかった。それが、山口ファンの牙城である『山口瞳通信』に載るというのは、忸怩たるものがある。でも、書きたいコトが書けた気はしていて、肩の荷が下りた気分だ(中野さんからの返事はまだなのだけど)。ちょっと寝よう。