郡山からならまちへ

朝9時に起きる。旬公のトランクがあるので、前田くんが駅まで送ってくれ、改札で別れる。隣駅の鶴橋へ。近鉄駅前の立ち食いうどん屋に入る。関西に来ると、ナゼか猛烈に立ち食いうどんが食べたくなるのだ。いつもはきざみうどんを食べるのだが、今朝はかき揚げうどんを注文する。ダシが熱々で、丼が持てないほど。もちろん満足。近鉄に乗って、西大寺で奈良に向かう旬公と別れる。ぼくはココから橿原神宮方面に乗り換え。


近鉄郡山駅で降りたとき、初めて来るハズなのに、「あれ? この駅前知ってる」と思う。よく考えたら、1年ほど前に古書店地図に載っていた〈あすかブック〉という古本屋を訪ねている。わざわざ来ただけの成果はなく、すっかり忘れていた。それにしても、古本屋がある場所なら、ドコにでも行ってるなあ。ヒトゴトみたいだけど、恐ろしい男である。40分も早く着いたので、ちょっと歩いたところの〈モスバーガー〉に入り、コーヒーを飲みながら、打ち合わせの資料を読む。いくつかポイントをメモする。


12時前に駅前に戻る。少しして中尾務さんが現われる。『BOOKISH』の新しいのはイツ出るんですか? と訊いたら、来月出るらしいですわ、との答え。読者の皆さんは、当てにせずに待ちましょう。そのうち、うらたじゅんさんも到着。途中で一緒になったからと、同人誌『黄色い潜水艦』の三輪正道さんと島田勢津子さんがいらっしゃる。二人とも編集工房ノアから著作を出されている。島田さんの『イルカを待つ海』を頂戴した。西友の中のレストランでソーメンを食べ、バスに乗る。山に向かってしばらく走り、大職冠というバス停で下りる。民家の向こうには田んぼが広がっている。


作家の川崎彰彦さん宅に到着。車椅子に座る川崎さんと、奥さんの当銘さんが迎えてくれる。挨拶もそこそこに、ビールが出てくる。飲みながら、しかもこんなに大人数で打ち合わせしたのは初めてだ。今日の用件は、川崎さんが大阪の同人誌『海浪』(花田書房)で連載した、「ぼくの早稲田時代」という小説の単行本化について。二年ほど前に、うらたさんから「この連載を出版できないか」と持ちかけられ(後ろで糸を引いてたのが中尾さん)、できる範囲で動いていた。それが、毎度おなじみ、右文書院から出るコトに決まったのだ。ぼくとしても、ホッとしている。そして、外部の立場で、ぼくが編集させてもらうコトになった。27回続いた連載で、やや厚い本になりそう。サクサク進めて、今年中には刊行したい。


打ち合わせは30分もかからず、スグに酒宴となる。あとから、やはり同人の平井義英さんが来て、総勢8人となる。ビールとワインをちゃんぽんで飲んで、いい気分。次の用事があるので、一足早く、うらたさんと辞去する。外に出たら、まだ日がカンカンに照っていた。バスで近鉄郡山に戻り、西大寺乗換えで、近鉄奈良駅へ。もちいどの通りの〈フジケイ堂〉(前は別の通りにあったが移転したらしい)、〈朝倉文庫〉、〈十月書林〉を覗くが、買わず。その先に、昨年秋にできた〈酒仙堂〉がある。普通の家が古本屋になっていて、狭い土間と、上がった二つの座敷に本やプラモデル、玩具を並べている。ご主人は会社勤めされているので、土日祝日のみの営業だという。奥では、女性のお客さんがお茶を飲んでいた。B6判時代の『プレイガイドジャーナル』を4冊見つける。各300円。それと、田中小実昌『ふらふら記』(潮出版社)650円も買う。


〈ならまち文庫〉は去年、改装して、半分が古本屋、半分が映画監督・河瀬直美のショップになった。前まで行ったが、今日は休みだった。たしかに、キレイになっている。その奥は、手づくり雑貨や洋服の店、喫茶店などが入る「ならまち工房」だ。しばらく見ないウチに、ずいぶんイメチェンしたんだなあ。そういえば、ココに来る途中にも、新しくできたカフェが2軒ほどあった。


そこから、〈よつばカフェ〉(http://www.h7.dion.ne.jp/~yotsuba/)へ。二階の座敷では、旬公のワークショップがまだ続いている。今日で最終日という「カルピス祭り」のメニューから、「カルピス豆乳」とカルピス入りのケーキを頼む。どっちも美味しかった。ステレオから大瀧詠一が流れていた(三ツ矢サイダーのCMソングが入っているCD)ので、Hさんに「これ、カルピスのイメージですか?」と訊くと、そうです、と答える。こういうセンスが好きなんだよなあ。


7時過ぎ、上でワークショップが終わったようだ。一人ずつ下に降りてきて、支払いしつつ、できあがった革の手帖を見せている。みんなウレシそう。自分でつくったモノを持って帰れる、というのがイイのだろうね。最後のヒトが帰ってから、うらたさんにも手伝ってもらって、荷物をトランクに詰める。隣のお米屋さんから発送する手配をして、ようやく終了。


旬公が宇多滋樹さんに借りた三輪の自転車(軸が狂っているのか、やたら端っこに寄っていく)に乗って、奈良で唯一知っている店である〈蔵〉に行く。昔の蔵を改装した飲み屋。おでん、刺身、鉄火巻、赤だし。どれも五臓六腑に染みわたるうまさだった。うらたさんにご馳走されてしまった。近鉄奈良駅前で、うらたさんと別れて、宇多さん宅へ。といっても、今年4月から、この家の一階は〈古本喫茶ちちろ〉になっているのだ。座敷にテーブルをいくつか置き、壁には本棚が10本ほど入っている。古本喫茶というのに、見たところ、本の並べ方に気を使ってないのが惜しい。ちょうど夜勤から帰って来た宇多さんと一緒に、駅のほうの銭湯へ。東京ほどお湯が熱くないので、ちょうどイイ感じで汗を流した。家に戻ってから、宇多さんと少し話してから、一階の奥に布団を敷かせてもらって眠る。


夜中、蚊に刺されて眼が覚める。眠れなくなったので、棚の本を抜き出してパラパラ読む。古本喫茶もイイけど、宿泊中は自由に本が読める「古本旅館」でもイイのでは? 新聞配達の音が聞こえた明け方に、ふたたび眠りについた。