大森で古本屋の昔を想い、いまを歩く

午前中は雑用もろもろ。4日(日)付けの日経流通新聞が届く。「やねせんの新たな楽しみ書肆巡り」として、不忍ブックストリートの記事が最終面に大きく出ている。新たに略図をつくり、ほうろうやオヨヨ、ミルクホールの写真などを入れている。一面のインデックスに使われている写真は、ぼくが撮ったモノだ。本文も、ぼくやほうろうの宮地さんのコメントをうまくまとめてくれている。コレで新聞は、産経、東京、読売、日経流通と4紙に載ったコトになる。明日は台湾の新聞から取材を受けることになっている。


12時半に出て、京浜東北線で大森へ。駅を出て右側のバス停へ。手前の立ち食いそば屋らしき店でそばを食べようと、ナカに入ったら、カウンターの椅子席で、奥のほうはそば屋じゃなくて飲み屋になっていて驚く。昼間からおじさん5人ほどがタムロってました。天ざるを注文。そばは、その場でゆでるので少し時間がかかるが、うまい。天ぷらはちょっとアレだったけど。バスに乗り、蒲田方向へ。池上通りを進み、右折して臼田坂に入る。その入りがけのバス停の目の前に、今日うかがう関口洋子さんのお宅がある。


いまは新しい建物に変わっているが、この場所にはかつて「山王書房」という古本屋があった。関口洋子さんは、その店主・関口良雄さんの未亡人なのだ。若々しい、元気なご婦人だ。入口でご挨拶して、お宅に上がる。目の前に、尾崎士郎が書いた「山王書房」の看板が飛び込んできた。入ってすぐのところにある小部屋に案内される。関口さんの集めた本、付き合いのあった作家の書や手紙、遺品などが、きちんと飾られている。そのあと、洋子さんが生活されている部屋に案内される。仏壇には、先日ぼくがお送りした『ナンダロウアヤシゲな日々』が供えてあった。この中で、少しだけだが、関口良雄さんについて触れているのだ。洋子さんは、良雄さんが亡くなって以来、いろんなヒトが書いた山王書房や良雄さんについての文章を、ファイルに整理している。「もう2冊目になりました」と見せていただいた、そのいちばん新しいものは、先月、石神井書林内堀弘さんが朝日新聞に書いた記事の切抜きだった。


今日うかがった当面の目的は、「古本屋が書いた本」という記事の中で、関口良雄さんのことを取り上げるので、その写真を拝借することだった。その場で何枚か出していただき、近くのコンビニでコピーする。そして、もうひとつ、別のお願いもしたのだが、洋子さんは快諾してくださった。嬉しい。今日は、ご挨拶だけで失礼するツモリだったが、良雄さんのエピソードをいくつも話してくださり、ビールに枝豆、サラダまでいただいてしまったので、けっきょく2時間もお邪魔してしまった。近いウチに再訪することを約束して、辞去する。


そこから歩いて2、3分のところにある〈平林書店〉へ。前に来たのは、7、8年前になるだろうか。こんな寂れた場所にある古本屋、たいしたコトないだろうとタカをくくって入ったら、狭い店なのに欲しい本がたくさんあって驚いたという記憶がある。このときは、『小酒井不木全集』(改造社)のバラを、一冊1000円以下でかなり買っている(こないだの整理で、大半売ってしまったが)。いまはどんな感じかな、とナカに入ると、雰囲気がまったく変わってない。大田区郷土史や、馬込ゆかりの作家の本など、いい本を安く置いている。棚の片隅に、見たことのある背表紙を発見。手に取ってみたら、エフ・スタール『山陽行脚 附東海道行脚』(金尾文淵堂、大正8年・第6版)だった。しかも1500円。おいおい、目録に出たら1万以上は軽くするぞ。持っている本ではあるが、コレはこのままにしておけない。室生朝子『大森 犀星 昭和』(リブロポート)500円、田村隆一『ウィスキー讃歌』(平凡社カラー新書)100円とともに購入。あとで見たら、室生朝子の本は献呈署名入りだった。店の規模や本の傾向は違うけど、なんとなく三宿の〈江口書店〉を思い出した。というか、初めて〈江口書店〉に行ったとき、「大森の外れにこんな感じの店があったなあ……」と思ったのだった。


バスに乗って、駅近くまで戻る。〈カツミ書房〉の1階で、山川方夫『トコという男』(早川書房)を見つける。こないだ、魚雷さんの家で牛イチローくんがこの本を見て、「これ、わりと見つけにくいですよね」と云ってた(ような気がする。別の本だったらゴメン)。値段を見ると500円。や、安い。会計をして、二階に上がる。ココはオール100円で、前に来たときは買いたい本がなかったので、期待しなかったのだが、八木義徳『家族のいる風景』(福武書店)、平野謙『現代の作家』(青木書店)、小林信彦『オヨヨ城の秘密』(晶文社)、鴨居羊子『のら猫トラトラ』(人文書院)と4冊も見つかってしまった。あとの2冊は「古書モクロー」で出そう。それにしても、今日はやたらとイイ本が安く見つかるなあ。あまり丹念に棚を見るほうじゃないので、掘り出し物に出会う能力は低いと自覚しているが、こないだ大量に処分して少し物欲が抜けたので、本のほうから寄ってきてくれたのか。それとも、関口良雄さんの仏前に手を合わせたお陰だろうか。


京浜東北線で有楽町へ。デジカメが壊れたので、〈ビックカメラ〉で新しいのを見繕う。昨夜、ネットで調べて、必要なスペックだけは書き出してあったので、店員をつかまえてそれに見合う条件のを教えてもらい、安いし使いやすそうだったので、すぐ購入。買い物の快感は、まるでナシ。日比谷線で入谷まで。降りるヒトがやたらいるなあ、と思ったら、今日から3日間、朝顔市が開催されるのだった。地上に出ると、交差点あたりにはヒトの波。それを避けて、浅草方向に歩く。ナニか食べておこうと思い、「大衆食堂」とのれんの出ている〈ふじ食堂〉へ。入った瞬間、カウンターしかなかったので、店を間違えたかと思う。店主はおばあさんで、常連の女性客が一人。おせじにも親しみやすい店ではない。焼き魚定食とか丼ものとか、ごくフツーのメニューだ。あとから、朝顔市帰りらしい夫婦が入ってきたが、壁のメニューを見渡して、夫が「行こう」と立ち上がって出て行った。まあ、たしかに落ち着ける店ではないが、注文せずに出て行くとは勇気あるなあ。ぼくの食べたカツ丼は、とき卵がまるで玉子焼きみたいに甘ったるかった。


8時前に〈なってるハウス〉へ。久しぶりに聴く、渡辺勝・川下直広デュオ。いつもとステージの方向が90度違っているので、とまどう。気まぐれなのか、ナニか理由があったのか。客は最初3人ほどだったが、エンテツさんが奥さんとやってきて、あとからも入って来たので、最終的には10人近かったのでは。この店にしては珍しい。珍しいといえば、演奏はいつものごとく1時間半ぶっ通しだったが、いつも以上にヨカッタ。前半ははじめて聴く曲が数曲、このあたりで気持ちよく眠り、目覚めたあたりで、おなじみの曲が次々と。ステージの方向が変わって、こちらの受け取り方が違ったセイか、今日は渡辺さんのボーカルも、川下さんのサックスも迫力があった。「東京」も「ベアトリ姐ちゃん」も、なんだか違う感じに聴こえたなあ。


終わってエンテツさんたちと、入谷方向に歩く。入谷の交差点から根岸の交差点にかけて、何百メートルも、朝顔の屋台(?)が出ている。店ごとに数百鉢置いているから、ぜんぶで何万鉢あるのか見当も付かない。種類もイロイロあって、店のおじさんやおばさんが「明日の朝はこんな花が咲きます」と、カラープリンタで出力したと思われる見本を手に持って説明してるのが可笑しかった。いつもは歩いていてつまらない大通りだが、今日はたちまち鶯谷に着いた。駅ホームでエンテツさんたちと別れ、西日暮里へ。ウチに帰ったら、ピエ・ブックスから『チェコマッチラベル』の著者贈呈本が届いていた。


昨日、知り合いの掲示板で見て知っていたが、今日の夕刊に、永島慎二さんの訃報が載っていた。まだ67歳だったのだ。「本とコンピュータ」で漫画を描いていただいたコトがあり、担当の松井さん(阿佐ヶ谷在住で、もともと永島さんと知り合いだった)と一緒に、展覧会を開催中の阿佐ヶ谷の喫茶店(パールセンターの洋品店の奥にある〈COBU〉)で、お会いした。そのあと、いまは亡き日本橋の〈丸善〉で、永島さんや長新太さんたちの「漫画家の絵本の会」のサイン会があり、そこでもお会いした。無口な長さんと、誰にでも気を使う永島さんのコンビが印象的だった。