物件ツアー・王子篇

朝、不動産屋に電話して、王子神谷の物件を見に行きたいと告げる。一昨日、旬公が根津の不動産屋で発見して、あまりの広さに仰天して、その場でぼくに電話してきたものだ。いますぐ引越しするのはムリだけど、ほかと比較する上でも見ておこうかというコトになったのだ。車で送ってくれるというので、西日暮里駅の近くで待っていると、不動産屋のおじさん登場。自動スライドドア付きの車に乗せてもらう。


明治通りに出て、田端新町を通る。ときどき行く〈神谷酒場〉のあたりで、おじさんが「このあたりには昔は工業機械の店がたくさんあったんだよ。近くに町工場が多かったから」と教えてくれる。そうだったのか。自転車で通ったときに、ナニに使うのかよくワカラナイ機械が置いてある店が数軒あり、不思議に思っていた。そのあと尾久を通り、王子に出る。車だと15分ぐらいだ。おじさんの実家は、王子の商店街のジーンズ屋であり、だからこの辺の物件をよく扱っているのだとか。


北本通りという大きな道に、バイクの修理工場とかがある私道があり、その奥に、めざすマンションの入口があった。同じオーナーによる建物が、この私道の周囲にいくつかあるらしい。マンションとはいっても40年ほど前にできたというガッシリしたもので、「ビル」と云うほうがふさわしい。見に行く部屋は5階なのだが、エレベーターがない。ただ、階段は広くて、ゆるやかなので、上るのはさほどタイヘンではなかった。部屋は、台所にリビング、4畳半2つに6畳が1つという構成で、玄関の廊下も広く、収納も多い。日当たりも風通しもイイ。古い建物なので、ガラス戸には網戸が付けられなかったり、トイレが和式だったり、シャワーがなかったりして、そのコトがこの部屋が1年も空いている原因らしいのだが、もともと古いことがキライではない我々としては、それはさほどのマイナス要因にはならない。


部屋を出て、下の階に降りたら、おじさんが「こっちからも行けるよ」と案内する。奥に進むと、我々が見た部屋よりも小さい部屋がたくさんある。大きな部屋と独身者用のエリアが区切られたようになっているので、以前見た、雑司が谷同潤会アパートを思い出した。もちろん、時代はまったく違うのだけど。その先、ビルとビルの間にすごく狭い道があり、そこが大通りに出る通路なのだった。なんか、迷路を通っているような感覚。なかなか気に入ったけど、周囲の環境が、いまいる辺りに較べて、あまりにも殺風景なのがちょっとなあ。


おじさんと別れたあと、南北線王子神谷駅まで歩く。駅の隣に〈文教堂書店〉があったので、一回り。まあ、ドコにでもある文教堂だが、あれば便利だろう。海野弘さんの「読書きのうきょう」(『古本道場』も登場)が載っている『論座』7月号を買う。また、さっきのビルの前まで戻り、今度はJR王子駅方向へ歩く。こちらは12、13分かかる。400メートルほど先に、北区の中央図書館があり、トタンに色めき立つ。ただし、ココには以前来たコトがあるが、使いやすい図書館だという記憶はない。カウンターで「館内でパソコンは使えますか?」と訊くと、「バッテリーなら……」とのこと。そりゃ、アタリマエだ。荒川区台東区の図書館のほうが進んでいる。でもまあ、近くに大きな図書館があるとは安心だ。などと、まだココに引越すことを決めたわけでもないのに、本屋と図書館のことばかり気にしているのであった(ちなみにブックオフはありません)。


王子駅前の寿司屋で、ランチのマグロたたき丼。あっさりした味でウマイ。京浜東北線で田端、山手線に乗り換えて西日暮里へ。ウチに帰ると、PARCO出版から近代ナリコさんの『インテリア・オブ・ミー 女の子とモダンにまつわるあれこれ』が届いていた。『modern juice』掲載のものを中心に、雑誌・ミニコミに載った文章をまとめている。目次を見ると、その並べ方に、読みたいという気にさせられた。本文を開き、文字の多さに、コレはいいぞと思う。いまどきは、ビジュアルが主で、文章は従というエッセイ本が多いからねえ。ナリコさんはかなり意図的に図版をあまり載せず、東山聡(『modern juice』のイラストも描いている)のイラストをはさむことで、この本の統一的イメージをつくりあげていると思う。300ページ近くある厚さもウレシイ。ナカには、『modern juice』extra issue(6ページ)やオリジナル栞が挟みこまれている。


夕方、散歩に出かける。すずらん通りの〈ヴァルガー〉でコーヒー。〈ブックオフ〉で、十返千鶴子『ひとり暮らしの老いじたく』(海竜社)を105円で。〈往来堂書店〉では、資料本と、保坂和志『小説の自由』(新潮社)、『PLAYBOY』8月号。後者は開高健特集で、『洋酒天国』を模した小冊子『開高天国』が挟み込まれている。表紙やイラストは柳原良平。目次をよく見ると、「編集協力 DANぼ」とある。田端ヒロアキくんの会社だ。『洋酒天国』の現代版をつくりたいと前から云ってたから、やったじゃん、と思う。偶然だが、近代さんも田端くんも、以前『ミニコミ魂』を一緒につくった仲間である。〈NOMAD〉に預け物をし、谷中銀座で買い物をして帰る。晩飯は、ドライカレー。