西荻で、はじめてのお店へ

今日も暑いし、蒸すなあ。布団乾燥機をかけて、旬公と出かける。日暮里の初音小路入口にある〈一力〉で、ラーメンとギョーザ。ごくフツーの飽きないラーメンだ。小沢信男さんのお宅に寄り、アメリカ土産(ターキーのジャーキー)を渡す。千代田線で新御茶ノ水へ。ホームで前を歩いている、見事な体格の白人の男が、一緒に連れていた小さな娘をひょいと抱き上げた。大と小の対比がおもしろくて、しばらく眺めてしまった。日本人の親子だと、あそこまでの差にはなりにくい。


中央線で荻窪乗換え、西荻窪で降りる。南口に新しくできた〈にわとり文庫〉へ。この辺りは、中古レコード屋や古着屋、〈又右衛門〉というジャズバーなどがあって、西荻に澄んでいた頃、ワリとよく来たものだ。もうちょっと行くと、貸本屋もあった。〈にわとり文庫〉は、開業案内のハガキや知り合いのハナシから、「オンナコドモ」テイストの店なのかと思っていた。実際、入口のところはそういうカンジがあるが、奥に入ると、文学史や歴史の本も置いてあった。狭いけど、よく本が揃っているなという印象。


こないだの「月曜倶楽部」の目録に出ていた、『月刊小説エンペラー』創刊号(1977年10月)を出してもらう。モノクログラビアの「仕事場拝見」は都筑道夫(小説も)、田中小実昌「板敷川の湯宿」、阿佐田哲也のエッセイ。こないだ読んで笑った、『芥川賞直木賞のとり方』の著者、百々由紀男も「食べ歩紀行」という記事を書いている(つまんないんだ、コレが)。女優・沖山秀子の小説なんてのも載っている。いかにも売れそうもなかった雑誌だ。ここまでショボイと、古書展などでメッタに見つからないだろうからと、買っておく。3150円。


北口に出て、〈三月の羊〉へ。ここのセリザワさんが、「不忍ブックストリートMAP」を置きたいとメールをくださり、郵送したコトがある。セリザワさんは、「ほんだな」という書評対決(二人がそれぞれ気に入った本を書評する)サイト(http://www.geocities.jp/hondananandana/)もやっている。道路からちょっと奥まったところにある、パンと喫茶の店。パンも菓子も手づくり。羊のカタチをしたパンもあった。入口のところには、村山知義らの絵本を販売するコーナーもある。小さくて、なかなか落ち着く店。喫茶スペースは女の子で埋まっている。奥のテーブル(ちょっと隠れスペースみたいでイイ)に座り、コーヒーと羊プリン、タルトを。どれも美味しかった。また来よう。


音羽館〉に行くと、奥園さんが「どこかで見た本あるんじゃないですか?」と云う。それもそのハズ、今月はじめに、セドロー牛イチローコンビに処分を依頼した本は、市場に出品され、そのうちの数口を音羽館が落札してくれたのだった(あとで控えを見たら、6本口ぐらい)。一時的に、自分の本棚がコッチに移動してきたかのような、妙な気分。堀切直人『目覚まし草』(沖積舎)1200円を買う。店の外で、広瀬さんと立ち話。彼らが計画中のイベントについて。


電車に乗って、ウチに帰る。乾燥されてふかふかになった布団で、しばしまどろむ。笙野頼子『徹底抗戦!文士の森 実録純文学闘争十四年史』(河出書房新社)を読了。400ページ以上あるのだが、面白くて面白くて一気に、とは残念ながらいかなかった。前著『ドン・キホーテの「論争」』から、笙野の「論争」がドコに向かっていたのかが主な興味だったのだが、肝心の大塚英志批判が、どの文章でもほぼ同じことの繰り返し(さまざまな文体、構成で執拗に書き続ける執念には驚嘆するものの)なので、途中で飽きてしまった。ただし、43ページの図版はスゴイぞ。冒頭に「ちょっと根本敬先生の人間観察みたいになっちゃった」とあるのが、うなずける。


冷蔵庫の残りで適当に晩飯。旬公がアメリカで買ってきた、オーストリッチ(ダチョウ)のジャーキーを食べる。わりと柔らかく、食べやすい。そのあと、片づけやらなにやらで、たちまち1時過ぎる。先日、「BOOKMANの会」の藤田晋也さんから、彼が〈駒書林〉という名前で出版した、杉浦幸雄の漫画エッセイ『おいしいネ』(B5判、168ページ、2800円)が送られてきた。昨年93歳で亡くなった漫画家・杉浦幸雄が、晩年に『四季の味』に連載した、食についての漫画漫文。レストラン、料亭、居酒屋、家庭の味などについて。このヒトのヒトコマ漫画が好きかと問われれば、うーんと唸るしかないが。附録として、加藤芳郎小島功夏目房之介らによる追悼文を再録した小冊子が付いている。ぼくよりずっと若いのに、昭和30年に生きてるような青年・藤田くんらしい、落ち着いて行き届いた本づくりである。まあ、あまりにも古めかしい感じなので、新刊としてはちょっとソンしてるかなと思うのだが(古本屋に並べばちょうどイイ?)。