稲垣書店が復活!

午前中、「はてな」の日記のテキストを整理する。昨年の6月27日から一昨日までの三百数十日の日記を、単純に計算したら、52万字になった。あまりの分量でファイルが重いらしく、Wordで読み込むのに時間がかかってします。いままで黙っていたが、この日記は右文書院から単行本として出るコトが、昨年末にはすでに決まっていた。しかし、その時点で10万字以上あるテキストを、どう再編集したらいいのか判らず、正直、手をつけかねていた。そうこうするウチに、右文書院からは、ぼくの知り合いの本の企画が次々に決まっていき、周回遅れになりつつある。一方で、日が経つということはそれだけ日記の記述も増えるというコトであり、気がつけば52万字なのであった。自業自得です。


ビジュアル本の4色ページ前半部分の初校が、宅急便で到着。この部分は編集者とデザイナーの手になるものなので、一読者として楽しんでしまう。キレイな本ですよ、コレは。昼は旬公と田端の〈がらんす〉へ。ハヤシライスを食べる。そのあと、印鑑・名刺の店に行き、名刺の印刷を頼むが、持参したCD-ROMが開かないといわれて、ガックリ。この手の店は、いまはほとんどWindowsのマシンだけで仕事している。


自転車で出て、三河島駅のほうへ。〈稲垣書店〉の前を通りすぎたら、いつもは閉まっているシャッターが開いている。慌てて引き返し、店の前にいた奥さんに「やってますか」と訊くと、営業しているという。つい最近、土日の昼間だけ、店を開けるようになったそうだ。昨年、『日本古書通信』に目録が出たり、〈オヨヨ書林〉でご主人の中山信如さん(『古本屋「シネブック」漫歩』『古本屋おやじ』の著者)にお目にかかり、お体がだいぶ復調されたように感じていた。たぶん二年ぶりの店内は、相変わらず映画本と映画雑誌がギッシリ。以前は目に入らなかった、古本に関する本もけっこう数があった。文庫も中公とかちくまとかの、わりとレアな本が安く出ている。いろいろ買い込みたくなるが、グッとガマンして、田中小実昌『ぼくの初体験』(青樹社)、小林信彦対談集『映画につれてって』(キネマ旬報社)の2冊だけ買う。どっちも1000円。奥にご主人がいらっしゃる気配だったけど、今日は挨拶せずに店を出る。近くなので、また来よう。


三河島の不動産屋を覗く。今年は収入が激減するので、秋までにもっと安いマンションに引っ越そうと思い、ココのところ、不動産屋の貼り紙を見て回っているのだ。賃貸物件を探す嗅覚を持っている旬公(この辺で数人の住まいを見つけてあげている)によれば、やはり谷中・西日暮里は高いそうだ。谷根千地域に比較的近くて、安いところといえば、三河島・三ノ輪・南千住あたりか。幸いその辺りは、最近ぼくがしょっちゅう足を運んでいるので土地鑑がある、という利点もある。


三ノ輪に出て、根岸図書館へ。『新潮』7月号の坪内祐三谷沢永一対談「雑書宇宙を探検して」をコピーする。谷沢著『遊星群』(和泉書院)で紹介されている明治・大正の雑書をめぐっての対談。ぼくはこの本の大正篇だけ買っているが、数ページ拾い読みしただけだ。この対談を読んだら、きっと本のほうも読みたくなるだろうな。三ノ輪駅前の不動産屋を2軒回り、店に入って、間取り図を何枚かもらってくる。いくつか安い物件があった。〈遠太〉でチューハイ。今日はカウンターは満員だった。おじさんが亡くなって、おばさんが一人でやるようになってから、定食がメニューから消えたのは残念。帰りに、最近お気に入りの仲町商店街で、今晩のおかずや野菜を買って帰ってくる。ここはナニを買っても単価が安いので、ぼくのナカの主婦的な部分が活動的になる。ウチに帰り、しばらく本を読む。晩飯は、惣菜のブリの照り焼き、コロッケ、冷奴、キャベツの味噌汁、そしてホーレンソウのおしたし。賑やかな食卓でイイねえ。


ビデオで《ハート・オブ・ダークネス コッポラの黙示録》(1991、米)を観る。コッポラの映画《地獄の黙示録》のドキュメンタリーで、奥さんが回していた記録フィルムがもとになっている。ヘタすると本編よりもオモシロイぞ、これは。文明の国からやってきたアメリカ人たちが、原始のアジアに入り込むにつれて、正気を失っていくという《地獄の黙示録》の構図が、そのまま撮影の現場に当てはまる。超過する予算、絶え間なく改変されるシナリオ、主役の交代(ハーヴェイ・カイテルだったが、撮影一日目で降ろされ、マーティン・シーンに)、ヤクでトリップしながら演技する役者、ゲリラ掃討と掛け持ちの空軍ヘリコプター、台風。すべてが過剰で、狂っている。何度かの中断を経て、やっと最後のシーンにたどり着いたら、カーツ役のマーロン・ブランドは太ってるわ、原作は読んでないわ、というのには笑った。コッポラは何度も行き詰り、自殺を考える。「すべてが民主化されている現代で真の独裁者たりうる職業は、たぶん映画監督だけだろう」と、コッポラは云うが、こんなにツライ思いをするなら、独裁者なんてなりたくはない。


調べてみると、奥さんのエレノア・コッポラが『「地獄の黙示録」撮影全記録(ノーツ)』(小学館文庫)という本を出していた。読んでみよう。大岡昇平の『成城だより』でも、《地獄の黙示録》公開当時にあれこれ書いている(主に原作のコンラッド『闇の奥』との比較)。あと、今度は完成されなかった映画のドキュメンタリーとして、テリー・ギリアムの《ロスト・イン・ラ・マンチャ》を観てみたい。