「公開魂」と赤塚不二夫本

一昨日、昨日あたりに、『季刊・本とコンピュータ』最終号が関係者の手元に届き、書店にも並び始めたらしく、いろんなヒトがブログで触れたり、ぼくにメールしてくれたりしている。いちいち紹介はしませんが、ぜんぶ読んでいます。


午前中に仕事場へ。データの整理をはじめるが、なにしろ8年分も蓄積されているので、ナニを消してナニを残せばいいのか、アタマが痛い。その合間に、ビジュアル本のゲラを確認する。未着だった翻訳も3本届いたので、一気に手を入れてしまう。メールで送ると、30分後にはゲラになってファクスで送られてくる。すげえスピードだなあ。『週刊朝日』のSさんから電話。原稿を依頼された。


出版ニュース』6月中旬号の「書きたいテーマ・出したい本」の編集出版組織体アセテート中谷礼仁さんが登場。肩書きは「建築史・素人出版運動主宰者」だ。短い字数で、アセテートの方針がはっきり打ち出されている。中谷さんは自分の出す本を「デモ本」と位置づけ、これらの本に目をつけた出版社が「プロの手さばきで永遠に残るような書籍」として出版するコトを歓迎する。その例として、『近世建築論集』(一度品切れになったが、つい先日増刷した)に収録した18、19世紀の建築技術書の原本を「大判」で「克明に復刻」することを提案している。なぜなら、

それを丹念に読み解くことで、彼らがもっていた高度な技術、国際的情報、センスが浮き彫りにされます。そして何よりも彼ら自身の研究成果に対する熱い公開魂が伝わってきて胸を打ちます。本を作るということは、公共的なものだと感じずにはおれません。


「公開魂」というのがイイではないか。そして、中谷氏はこう続ける。

またアセテートでは今後羽ばたくであろう研究者達をなるべく紹介しようとしています。ぜひともホームページを訪れ、あるいはデモ本を購入され、ご検討の一助にしていただければ望外の喜びです。


つまり、中谷さん自身も熱い「公開魂」の持ち主なのであった。そういえば、『本コ』最終号のぼくのルポで紹介した三人の出版者は、みんな「公開魂」を持っているトコロが共通している。今後のぼくは、「公開魂」あるいは「公共」としての「出版」と、ビジネスとしての「出版」の結節点を求めて、いろいろとあがくコトになるだろう。ところで、『出版ニュース』は、ニュースやコラムに読みどころの多い雑誌であり、統計などのデータも使える。仕事場で定期購読していたので毎号チェックしていたのだが、今後は常備している図書館を探さねば(もしくは、結構高いけど、頑張って個人で定期購読するか……)。


5時に仕事場を出る。一日中雨が降っているし、蒸し蒸ししている。今日から梅雨に入ったそうだ。新宿三丁目で降りて、〈紀伊國屋書店〉で武居俊樹赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』(文藝春秋)を買う。向かいの〈TSUTAYA〉でビデオを数本借りる。こないだ来たハガキを見せると、旧作は半額で借りれた。


電車の中で、『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』を読みはじめると、オモシロくなり、ウチに帰っても読み続ける。赤塚不二夫の周辺にいたヒトの手記としては、昨年、長谷邦夫の『漫画に愛を叫んだ男たち』(清流出版)があるが、武居は赤塚に似てハチャメチャ、長谷はマジメで理知的と正反対なので、両書を読み比べるとおもしろい。興味深いエピソードを羅列しておく。
★98、114ページ 秋田書店の編集者・壁村耐三が出てくる。このヒトが酔っ払って、完成したばかりの手塚治虫の原稿を、本人の目の前で破いたというのだ。ひえー。この壁村氏は、吾妻ひでお失踪日記』(イースト・プレス)にも、大酒飲みで性格破綻の編集者として出てくる。
★161ページ 長谷本にも書かれているが、『もーれつア太郎』の「ニャロメ」は、タイガー立石(好きなんです)が使っていた表現をいただいたものだ。
★186ページ あだち充と武居の関係や、フジオ・プロのチーフアシスタントだった兄のあだち勉のことは、宇都宮滋一『「ダメ!」と言われてメガヒット』(東邦出版)に詳しいのだが、こないだ処分してしまった。


ハガキで、新しい古本屋のオープンの知らせが。自由が丘の東京書房にいた方が独立して、6月16日から西荻窪で〈にわとり文庫〉という店を構えるそうだ(西荻窪3−17−5 電話03-3247-3054)。「古書漫画、SF、探偵、少年少女もの、絵本、イラスト(略)その他ステキbooks!」を扱うという。古本屋激戦区の西荻だが、ジャンルに特化した店は案外少ないから、おもしろいかも。年内に自家目録も出すそうだ。行ってみるか。


テキトーに晩飯をつくり、食べながら、DVDで《ザ・プロフェッショナル》(2001、米)を観る。20分ほど経って気づいたが、コレ、以前に観ていた。2回でもゼンゼン飽きない。犯罪ものとしてはさほどハデなシーンはないのだが、心理戦だけでじっくり見せてくれる。ジーン・ハックマン、ダニー・デビードらオヤジどもが最高。生意気な若僧(サム・ロックウェル)が何度もイビられると、なんだか爽快だった。