東京スムース友の会、盛況のうちに終了

12時頃ウチを出て、東京古書会館の「アンダーグランド・ブック・カフェ」へ。2階でやっている「1920−30年代の装丁」展を覗き、地下の古書展へ。もう5回目(早いなあ)なので、客の入りが安定してしてきたのではないか。林哲夫さん、〈タコシェ〉の中山さん、〈リコシェ〉の阿部さん、帰山健一さん、林武二郎さん(「sumus」愛読者)などとお話しする。帰山さんから、着物の女性を紹介される。「書皮友好協会みさきたまゑさんです」。おお、これがみさきさんか。手紙やメールで7、8年やり取りしていたのだが、お会いするのは今日がはじめて。もっとも向こうは、旬公のイラストとコミさんの帽子を見て、一発でワカッタそうである。みさきさんは、このあとの友の会にも出席してくれた。お茶の水の〈ディスクユニオン〉に寄り、明治大学の前まで来ると扉野良人さんに会う。コレから古書会館へ行くという。明治大学の前を通ったら、掲示板に「尾佐竹猛展」のポスターが。大学会館のロビーでやっているらしいが、今日は閉館で残念。今度見に来よう。


1時半に「東京スムース友の会」会場の、南欧料理〈Ole Ole(オーレ・オーレ)〉へ。幹事役の荻原魚雷さんが先に来ていた。まだランチの客が残っているので、先に打ち合わせ。20分前になったので、そろそろ準備するかと思ったら、〈聖智文庫〉の有馬さんが荷物を持っていらっしゃり、いろいろ説明され、その隙に、セドロー、ハルミン、牛イチローのトリオが入ってきた。その直後、会費を徴収する体勢をつくる間もなく、ドッと人々が入ってくる。こういうときにウマくさばければイイのだけど、段取りを忘れてしまって困る。あと、久しぶりに会うヒトの顔を忘れてしまったり(ごめんなさい)。出席者は全部で38人。同人は林さん、岡崎さん、山本さん、扉野さん、魚雷さん。松本さんと生田さんは残念ながら欠席。


2時10分ぐらいにはほぼ全員集まり、林さんの乾杯でスタート。前半の司会はぼく、後半の司会は「人生初司会」だという魚雷さん。まず、「スムースのつくりかた」。こないだ林さんが『CABIN』に書いたエッセイを軸に、同人おのおのがスムースとの関わりを語った。歓談に移って、料理を取りに行ったり、ワインを飲んだり。ぼくの隣に座った井上さんという女性は、大学四年生で本関係の仕事めざして就職活動中だそうだ。「いつもこんなにたくさん集まるんですか?」と訊かれたが、いつももナニも東京でこんな会やるのは初めてだと云ったら、驚いていた。古書会館で出番がある林さんが先に退場。出席者に自己紹介してもらう。マイクが1本しかないので、前まで来てもらった。みんな、いろんなしかたで「sumus」に接しているんだなというコトが判り、オモシロかった。ココまでで3時半。時間が押してきたので、すぐ次に移る。


今日のメインイベントとも云える「岡崎 vs 山本 古本十番勝負」。〈均一〉対〈赤貧〉のプライドを賭けた対決だ。前回は僅差で岡崎さんが勝った。山本さんは「アウェイでリベンジだ」といきまいている。今回は上限を500円に設定し、岡崎さんのセコンドを牛イチロー立石書店の岡島くん)、山本さんのセコンドをセドローくんがつとめる。山本さんに「やりますよ」と声をかけたのだが、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と検討している。ドコから来るのか、その情熱は。方法は簡単で、スケッチブックに自分が買った本を一冊ずつ書き、順番に出し合い、「どっちがスゴイか」を競い合うというもの。判定はお客さんの挙手で、もと日本野鳥の会所属というキャリアを生かして(ウソ)、魚雷さんが計算する。さて、その結果は……(以下、二人から預かったスケッチブックを書き写します)。


★第一回戦
先行・岡崎は、高田渡詩集『個人的な理由』200円。後攻・山本は、荒川洋治『チューリップ時代』てらむら刊。500円。11歳からの未刊詩篇高田渡への追悼と、明日UBCで講演する荒川さんの対決。結果は11人対15人で、山本さんの勝利。挙手した人数を足したら出席者より少ないので、もと日本野鳥の会の魚雷さんに「数合ってます? まあイイか、テキトーで」と云ったら、山本さんから「テキトーはアカンよ」と怒られる。でも、人数多くて数え切れなかったです。

★第二回戦
先行・山本は、小林信彦『東京のロビンソン・クルーソー』。なんと200円。対して後攻・岡崎は、白石かずこ『恋に日曜日はないの』。フォアレディース・シリーズ、四谷シモン宛サイン入り。これも200円。結果は岡崎圧勝。『東京のロビンソン・クルーソー』は、ヘタすると200円の100倍近くの値段が付いている。これで負けるところが、この勝負がいかにレベルが高いかの証拠だ。

★第三回戦
先行・岡崎は、タモリ高平哲郎・赤塚不二雄『空飛ぶかくし芸』。100円。後攻・山本は、真鍋博『愛媛の昔語り』朝日出版社、昭和35。堀内誠一装幀。500円。『空飛ぶかくし芸』は、住宅新報社というヘンな版元から出た本で、筒井康隆山下洋輔奥成達全冷中の『空飛ぶ冷し中華』も出している。奥成達原理主義者のぼくとしては、当然前者に挙手したが、賛同者はほかにわずか2人。真鍋博の珍しい本に人気が集中した。山本勝利。

★第四回戦
先行・山本は、多木浩二中平卓馬『まずたしからしさのせかいをすてろ』田畑書店、1979。500円。後攻・岡崎は、真鍋博『線の画集』三条「ブ」にて300円。先の山本への「真鍋返し」に加え、山本の本拠地である「三条ブックオフ」で見つけたことのインパクトが強く、ほぼ全員が岡崎に挙手。岡崎勝利。ここまでで2対2。

★第五回戦
先行・岡崎は、宮尾しげを・絵の講談社の絵本『一休さん』昭和28。200円。後攻・山本は、ミシェル・フーコー『言葉と物』100円。あの厚い本を、しかも函入りでどうやって100円で……。さわやかに「読んでません!」と云いきる山本。しかし、結果は16人対13人で、岡崎勝利。

★第六回戦
先行・山本は、開高健『日本人の遊び場』昭和38。初版・サイン入り。100円。後攻・岡崎は、『中上健次全短篇小説』河出書房新社。定価9800円、ネット価格8000円を105円。山本はサイン入りを強調(すかさず、岡崎から「でも、カバー欠やろ」とツッコミが入る。なぜ知ってる?)。山本セコンドのセドローは「角田さんもファンですよ!」と檄を飛ばす。対して、岡崎はあんな厚い本を105円でと強調するが、山本に「それをUBCの会場で◎◎円で売っとるよ」とバラされる。結果は21人対7人で山本勝利。

★第七回戦
先行・岡崎は、フランソワーズ・サガン『一年ののち』新潮社、昭和33。105円。後攻・山本は、小林秀雄私小説論』作品社、昭和11。300円。岡崎は、映画『ジョゼと虎と魚たち』で池脇千鶴がこの本を読んでいる、というネタで押しまくるも、池脇千鶴を知らない客が多かったせいか、11人対16人で小林秀雄に負けた。山本勝利で、4対3。

★第八回戦
先行・山本は、坂口安吾『爐辺夜話集』スタイル社、昭和16。200円。後攻・岡崎は、藤子不二雄『マリナちゃん』500円。岡崎は「『まんが道』で、二人が全社の原稿を落とす話しがあったやろ、あれで仕事を干された二人が再起して最初に出した本がこれや。単行本未収録の作品も入っている!」というネタで、宇野千代のスタイル社から出た本を圧倒。マリナちゃん17人、チヨちゃん(安吾)11人で、岡崎勝利。

★第九回戦
先行・岡崎は、永田耕衣句集『殺祖』昭和56。500部限定、署名入り。ネットで識語入りなら1万1000円のところ、300円。後攻・山本は、松崎天民『旅行気分』金龍堂、大正15。200円。前者もすごいが、大正末の天民の本が200円とは……。4人対20人で、山本勝利。

★第十回戦(最終戦
先行・山本は、大下宇陀児『魔法街』世界社、昭和22。山名文夫装幀。100円。後攻・岡崎は、内田百問(門がまえに月)『王様の背中』。谷中安規装幀。ほるぷ復刻。200円。山本の本を見るや、岡崎は「これは負けた……」とつぶやく。それほど、この本は強力だった。22人対3人で、山本勝利。


という熱い戦いの結果、6対4で山本善行さんの勝利。その瞬間、山本さんはセコンドのセドローくんに抱きついていた。ホントに嬉しそう。みんな、珍しいものを見た、という風情で、一種異様な感動を味わっているようだ(二十歳そこそこの若いコたちに、山本さんがどう見えたのか、とても知りたい)。そのあと、オークション。聖智文庫さんが『ARE』と『sumus』のバックナンバーなどを出してくださり、盛り上がる。岡崎、扉野、魚雷、南陀楼も少しずつ出す。ココまでで4時25分。駆け足のような時間だった。最後に山本さんにシメてもらい、会を終える。幹事役だったので、出席された皆さんとホトンド話せなかったのは残念。岡山からいらっしゃった志村知彦さんに、いま岡山県立美術館で開催中の「燐票大展覧会 マッチラベルのシンセカイ」の図録を頂戴した。ありがとうございます。


終ってから、山本、扉野、魚雷、セドローイチロー、ハルミン、〈ぶらじる〉の竹内さんで〈シャノアール〉でうだうだ話。「古本十番勝負」だけを独立したイベントにして、各地を興行して回る計画(妄想?)など。いや、マジで行けるかもしれん。「ウチの街でやってほしい」という方がいらっしゃったら、企画してください。京都と東京ではやったから、次は名古屋で戦うか。みんなはUBCの角田光代さんと岡崎さんの対談に行くが、ぼくは失礼してウチに帰る。角田さんにお会いしたいけど、仕事が終ってないのだ。


昼間に買った、電気グルーヴスチャダラパー[twilight]を聴く。ジャケットから名曲[虹]のようにメロディアスな曲を連想したが、そうではなかった。しかし、これはこれでイイ。原稿をいじったり、メールしていると旬公が帰ってくる。ビデオ屋で《インファナル・アフェアⅡ 無間序曲》を借りてきて観る。1作目の時期よりも遡り、トニー・レオンアンディ・ラウを若い役者が演じるというので、あまり期待してなかったけど、オモシロイ! 警部役のアンソニー・ウォンとサム役のエリック・ツァンの二大オヤジが最高だった。観終わったら2時。楽しかったけど、疲れた。


最後に出席された方にご連絡。お店に帽子の忘れ物がありました。「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」のキャップで、入口から右手奥のテーブルに落ちていたそうです。南陀楼が預かっていますので、お心当たりのある方は、メールでご連絡ください。……今日の日記は長いなあ。「十番勝負」の経過を書くだけで、1時間掛かってしまった。