映画のことだけで一日が終わった

今日は午後から出ればよいので、久しぶりに〈世田谷文学館〉(http://www.setabun.or.jp/)に行くコトにした。旬公もついてくる。山手線で新宿まで行く。駒込駅のホームに〈しもふり皮膚科〉という看板広告が。創設者が「しもふり」さんと云うのだろうか。院長は別の名前になってるけど……。あとでネットで検索したら(ヒマですな)、「霜降橋交差点」にあるから、この名前なんだとか。納得。


京王線の各停で芦花公園まで。歩いて5分で文学館に到着。まず一階の「生誕100年 映画監督・成瀬巳喜男」展を見る。出品物はシナリオや新聞の切り抜き、スクラップブックなどの紙資料が中心。成瀬の映画を数多くプロデュースした東宝藤本真澄が、明治製菓に勤務していた時期(かその後に)、映画人に自分の事務所を開放し、それが「スタヂオF」と呼ばれたというコトは初めて知った。圧巻は《浮雲》のセットの再現。美術監督の中古智のスケッチや図面をもとに、当時の美術助手が現物に近いかたちでつくったもの。もし、東宝におカネとやる気があれば、成瀬や黒澤映画のセットを再現したテーマパークをつくってほしい。ディズニーとかユニバーサルとか云ってないでさ。


次に二階で常設展示を見る。奥の方で、小さな企画展「よみがえる横溝正史」をやっている。神戸時代から晩年まで交流のあった西田政治氏(『子不語の夢 江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集』にも登場する)とやりとりした書簡が中心だ。あと、横溝映画のポスターや、横溝の作品をフィーチャーした角川文庫のポスターも掲示されている。ある角川のポスターは、作家が檻に入れられている(!)という奇抜なモノで、右に横溝、左に森村誠一が写っている。トコロが真ん中に座っているおじさんが誰なのか、表示がナイので判らないんだよなあ。たぶんみんなが知っている超大物だと思うんだけど(ひょっとして大藪春彦?)。恥を忍んでお尋ねしますが、ご存じの方はメール kawakami@honco.net で教えてください。


受付で、以前にやった「坂口安吾展」の図録(1000円)を買い、今回の成瀬展の図録はナイのかと尋ねると、いまリーフレットを作成中だと云う。できあがったら連絡してもらうことに。この館の隣に巨大な日本家屋があり、文学館のロビーからこの家の庭園を見ることができる。ナニも表示がなかったので、あとで調べても誰の邸宅か判らない。受付のお姉さんに訊けばヨカッタな(美人だったし)。そのあと、前にも行ったことがある、駅の近くの〈サン・マロー〉というレストランで、ハンバーグを食べる。ハンバーグの上にデミグラスソースをかけ、その上に半熟タマゴを封じ込めたフライ(?)が乗っている。いやー、ウマかった。笹塚で旬公と別れて、仕事場へ。


さっき世田谷文学館でもらった、いま〈イメージフォーラム〉で上映中の「日本映画:愛と青春 1965-1998」という特集のチラシがおもしろい。2005年から韓国で日本映画の「開放」が公にはじまったことを記念して、それ以前に製作され、これまで韓国では観られなかった「娯楽映画」作品を、昨年秋にソウルのシネコンで連続上映したのだという。そのセレクションがスゴイ。増村保造の《遊び》(1971)があったかと思えば、江崎実生の《女子学園 悪い遊び》(1970)がある。佐藤純彌新幹線大爆破》(1975)、小原宏裕《桃尻娘》(1978)もある。後藤久美子主演の《ラブ・ストーリーを君に》(1988)もある。メジャーからマイナーまで、メロドラマからピンク映画まで、無節操なほどに幅広い。今回の特集に入ってないが韓国では上映された作品も、山田洋次《なつかしい風来坊》(1966)、石井輝男《爆発!暴走遊戯》(1976)、井筒和幸《みゆき》(1983)。馬場康夫私をスキーに連れてって》(1987)と、アタマがクラクラしてくるセレクション。しかもコレが、日本の文化庁の主催というのにもビックリ。企画した文化部長の寺脇研は、超のつく映画マニアだと、ある新聞の記事にあった。ご本人のサイト(http://members.jcom.home.ne.jp/mutumituko/k-top.htm)を見たが、たしかにハンパじゃないマニアぶりだ。寺脇氏のように、後先考えずにやりたい方向へ突き進む(もちろん、実現可能なレベルに調整する力があってのことだが)人物がいてこそ、「官」が関わる文化イベントを成功させるコトができる。いや、恐れ入りました。


仕事場では今号の処理と、次号の準備。6時頃に出て、〈文教堂書店〉で『映画秘宝』を買ってウチに帰る。自転車で本駒込図書館へ。また数冊借りる。夜は、エドワード・ヤン楊徳昌)監督の《●(牛+古)嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件(1991)》を観る。ビデオで二巻組、4時間近くの作品なので、二日に分けてと思っていたが、最後まで観てしまう。最初の15分ぐらい夜のシーンが続き、誰が誰だか判らないが、そこを越えるとだんだんオモシロくなってくる。少年自身の懊悩と、彼の家族(とくに父)の抱える問題がパラレルに描かれ、「何か起きずには終らない」という気持ちにさせられる。いちいち説明をしないので、当時(1961年が時代設定)の台湾のチンピラがどういう存在だったのか、とか見ていてよく判らないところはあるが、静けさのナカにこめられた爆発寸前の怖さが、最初から最後まで画面にみなぎっていた。町の風景や、日本に酷似しながらもどこか違う台湾の家の内部に見入ったし、ラジオ・ナイフ・時計といった小道具の使い方にも感心した。そして、当時クーリンチェに数十軒あったという古本屋だが、2回だけ出てきた。夜店の屋台が通りの向こうまで続いている光景。学生が本を手にとって読んだり、ガキが「ポルノはない?」なんて云っている。一瞬、このときのこの場所に行ってみたい!と思った(ただし、ラストではこの場所で惨事が起きる)。観おわったら2時過ぎ。疲れた。


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