2年間寝かせたマズさ

「2年間じっと観察してきた某店」とは、千駄木すずらん通りにあるラーメン屋で、店名を〈亀七〉(仮名です)という。飲食街の入り口にあるにもかかわらず、そして、「主張のあるこだわりの店」ぽい外装にもかかわらず、創業以来、客が入っているのを見たのは、数えるほど。すりガラスの向こうでは、店主とおばさんが手持ち無沙汰にカウンターに座っている足が見える。いったいイツまでもつのだろう? と観察していたのだが、その一方で、「一度だけカネをドブに捨てる気持ちで入ってみよう」と話し合っていた。ナニがそこまで客を遠ざけるのか、知りたい気がして。


とはいえ、わざわざ入る気にはなかなかならず、今日まで過してきた。トコロが、今夜は旬公が極限まで腹が減っていて、「なんでも喰えそう」だという。じゃあ、試してみるかと入店。当然ながら、客はいない。しかし、グーゼンというのは恐ろしい。ぼくらが入った直後に、もう一人男が入ってきた。旬公はチャーシューメン、ぼくはラーメン、男はもやしそばを注文。相当長い時間、動きがなかったらしく、店主があわててスープやお湯に点火する気配。ドキドキしながら待つうち、到着。一口スープを啜る。おお、口の中に広がるこのヌルヌルとした感触は……ナニ? 麺を口にするが、味らしきものはない。唯一、味があったのはチャーシューだけ。旬公を見ると、しきりに首を振っていた。客が入らないのも納得のいくマズさである。2年間この味〈ともいえない何か〉を守ってきたとは、いや、恐れ入りました。ウチに帰り、お茶で口をゆすいで寝る。


朝は9時に起きて、10時過ぎに旬公と一緒に出かける。今日の「高円寺古書展」に明治期のボール表紙本が多く出ているからと、珍しく旬公主導で出かけたのだ。外台で、『アメリカ情報コレクション』(講談社現代新書)、『国文学 解釈と鑑賞』の読書論特集、『The 東京』(読売新聞社、1975)というムックを、200〜500円で。ナカに入ると、今年最初の古書展とあって、満員御礼。帳場の古本屋さんたちのいつものムダ話も、どことなく活気がある。3人も知り合いに会ってしまった。旬公は〈名雲書店〉が出している床の箱の前に座り込んで、和本や洋装本を漁っている。その脇で、『THE AMERICAN-HISPANO POCKET GUIDE OF THE WORLD’S FAIR 1893』という洋書を見つける。ニューヨークのKNOXという帽子屋が出したもので、前半は帽子のカタログ、後半は(おそらく)シカゴ博覧会の案内(英語とスペイン語)という構成。図版がたくさんあって楽しい。コレで500円は激安だった。旬公は銀行で金を下ろしてきて、かなりの金額の本を買っていた。ときどき行くジャズ喫茶〈naja〉で、コーヒー飲みながら、戦果を見せ合う。


そのあと、総武線御茶ノ水に行き、駿河台へ。〈ザ・ハンバーグ〉でハンバーグ定食を食べる。〈書肆アクセス〉に寄ったあと、今年1月3日にオープンした「神保町古書モール」へ。三省堂書店の隣のビルの5階にあり、〈かんたんむ〉がオーナーとなり、十数店が棚を借りて営業する(すずらん通りのかんたんむは閉店)。最初だからか、どの店もけっこう力を入れていて、ワリとオモシロイ。規模は違うけど、昨年まで古書会館の近くにあった〈草木堂書店〉を思い出した。〈とんぼ書林〉の出版関係のコーナーで、『首輪のない猟犬たち トップ屋』(産報)1000円を買う。旬公に付き合って〈三省堂書店〉にも行き、そこで別れて、一人でウチに帰る。


テレビをつけたら、NHKゴジラ映画の歴史をたどるドキュメンタリーをやっていて、思わず見入ってしまった。4時半頃にウチを出て、秋葉原乗換えで浅草橋へ。今夜はココで用事がある。……で、またしても夜の部の日記は明日に続く。