五反田、銀座、渋谷

朝9時に起きて、五反田へ。このところ雑用が多くて、古書展にあまり行けなかったし、ウチに届く古書目録も目を通していなかった。そうなると、やっぱりフラストレーションが起きる。古書展会場のあのなんともエグイ匂いを嗅ぎたくなるのだ。会場に着くと、二日目とあってヒトは少なめ。荻原魚雷さんに声掛けられる。1階では3、4冊買い、2階で、海野弘『千のチャイナタウン』(リブロポート)800円を見つける。あと、注文していた、安藤はる子『朝顔の苗 夕顔の苗 父安藤鶴夫の想い出』(論創社)1800円が当たっていた。もう一冊、『浅草染太郎の世界』(かのう書房)2000円も当たっていたが、困ったことに、じつはこないだ大阪の第三ビルで、1000円で見つけて買ってあったのだ。注文がダブって外れてくれないかな、といつもと逆のコトを思うが、そういうときに限って当たるんですな。


いつもの〈フレッシュネス・バーガー〉に行き、会場で買った『Rewind 1969-2004 東京古書組合南部支部設立35周年記念写真帖』(1000円)をパラパラ。以前の会館の写真や市の様子、南部支部の古本屋さんの写真など、見ていて飽きない。いまは無き〈山王書房〉や建て替える前の〈江口書店〉の店舗がこんな感じだったのか、とか、20年前のなないろさんはイマよりもずいぶんフツーに見える、とか。そのうち、魚雷さんが入ってきて、雑談。「書評のメルマガ」でやってもらっている「全著快読 古山高麗雄を読む」が来年の5月に完結するので、一冊にまとめて出版しようかと話す。自費制作の小冊子になるが、オモシロイ本になるのでは。しかし、もちろん商業出版で出せればそのほうがイイので、出したいという出版社があればぜひお申し出ください。


また山手線に乗り、新橋で降りる。銀座の展覧会を一気に見てまわろうという計画。まず、gggで開催中の「もうひとりの山名文夫」展。上は雑誌の原画、下は日本工房や戦後の仕事で構成されていた。『NIPPON』のためのタイポグラフィーやデザインと、日宣美のポスターがよかった。そのあと、ときどき行く〈とん銀〉でミックスフライ定食(ヒレ、エビ、カキ)1200円を食べ、紙百科ギャラリーでの「装幀研究者の個展 臼田捷治の魅せられたブックデザイン」へ。紙を販売しているフロアの奥のわずかなスペースでの展示なので、一人の装丁家につき一点、合計で50点程度しか展示されてないが、装丁家の個性が強く出た一冊を選んでいるので、見ていて楽しい。ぼくが気に入ったのは、真鍋博による山川方夫『日々の死』(平凡出版)と、中村とうようの自装本(タイトル失念)だった。来年1月にはトークショーもあり、朴訥で知られるあの「ウッスー」〈愛称です〉のトークがどんなものか、タイヘン興味があるので、ゼヒ行ってみよう。


そのあと、〈ハウス オブ シセイドウ〉での「山名文夫の世界 曲線のモダンガール」展に行こうとして、ハタを気づく。そういえば、資生堂ってドコにあるのか知らないぞ。銀座通りを適当に歩いていても見つからなかったので、gggに戻ってチラシをもらい、ようやく七丁目の並木通り沿いにあることを知る。展示は一階と二階。資生堂の広告イラストは一度、三島の資生堂企業資料館で見ているので新味はないが、油絵や晩年の私家版を見たのは初めて。500円でパンフを買うが、ペラペラですぐどこかに行ってしまいそうだ。二階には化粧品や銀座に関する本を並べた図書コーナーがあり、その場で閲覧できる。また、コンピュータでは資料館所蔵の本が検索でき、「閲覧不可」になってない本は、この図書コーナーに取り寄せて、閲覧できるという。一週間ぐらい待たなければならないけど、けっこう貴重なタイトルもヒットしたので、いつか使うかもしれない。


新橋まで戻り、銀座線で渋谷へ。やっぱりヒトが多い。〈ブックファースト〉で『映画秘宝』の新しいのや、「本コ」編集長の仲俣暁生の新刊『極西文学論』(晶文社〉などを買う。そのあと、東急文化村の裏のほうにある〈闘牛百科書店〉へ。例の中目黒発ヘンな名前系の古本屋。渋谷にはこの手の古本屋がないので、ときどき覗こう。文化村の地下のアート書店も見て、時間がつぶれたので、向いの〈シネ・ラ・セット〉へ。50人ぐらいのスペースで、前のほうには応接セットみたいな席がある。かえって落ち着かないのでは? 客は10人以下だった。


ココで《OLDK(オーエルディーケー)》という映画を観る。愛とエロスをテーマにした「ラブコレクション」シリーズの1本。監督の原正弘さんが「書評のメルマガ」の読者で、それでぼくに招待券を送ってくれたのだ。すぎむらしんいちのマンガ「OLDK築25歳」(短編集『ALL NUDE』に収録)を映画化したもので、主人公のOLの左右の部屋と上で巻き起こる騒音がエスカレートし、ついにカタストロフに至るまでを描く。原作はすっかり忘れていたが、コレってすぐむら版の筒井康隆「上下左右」だったんだな。映画はすぎむらマンガのテンションの高さをうまく映像化していたと思う。音の使い方もうまい。ぼくもアパートやマンションで、隣や下の騒音に悩まされた経験があるので、この音を聴いていて昔を思い出した。ただ、残念だったのは、これがDV(デジタルビデオ)作品だったこと。このシリーズ自体、全部DV撮影らしいし、予算上しかたないのかもしれないが、映像があまりにもフラットなカンジで、物語に入っていきにくかった(最後のほうではかなり慣れたが)。この館の予告編は、フィルムからDVに変換して掛けているのか(?)、ヒドイ画像だった。あれだったら、予告編なんて見せないほうがいい。


終って、渋谷駅から山手線で帰る。マンションの入口で旬公と一緒になった。いったん帰って、自転車で出かけ、生協で買い物。晩飯は旬公の豚肉丼(ミツバとノリを混ぜる)。DVDでチャールズ・ブロンソン主演《必殺マグナム》(1986)を。サイコっぽい殺し屋に追われるブロンソン。最後はきっちりカタをつける。原題は「MURPHY'S LAW」。主人公の名前がマーフィーで、いわゆる「マーフィーの法則」とは違う、「このオレさまの法則」を振りかざすコトに由来。マーフィーの法則って、アメリカではこの頃から流行ってたんだな。それにしても《必殺マグナム》というマヌケな邦題は最高である。


遅くなった「書評のメルマガ」をまとめる。大阪のチンこと前田和彦くんの「東京チン紀行」は最終回。今回はなんか過剰に私小説している。ぼくもそうだったからよく判るが、22歳というあたりは、自分が体験したことに必要以上の意味づけや思い入れを持ちたがるものだ。だから、まあしょうがないでしょう。そのあと、この日記を書いているが、今日はやたら長くなってしまった。こないだ、古くなった椅子(蝶番がコワレていて、毎日直しながら座っていた)を捨てて、小さな椅子に変えたのだが、長時間座っていると尻が痛くてたまらない。もう少しゆったりした椅子にしないと、仕事にならないなあ。