なんだか騒ぐぞ、疳の虫

昨夜は3時過ぎまで、2年前の領収書をひたすら電卓で足していた。次々に現れる「書籍代」という領収書。この年の書籍代の合計は、自分でもビックリする額になった。これはなんとも……。少し遅めに起きて、京浜東北線北浦和へ。東口の古本屋〈野出書店〉を覗き、尾崎一雄『懶い春』(六興出版社、昭和26)の函なし(?)を200円で見つける。これの並装本は持っているが、買っておく。西口からバスに乗って、埼玉大学へ。途中、「手打ち風ラーメン」という看板を見つけ、一瞬目を疑う。「手打ち風」って、どこまで手打ちなんだよ……。《虎ノ門》のしりとり名人戦で「マヌケなキャッチフレーズ」として出てきそうな感じだ。埼玉大の「共生社会研究センター」で資料を閲覧する。3時間ほど掛けて、いくつかチェック。パソコンを持ってきたので、作業がはかどる。


5時前にバスで、埼京線の南与野へ。バス停から駅までえらく歩かされる。風が強いので、木の葉が舞っていた。十条で降りる。〈ブックオフ〉とそのすぐ隣の古本屋を覗き、〈斎藤酒場〉へ。数年前から一度は行ってみたいと思っていたが、十条で降りる機会がなくて。店内は低いカウンターがつながっていて、みんな入れ込みで座っている。混んでくると、反対側にも客を座らせる。ビールと煮込み、ポテトサラダを頼む。つまみは200円が多い。隣のおじさんは初めてらしく、その隣のおじさん二人に「この店は気に入った」と話している。『東京人』を見てきたらしい。で、その向こうに常連らしい、髭生やした男(40ちょい過ぎか)が座った。


この男、フツーに酒やつまみ頼めばいいのに、店のオバサンになんかぐずぐず云ってるから妙だなあと思っていたら、さっきの『東京人』おやじに話しかけてきた。そこから、「庶民的な店はスバラシイ」とか「関東の人間は人情がある」とか、歯の浮くようなハナシがはじまった。こういうコトは、人生の年輪を経た地元のじいさんが云うからなんとなく説得力あるんであって、ナニを読んだか知らないが、物事の上っ面だけを舐めたような台詞を、初対面の相手に向ってトクトクと話すのには恐れ入った。しかもコイツ、おやじに向って酒の徳利を突きつけて、一杯献上ときたもんだ。おやじに「自分のペースで飲むから」と断られていたが。なんだか、すごくムカムカしてきて、読んでいた本を閉じて、勘定して外に出る。ぼくも、情報を得てココにやって来たわけだから、〈斎藤酒場〉の雰囲気に浸りたいという気持は否定しないが、それは一人で静かにやってほしい。


うーん、これじゃ収まらない。メシでも喰うかと、さっき目をつけておいた〈三忠食堂〉へ。入口にも店内の壁にも、思いっきりデカイ文字で書かれたメニューの紙が貼られていた。ウーロンハイでチーズ揚げを食べ、さて定食でも、と思っているところに、入ってきた男。店員に「牡蠣フライ定食とメンチ・コロッケ定食とどっちがオススメ?」なんて訊いている。てめー、自分で自分の食いたいモンぐらい決めろよ、とソイツのほうを見たら、なんとさっきの居酒屋ポエム野郎だった。さすがにこの店では、隣に客もいないから、話しかけてはいなかったが。目を合わせないようにして、豚汁(300円で豚肉たっぷり、ウマイ)、半ライス、しらすおろし(100円)を食べて、出る。イヤな再会だったなあ。しかし、十条の街は気に入った。また来よう。


埼京線で池袋へ。〈リブロ〉で今日のトークのチケットを受け取る。新刊売り場で、草森紳一荷風永代橋』(青土社)が並んでいた。800ページ以上ある、弁当箱みたいな本。装丁は井上洋介。すぐには取り掛かれないと思うが、やっぱり買ってしまった。7時前に8階のセミナールームへ。「編集者が語る人文書の現在」というトーク。退屈の極み。酒飲んでたせいもあって、前半は眠ってしまった。司会役の未来社の西谷氏が、あまり喋らないと云いつつ、どこに行くのかわからない長いハナシをしてから、出席の編集者にやっと振るので、やりとりもナニもあったもんじゃない。話題の順序も時間配分もヘタ。「もっと一般客が来ているかと思った」と云っていたが、客席が出版関係者ばかりだからこんなハナシで許されるので、一般客に伝わるようなトークになっているとはお世辞にも云えず。もっとも、出席した編集者のハナシは実体験だけにそれぞれ参考にはなる。東大出版会の羽鳥氏が、各社のPR誌で共通のテーマを決めて横断的な企画をやってみたい、と云っていたが、これはぜひ実現してほしい。


終ると同時にエレベーターで下りて、JRに乗り込む。ドアのあたりに立っていたら、ガムでも噛んでいるのかクチャクチャ口を鳴らしている男がいて、妙に気に障る。西日暮里に着いて、やっとこの音から逃れられると降りたら、そいつも降りて、後ろでまたクチャ音がしていたのにイラつく。なんか今日は疳の虫が騒いでるみたいだ。


ウチに帰ると、旬公が新潟から戻っていた。ボランティアの状況を聞く。少し眠ったあと、領収書の合計を続ける。あー、こういうの、ホントに苦手だ。一日中イラついていたのは、この作業がなかなか終らないからかもしれない。


【今日の郵便物】
★古書目録 荻文庫、天導書房、たくま書房