市川春代はモダンだった!

朝刊で知った。市川春代、死す。91歳、老衰のため。ショック。死んだことがじゃなくて、まだ存命だった、ということに関して。市川春代と云えば、ぼくにはマキノ正博監督の時代劇ミュージカル《「鴛鴦歌合戦》(1939)しか思い浮かばない。〈大井武蔵野館〉の「全日本とんでもない映画祭り」で観て熱狂。その後、映画館・ビデオの両方で10回近く観たハズだ。市川春代は骨董狂いの貧乏浪人・志村喬の娘で、隣の浪人・片岡千恵蔵にホレている。そのことを父親にからかわれた市川が、「お父さまったらキライ……」とかなんとか口の中でブツブツ云うシーンが、今風(モダン)でとても好きだ。あんな風にグズグズと小娘のようにしゃべる発声のしかたは、日本にトーキーが導入されて以来、市川春代が初めてやったのではないか、と勝手に思っている。


朝、メルマガ「早稲田古本村通信」(http://www.w-furuhon.net)が配信されていた。ざっと目を通してから、出かける。11時過ぎに五反田の古書会館に着く。二日目なのでワリと空いていて見やすい。1階で、『神戸のガイドブック ワンダフル・コウベ(神戸新聞出版センター、1985)100円、朝日新聞東京本社社会部『下町』(朝日新聞社)300円、本田慶一郎『小説 雑誌記者』(ギャラクシイ出版)200円、大槻茂編『鎌倉都市再考』(現代企画室)200円。最後の本は、田村隆一や高見秋子(高見順夫人)などのインタビュー。途中に児玉房子さん(「本とコンピュータ」の次号で、読書の風景の写真をご提供いただいた)の写真が挿入されている。


2階に上がり、月の輪書林の出品で、野一色幹夫『浅草』と『浅草の幽霊』(富士書房)がいずれも1000円。野一色幹夫といい一瀬直行といい、これまで手にしなかった著者が気になったのは、ホリキリ本の影響が大。野一色幹夫『浅草』は裸本にオビだけ掛かっていたのだが、帳場で袋に入れたときに引っ掛けたらしく、あとで見たらビリビリに破けていた。いつもはオビなんて気にするほうじゃないが、これは哀しかった。ほかに、多田鉄之助『随筆 食味の真髄』(萬里閣)500円、神吉拓郎『東京気侭地図』(文藝春秋)500円、城夏子『六つの晩年』(講談社)300円。田村秋子・伴田英司『友田恭助のこと』(私家版)1000円は、友田本人に対する興味もあるが、妻である女優の田村秋子と、息子の伴田英司の対話で構成されているのが、なんだかオモシロくて買った。


駅の反対側まで歩き、目黒川をわたって、桜田通りの裏通りにあるなんだか寂れた感じのビルの二階に、〈味中味〉という中華料理屋を発見して入ってみる。ナカに入るとけっこう広くて、定食類が充実。鶏肉の炒めと餃子を食べる。そのあと、〈ブックオフ〉へ。500円買うと空くじなしのくじ引きというのをやってるのだが、一人引くたびに、店員が鐘を鳴らして「おめでとうございます」と叫ぶので、うるさいうるさい。じっくり見たのだが、とくに欲しい本はなく、くじ引きを引くこともなく出る。山手線→総武線と乗り継いで、仕事場へ。著者校正をゲラに引き写したり、催促のメールなどを入れたりする。遅れていた「レモンクラブ」の原稿もどうにか書く。今回は小谷野敦『評論家入門』(平凡社新書)を。


地域雑誌「ぶらり奈良町」の発行人であり、古本屋〈ならまち文庫〉(http://www2.odn.ne.jp/~cdl17850/)の店主でもある宇多滋樹さんからメール。

ならまち文庫は10月31日から間借り人に、映画監督・河瀬直美さんのアンテナショップ「組画(くみえ)」をむかえて、「組画&ならまち文庫」としてリニューアルオープンいたしました。ならまち文庫に並べる古本は美術、映画、写真、演劇などの芸術分野と、奈良に関する歴史書など限定して選びました。いままでの「ならまち文庫」に並んでいた一般書は、現在、私が住む奈良女子大学近くの町家に移し、遅くとも来春には古書喫茶として再スタートする計画です。古書だけではとても店は維持できないので喫茶部をもうけ、サロンふうにして雑誌「ぶらり奈良町」の発信基地にします。
クリスマスごろに、「組画&ならまち文庫」では「いにしえのアメリカ映画パンフ展」(駅馬車風と共に去りぬ、シェーン、禁じられた遊び、黄色いリボン、ターザン、キングコングなど)と、12月26日には河瀬直美トークと、オリジナル8ミリ映画「かたつもり」を上映いたします。

自宅で古本喫茶、は宇多さんの夢だったから、実現するコトになってぼくも嬉しい。ただ、〈ならまち文庫〉は前の整理されないカンジが好きだったんだけど……。ともあれ、来春は奈良に行かねばなあ。仕事、8時近くまでかかる。今日は高円寺〈円盤〉にライブを聴きに行くつもりだったがあきらめる。小川町まで出て、久しぶりに〈みますや〉へ。カウンターのない店なので、一人で来ると座る場所に困るのだが、幸い今日はテーブルが空いていた。ビールを飲む。繁盛してるのか、つまみは品切れが多かった。今日は色川武大『怪しい来客簿』(文春文庫)を持ち歩いて再読中。古い居酒屋で読む浅草のハナシは格別に身体にしみる。小川町駅近くの〈澤口書店〉を覗いて、家に帰る。

晩飯食いながら、ずっと前にヒトにダビングしてもらったビデオで、《鴛鴦歌合戦》を観る。市川春代追悼だ、としみじみしていたら、旬公は志村喬バカ殿様ディック・ミネが骨董狂いでガラクタばかり買わされているのが気に喰わない様子。いちいち説明はしないが、どうで「ウチのモクローみたい」と思ってることは明々白々。あのなあ、そういう邪心を持って映画を観ちゃいけないよ……、と心でつぶやく。しかし、何度観てもバカバカしくも素敵に暢気な映画である。DVDは出ないのだろうか。


【アンケート回答ご紹介】
◎野口英司さんより

毎日、読まさせてもらってます。全体的な感想としては、南陀楼さんは行動的だなあ、と思うことです。どちらかというと、ひきこもり、気味な自分としては、あんなに人と会って疲れないだろうかと思うことしきりです。
それで、あれが面白かったです。本の方の『ナンダロウアヤシゲな日々』の中に紹介されている本をかたっぱしから読んでいる人。その人、この日記のほうの「ナンダロウアヤシゲな日々」も毎日読んでいて、かたっぱしから紹介されている本を追いかけているかも。
それから、これは南陀楼さんに言っても「???」になってしまうかもしれませんが、このブログ、RSSを全文出してくれると嬉しいです。RSSとはなんぞや? については、今度お会いしたときにでもお話します。RSSが全文出ていると便利なんです。

お察しの通り、RSSって最近よく聞くけど「???」な南陀楼です。ま、野口さんは「青空文庫」呼びかけ人にして、「BOOKMANの会」技術顧問なので、いずれ教えてくださるでしょう。だいたいblogの利点についても、野口さんに教えてもらって、初めて判ったようなところがあります。その野口さんのblogはこちら。


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