障害者プロレスを見た夜

少し朝寝坊してしまった。青山学院中等部に電話すると、今日からの文化祭で古本市をやるとのこと。いそいそと出かけて、表参道まで。中学生だからか、共学だからか、他の私学の文化祭に比べておっとりした雰囲気が漂っている。クラスごとに出し物(体力測定なんてのもあった)をやっている教室を通り抜け、古本市をやっている社会科教室にたどり着く。しかし、入り口は閉まっており、「古本市は1時から開催します」という無情の貼り紙が。だったら、電話したときに云ってくれよ〜。


1時まで一時間以上あるので、待っていられない。諦めきれず、ドアから中を覗き込むと、著者の50音順に分類されて、机の上に本が置かれている。いま、目の前にあるのに、手に取れない焦り。ヨコを通りがかった女子中学生はきっと、丸坊主で韓国服を着たナンダロウアヤシゲなおじさんが戸口から中を覗き込んでいるのを見て、不信に感じたに違いない。仕方ないので、さっさと会場をアトにする。

再開した〈青山ブックセンター〉表参道店を見る。閉店前はたしか使ってなかった奥のスペースを全部使っていることを別にすれば、さほど大きな違いはない。変わらないコトに安心したABCファンは多いのだろうが、ぼくとしては、一番良く買っていた時期ではなく、閉店前の状態に戻っただけのような気がして、楽しめなかった。しかし、本屋は生き物だし、こちらの気分も関わっているので、次に行ったときどう感じるかは判らない。


壁のスペースで、川島保彦さん(http://www.yasuhikokawashima.jp/)の写真を展示している。川島さんには、『東京人』11月号で古書目録のルポを書いたときに撮影を担当していただいた。写真集『それでも、東京』(トラム)の写真をパネル展示している(この本は書肆アクセスでも目にしていた)。 「大塚・天祖神社 2001年」と題された写真に目が止まる。降り積もる雪の向こうに見えるのは、今やなき〈田村書店〉ではないか! 2001年5月に閉店したのだから、この写真はそれ以前の1〜2月頃に撮られたのだろう。〈田村書店〉は千駄木の〈往来堂書店〉の姉妹店、というか、もともと田村が先にあり、そのリニューアルを成功させた安藤哲也さんが新しく開店させたのが、往来堂である。この写真のパネルを往来堂で展示して、写真集を売ったらどうですか? 笈入店長!(久々に「この本を売りたい!」を再開させるかな)。


仕事場に行って、一人静かに、ゲラを読んだり、談話をまとめたりする。しかし、予定していたほどは進まず。5時に出て、新宿経由で下北沢へ。〈ディスクユニオン〉を覗いてから、向いの「北沢タウンホール」へ。数日前に、末井昭さんと神蔵美子さんから、「障害者プロレスのチケットが余っているので、一緒にどうですか?」と旬公に連絡があった。あのお二人と障害者プロレス見物……。こんな面白い機会を逃してはならないと、同席させてもらうコトにした


6時過ぎに入ったので、もう試合が始まっていた。障害者プロレスについては、興味はあったし、「ドッグレッグス」という団体を立ち上げた北島行徳が、ミニコミ『記録』塩山芳明さんも連載してる)で「聖人じゃない! 人間だ!」という連載をしてるので、ときどき読んではいた。でも、見るのは初めてだ。じつは、ぼくのように対象にスッとのめりこめなくて、スポーツ観戦などが苦手な人間は、障害者プロレスを素直に楽しめるのかどうか、不安だった。しかし、2時間ほどのあいだの9試合、どれもとても楽しめた。なんの障害があるかによって、組み合わせも試合内容も変わっていたし、(トレーニングしているから当然だとはいえ)レスラーたちの素早さ、力づよさにも感嘆した。


第2試合の、下半身不随の障害者と下半身を拘束した健常者との対戦で、『畸人研究』の今さんそっくりの健常者が、ドツキ回されてギブアップしたり、第3試合で、女装が好きでセーラー服で登場した「愛人(ラマン)」選手が、ほとんど寝たきりのまま戦意喪失で退場したり、第4試合で、九州からやってきた公務院孝三がどことなく扉野良人くんに似ていたり、第5試合で、子どものときからドッグレッグスでレスラーとして戦い、今度みちのくプロレスでデビューするコトになったゴッドファーザーJr(健常者)が、父親のゴッドファーザー(障害者)と闘ったり、第6試合でこの団体のシンボル的存在らしいサンボ慎太郎が相手にひたすら密着していく戦い方をしていたり、第8試合で、「5年間引きこもり」の健常者・虫けらゴローが全盲の巨人ブラインド・ザ・ジャイアントに腕を折られそうになったり、ファイナルマッチで現チャンピオン前川裕に、元チャンピオンの鶴園誠(片足がない上、下半身不随)が驚異的な腕力で打ち勝ったり、と思わずほとんど全試合について書いてしまったが、ホントにオモシロかった。来年4月にまた興行するそうなので、行きたいし、ナンと韓国で興行する予定もあるというので、その見物ツアーに参加したいと思ったりしたのだった。


末井さんたちは、次の予定が迫っているということで、会場でお別れ。我々は、台湾料理屋の〈新雪園〉(ここも前に末井さんたちに連れて行ってもらった)で、豆苗炒め、ホタテとキノコ炒め、水餃子、海老そば、パイコー飯を食べて、満腹。そのあと、ジャズ喫茶〈マサコ〉に久しぶりに行き、コーヒーを飲む。ウチに帰ったのは、11時すぎ。ちょうどNHKブータンのテレビ番組を紹介していた。山間部の村に教師が派遣されるドキュメンタリー。そのまま最後まで見てしまった。途中まで編集してあった「書評のメルマガ」を仕上げて、発行。


【アンケート回答ご紹介】
◎「退屈男と本と街」といblogをおやりになっている、退屈男さんより。ぼくの日記には、このblogから飛んでくるヒトがかなり多いようです。
「あえて、というならば、9月25日「自宅という迷宮」(http://d.hatena.ne.jp/kawasusu/20040925)でしょうか。(略)『平凡パンチ1964』は、ぼくも、小林泰彦さんの『イラスト・ルポの時代』とあわせて読み、じぶんのブログでも紹介した本だった、ということもあります。が、なによりも、あるていど本をもっているニンゲンならば、「自宅という迷宮」ということを、よーく実感しているわけで。ぼくていどの蔵書でもああなのだから、南陀楼さんの迷宮ぶりを想像するだけで、おかしくて。〈自宅が迷宮になってなければ、本と本のつながりを意識した、こういう優雅な読書ができるのであるがなあ(詠嘆)。〉というのも、わかるわかる、と。読書中、「あっ、これは」という箇所が出てきて、確認のために別の本を探すのですが、探す本というのはぜったいに簡単には出てこない。もう、ナンタラの法則、みたいなものです。(略)とにかく本てやつは場所をとるもので、べつの日にあったような、「東京には床がない」とかの記述があるたび、笑ってしまいます。ごくろうさまです。」

ありがとうございました。退屈男さんのblogはこちら。
http://taikutujin.exblog.jp/