大学生みたいな行動

午前中から午後にかけて、ウチで資料を読む。そのあと、雨の中を竹橋の東京国立近代美術館へ。「木村伊兵衛」展を見る。膨大な仕事のうち、今回は、戦前については花王石鹸の広告、『光画』、日本工房の活動など印刷物を中心に、戦後は秋田、長崎などをシリーズで撮った写真作品を中心に展示する。1950年代のロンドンで撮ったものなど海外での撮影も含まれている。展示そのものはすごくよかったが、この木村展は、4階から2階まで、常設展と同じ会場に、時代ごとにバラバラに展示されているので、一気に見た、という満足感は薄い。主催者側は常設展示の時代区分にあわせて木村展を配置した、とか云っているが、やっぱり別のものとして見たかった気がする。ただ、木村展を見ながら、普通だったら見ずにすませる常設展が見られたので、その点ではよかったが。


そのあと、企画展「草間彌生 永遠の現在」展を見る。ついでに見るので、そんなに期待はしていなかったが、けっこう面白い。巨大な水玉の風船オブジェや、突起物が無数に貼り付けてある壁など、作者が感じている「強迫観念」がモロなカタチで現れている。会場も迷路みたいなつくりになっていて、角をまがるとそういうデカい異物にぶつかる。まるで、恩田陸の『禁じられた楽園』(山の中に閉じ込められて、次々に巨大なインスタレーションを体験させられる)ではないか。あるインスタレーションでは、部屋に入らされ、灯りが無限に広がっている様子を体感する。係員は「下は水なので落ちないように気をつけてください」といい、ぼくを入れると、後ろのドアをパタンと閉めてしまった。一瞬、コワかったなあ。


見終わって、木村展の図録を買って出る。次回の予告で、来年1月に河野鷹思のデザインの展覧会をやるとあった。木村展よりは規模が小さいようだけど、コレも行かねば。丸ノ内線で銀座に出て、〈旭屋書店〉を覗いたあと、〈泰明庵〉に入る。ココはそばもうまいが、うまいそば屋にありがちな気取りがなく、ご飯ものもつまみも充実している。おばさんのオススメで、たぬきそばと、マグロのすきみとヒラメのたたきが載った丼というセットを食べる。うまい。


日比谷に出て、〈シャンテ・シネ〉で矢口史靖監督《スウィングガールズ》を観る。あと数日で公開が終わるハズだが、なんとか間に合った。「《ウォーターボーイズ》の焼き直しだよ」とかどこかで書かれていたのだが、ハナシの構造は似ていても、これは全然違う映画である。上野樹里ら女子高生は、最初、無理矢理に楽器を持たされて、ちょっと面白くなったときに「もういらない」と云われ、そこから発奮する。練習そのものよりも、楽器を手に入れるためのあれやこれ(熊に襲われたとき、画面がストップし、ルイ・アームストロングの《この素晴らしき世界》が掛かるシーンは、特筆すべきバカバカしさである)やを描いていて、楽器が吹けないヤツがいきなりアドリブできるようになるもんか、と思うが、そのありえなさをバカバカしく、それでいて、あったらいいなと夢を抱かせる矢口史靖の演出はイイ。その辺が、同じ音楽映画でも、最後までシラけて観てしまった《ブラス!》との違いだ。

よくないところも書いておけば、この手の映画の脇に竹中直人を持ってくるのは、そろそろヤメたらどうか。竹中直人の演技が悪いというのではなく、竹中を使うどの映画も同じ性格に設定してるんだもん。「楽器のできないジャズマニア」という役柄は、むしろ生徒の一人に振った方がヨカッタ。竹中に限らず、この映画に出てくる大人の役者は、どれもイマイチだったなあー(白石美帆も含め)。まあしかし、ブラバン/バンド経験者(ぼくのことです)の血が久々に騒ぐ映画であった。


そのあと、六本木で再開なった〈青山ブックセンター〉を見る。あまり変わってないことに安心し、もうちょっと変わってほしかった気も少し。杉浦康平ブックフェアを見る。2冊買ったら、袋に「ABCで会いましょう」という小冊子を入れてくれる。ABCを支援する著名人のメッセージ集。神保町に出て、〈書肆アクセス〉から〈三省堂書店〉へ。三省堂の一階エスカレーター脇に、「The Catcher in The Bookstore」というコーナーができている。神田本店の社員が選定したオススメ本のコーナー。今月は「秋+本=神田」というテーマで本や神保町に関する本を並べている。ココに『ナンダロウアヤシゲな日々』もあった。POPが立っている本もあったが、ぼくの本にはなぜかなかったな。でも、一緒に配っている小冊子「月刊読書手帖」には、「本の海で溺れるって、まさにこういう人のことです」というコメントが。ありがとう、Y・Sさん!


7時に〈なにわ〉へ。岡崎武志さん、セドローくん、岡島イチローくんが来ている。荷物を持っているのを見て、岡崎さん「どっか寄ってきたん?」。で、美術館行って映画館行って本屋行って……と説明すると、「大学生みたいな行動やな」。いや、コレも半分仕事なんですけど……(説得力なし)。私立高校の学園祭の古本市はイイですよ〜、いま古本市のある学校を調べているんですと、強調して、さらにアキレられる。そのあと、畠中さん、濱野奈美子さん、遅れて旬公も来る。古本や古本市、古本屋さんのハナシで盛り上がる。岡崎さんが「ええなあ、すぐハナシが通じるから」と。たしかに7人もいるのに、古本のハナシが説明なしに全員一発で通じるという状況はメッタにない。解放された気分で会話ができる。閉店までいてしまった。


この日記のアンケート回答、今日までに4人からお返事をいただきました。うち3人が初めての方です。反応するポイントがヒトによって違うので、オモシロイ。ぼくの知り合いも恥ずかしがらなくてイイので、回答をお寄せ下さい。

【今日の郵便物】
★古書目録 荻文庫、古書愛好会、石神井書林、古本倶楽部(中野書店)