精緻かつノイジーなデザイン

朝起きたら、携帯に着信があった。起きる直前に075からはじまる番号で掛かっている。仕事の電話かもしれないと思い、掛け直そうとするが、京都から電話が来る心当たりがないのでほっておく。あとで仕事場で、googleにこの番号を入れて検索すると、ワン切りで良く掛かってくる番号らしい(http://loto.dao2.jp/up/u/5836/?p=651 に情報あり)。めんどくさい世の中になったものだ。


9時半に旬公と出て、五反田へ。今日は「本の散歩展」。今回は参加店数が多い(日月堂さんもひさびさ参加)ためと、神保町の古書展が洋書ものであるため、いつもよりも人出が多い。とくに二階は人ごみで動けない。一列移動するたびに、岡崎さん、オヨちゃん、キントト文庫さん、海月さんというふうに知り合いに出会う。


駆け足で見て、以下の本を買う。一階では、辻村伊助『スウィス日記』(平凡社ライブラリー、原本は昨日、木下是雄さんにみせていただいた)500円、戸山三平『映画界365日』(東京通信社)2冊各200円、山村修『禁煙の愉しみ』(洋泉社)500円を買う。二階では、『浅見淵の歌』(刊行会)1000円、結城信一『作家のいろいろ』(六興出版)1000円、榊原勝『高田保伝』(風濤社)1500円、それと初期の『SWICH』4冊が各200円。昨日間に合うかなと思いながら注文した、『創元社図書目録』(昭和14年3月発行)1500円も当たっていた。


岡崎、オヨヨ、なないろ、荻原魚雷、旬公と、いつものバーガー屋で雑談。『銭形金太郎』(じつは見たコトがない)に出られそうな貧乏古本屋は誰か、というハナシ。海月さんが遅れてくるが、ぼくは仕事に行かねばならず、一足先に出る。電車の中で、『創元社図書目録』を眺める。挟み込みの振り込み用紙に、仙台の神主さんの名前があった。昭和16年12月8日の「宣戦の詔書」(ガリ版刷り)も挟んである。中身を見ると、一冊ごとに序文や新聞記事などの抜粋が入っている。これは便利。終わりの方に、平井房人『めがねでみる魔法漫画 トンチャンと海賊の巻』という本が。解説を引いてみる。「赤いセルロイドの眼鏡をかけると、普通では見えない漫画がはっきり出てくる、という物理学応用の新しい書物。しかも物語は勇敢な少年の連続冒険談、子供達によろこばれること請合です。布表紙で製本も丈夫、附録としてめがねがついています」。うーっ、この本欲しいよお。


12時過ぎに仕事場に着き、あれこれ進める。『季刊銀花』から依頼された「モクローくん通信」についての短い原稿を送信。こんなの載せて、銀花の格調が落ちないか心配(しかもこの号には杉浦康平特集も載るという。ますます心配)。有楽町に出て、gggギャラリーへ。旬公と待ち合わせ。今日は「疾風迅雷 杉浦康平雑誌デザインの半世紀」のギャラリートーク。6階の会場は超満員。200人以上入っていたか。まず、杉浦さんが前回のギャラリートークのまとめを。どういう意図で雑誌のデザインをやってきたが、ダイジェストとはいえ、きっちり話してくれる。そのあと、杉浦事務所の元スタッフである鈴木一誌、赤崎正一、現スタッフの佐藤篤司の三人によるトーク。赤崎さんは21年もいて独立し、佐藤さんは今年で24年なのだという。


プロジェクターで、雑誌の表紙やレイアウト指定紙などを見せながらのハナシはとてもオモシロかった。1970年代前半の杉浦事務所は大音量で現代音楽や民俗音楽がかかっていたというハナシ、『遊』の表紙文字の深みは3色のかけあわせによって出来ていて一色ずつ直接フィルムを削って模様をつくっていたというハナシ、『銀花』などで見られる斜めの文字は「地軸の傾き=23.5度」に基づいていて、その傾き専用の台紙までつくられているというハナシ。なによりも、0.1ミリ単位の精緻さを要求するグリッドシステムをつかいながら、杉浦さん自身がつねにそこから外れ、別の発想を呼び込もうとしている、という赤崎さんの発言が興味深い。つまり、建築構造物のように隅々まできっちりつくることと、そこにノイズを加えていくことが両立しているのだ。それをなし得る杉浦康平はやはり恐ろしい存在だし、その杉浦さんと一緒に仕事をしていた(いる)スタッフもすごい。これまでデザイン作品を観たり、杉浦さん本人から話をお聞きしたときとはまた別の感銘を、三人の話から受けた。


帰り道、旬公と「モクローくん通信にもグリッドシステムを導入しようか」と話していると(できるワケない)、前方にわが家のアイドル・デザイン史家の臼田捷治さん(愛称「ウッスー」)の姿が。臼田さんは流暢に喋るヒトではないが、ことばに温かみがあって、ぼくも旬公もファンなのだ。一緒に食事に行くことになり、臼田さんが新橋の〈一平〉というおでん屋に連れて行ってくださる。ここのおでんは味がしみていてウマイ。勘定も安かった。11時ごろ、ウチに帰ってくる。


「デイリースムース」(http://www.geocities.jp/sumus_co/daily-sumus10.html)を見ると、「松本より葉書。(略)『サンパン』次号、締切は過ぎたが、小沢信男さん聞き書き、まったく進んでないというボヤキあり」と。ええ、ええ、すいません。ワタシが悪いのですが、ナニもネットで発表するコトないじゃない、とこちらもボヤキたくなる。来週収録して、急いでまとめるツモリです……と日記には書いておこう(またか)。


【今日の郵便物】
★古書目録 みはる書房&鳩書房
青木正美さんより 「全古書連ニュース」掲載の「古書流行史」