狆の本と呪殺の本

今日も雨。神保町に出て、古書会館へ。なんか一カ月ぶりぐらいに会館の古書展に来たなあ。入口で〈デカダン文庫〉のおじさんとバッタリ。今日は和洋会。ワリと高めの趣味・資料物が多い。史録書房の棚で、辻寛『狆の近吠』(中西書房、昭和6)という本を見つける。こないだ世話した「大阪の狆」を思い出し、手に取る。新聞記者のエッセイらしい。「読書の憂鬱」「初めて自動車の運転手となるの記」「恋愛結婚始末記」など、オモシロそうなタイトルが並ぶ。「浪界雑稿」という節には、浪曲についての小文が並ぶ(ちなみに、「ボクが血道をあげてる文藝浪曲創始者 酒井雲君におくる」という献辞が冒頭にあった)。函ナシで3000円はちょっと高いが、買うことに。ほかに、『読書論』(世界文庫、大正12)500円、和田芳恵『おもかげの人々 名作のモデルを訪ねて』(光風社出版)800円、加藤秀俊『文芸の社会学』(PHP)300円を買う。最後の本の装丁は杉浦康平


昼飯は久しぶりに〈キッチン南海〉で、チキンカツとしょうが焼き盛り合わせ。ウマイけどこういう組み合わせはまだキツイかな。〈書肆アクセス〉に寄り、頼んでおいた雑誌を受け取る。青木さん、上海に行ってきたそうだ。古本屋にいたら客が山積みになっている下の本を引き抜いて、上から落ちてきた本が青木さんのアタマにあたったそうだ。可哀想。んで、その客も店員もまったく謝らなかったってところが、いかにも中国らしい。郵便局で溜まっていた振込み(古書目録の注文品の支払い)を済ませ、地下鉄で京橋へ。


中央公論新社の受付で、Yさんと待ち合わせ、Kさんの取材。2時間たっぷり、興味深い話が次々と聞けた。新書編集部のSさんとちょっとお茶したあと、〈八重洲ブックセンター〉へ。ある程度、時間があってゆっくり本を見たい気分のときは、この店がやっぱりイイなあ。鎌田東二『呪殺・魔境論』(集英社)、前田速夫『余多歩き 菊池山哉の人と学問』(晶文社)、大月隆寛『全身民俗学者』(夏目書房)、高平哲郎編『新宿DIG DUG物語』(東京キララ社)と読みゴタエのありそうな本を買う。開店したばかりの〈加賀屋〉でビールとホッピーを飲み、煮込みを食べた後、ウチに帰る。


テレビで《エネミー・オブ・アメリカ》(二回目)をチラチラ見ながら、原稿を書きかけたり、メモをつける。三連休の間に絶対書かねばならない原稿が◎本あるのだが、こんなときに限って、「いかに原稿が書きたくないか」をあの手この手の芸で書いてある中原昌也『ボクのブンブン分泌業』(太田出版)なんかを読んでしまい、落ち込んでしまった。原稿遅いんだから、せめてこれぐらい芸のある文章が書ければなあ。


【今日のしおりページ】
★辻寛『狆の近吠』(中西書房、昭和6)の自序
「犬は犬でも、トサやブルなら遠吠を聞いただけでも、弱気な御仁はオゾ毛の一つもふるふだらうが、狆と来ては、足下で吠えられたつて屁とも思ふまい。
 あの妙ちきりんなゴ面相で、おまけに泣いてるんだか、吠えてるんだか、その表情髣髴模糊たるにおいては、精々御愛嬌の程度に過ぎず、この本もザツトこの見当。即ち題して「狆の近吠」といふ所以です。
 といふても、俄かにアイソを尽かされちや、こちらの立つ瀬がなくなる。
 諸君、これは人並の謙遜といふもの、全くのところは、一円半ほうり出していただいても、大して後悔させなくとも済む代物であることを確信する (後略)」


【今日の郵便物】
★古書目録 山田書店、名鉄パレ百貨店(名古屋)