ダメでもともと

神戸・海文堂書店http://www.kaibundo.co.jp/)の福岡宏泰さんからメール。8月31日まで延長継続された「sumus&幻堂真夏のミニフェア」の結果報告。『ナンダロウアヤシゲな日々』は、34冊売れ、現在も平積み販売中。サイン本は完売。内澤と山本さんのサイン本も完売。「sumus」バックナンバーは、12号が26冊、スムース文庫4(八木)が24冊、5(日記)が21冊、他の号もちょぼちょぼ。「月の輪書林目録」13号は12冊売れ。幻堂出版の方は、「何の雑誌6号」22冊、『神戸からころがたり』6冊、『KOBE街角通信』12冊、『関西フォーク70’sあたり』5冊、『NOBARA』4冊、「浪漫チック」6冊といったところ。二カ月間のフェアにしては、売上は少ないかもしれず、海文堂に迷惑をかけたのではないかと心配するが、こんなマイナーな出版物がコレだけ売れたのもフェアをやったからこそ、という気がする。これらのホトンドは、継続して販売してくれるコトになったので、買い逃したヒトは海文堂で探してみて下さい。


早稲田行きのバスで文京グリーンコート前。以前から気になっていた、名古屋コーチンのやきとりの店で昼飯。店に入ったとたんイヤな予感。揃いのシャツにバンダナ。味で勝負してます、という威圧感が。やきとり丼というのを頼むが、出てきたのを見て、あまりのお上品さに笑ってしまう。こりゃ、丼とはいえんぞ。たしかに、ささみやモモの焼き鳥はまずくはないけど、ご飯に掛かっているタレがなんだかアマったるい。これで1000円。さっさと喰ってさっさと出る。


12時、〈三百人劇場〉の前田陽一特集。平日昼間とはいえ、この前の渋谷実よりもさらにヒトが少ない(10人ぐらい?)。大丈夫かな。今日は《喜劇 男の子守唄》(1972年)。冒頭、チンドン屋フランキー堺が子連れでバスに乗っている。高度成長期の東京と、それに取り残された男という構図はありきたりだし、前半のストーリー展開は正直云っておもしろくない。ただ、途中で挿入される闇市のシーンはいい(セットもよく造られている)。そこで、万引きする少年、売春婦、やせ犬とその肉が入った煮込み、進駐軍に強姦される女、マシンガンを撃ちまくるヤクザなどのカットが、フラッシュバックのように重ねられていく。コレがあるから、後半で、フランキーやミッキー安川太宰久雄田端義夫らの「闇市同窓会」のメンバーが、売春婦あがりで金持ちになったミヤコ蝶々の援助を得て、闇市跡に建てられたスーパーの経営に乗り出すというストーリーが生きてくる。


そのスーパーが、やはり闇市上がりの元経営者(森川信)の放火によって燃えてしまい、その焼け跡で全員が終戦直後の格好で飲み会を開く、という展開は突拍子もないが、自然な流れに見えてくる。演技がクサいフランキーにも、はすっぱで純情な倍賞美津子にも、いつの間にか入れ込んで観ている。最後には、不覚にもちょっと涙目になっていた。戦争の焼け跡を体験した世代の持つ、「どうせ、もともとナンにもなかったんだから」という開き直りが、やせ我慢ではなくポジティヴな姿勢に思える。いま、日本中からこの「ダメでもともと」という感覚がなくなりつつあるのではないか? 


うまい映画とはお世辞にも云えず、前田陽一の映画を2本立て、3本立ての名画座でなく、1本ずつ入れ替えの映画館で観ること自体、違和感を覚えるのだが、それでも観てよかったと思う。前田陽一の特集は、今週日曜日までだが、前売り券が5回分残っているので、せっせと見に行こう。


仕事場に行くと、今日は空調が作動していた。ホッ。次号企画を少し詰める。6時半に出て、また〈三百人劇場〉。《神様のくれた赤ん坊》(1979)。この映画、中学ぐらいに昼のテレビなどで何度も再放送してた記憶があり、特別見たいとは思ってなかった。だけど、案外オモシロかった。渡瀬恒彦桃井かおりの同棲カップルが、子どもを押し付けられ、その父親を探して尾道から九州まで回る。ちょうどハナシの都合のいいコトに、それらの土地は桃井かおりが少女のときに母親と過したところであり……というストーリー。いろんな土地をめぐるところが、なんか、中村登監督《集金旅行》(1957)に似てるなと思ったら、それもそのはず、リメイクだという(『ぴあシネマクラブ』の解説より)。


この映画でよかったのは、尾道、小倉、天草、長崎、唐津といった土地に、まだかろうじて残っていた「絵になる風景」がたっぷり映し出されているところ。たとえば、長崎の丸山遊郭唐津の古い町並みなど。ぼくは行ってないが、1990年代になるときっとこれらの風景は消えてしまったのではないか。その意味で、日本映画では最後の「オムニバス旅行映画」だったと云える。


帰りに田端の生協に寄り、買い物。旬公の食欲が少し戻ってきたので、牛肉を焼いて食う。そのあと、諸々の仕事。バリ島二日目の日記(http://d.hatena.ne.jp/kawasusu/20040902)をアップ。どうしても長くなるなあ。最近気に入っている、テレビ東京の《やりにげコージー》を見る。今日は、吉本若手芸人ヤンキー列伝で、いろいろとヤンチャなハナシを。ヘンに編集せずに喋りだけで構成しているというだけで、いまどき貴重な番組だ。


【今日の郵便物】
★みはる書房より 『変り種』第3号(悟空社、昭和11年)2000円。まだ中味はよく見てないが、名前の通り、ヘンな雑誌。
★斜陽館より 坂口安吾『教祖の文學』(草野書房)1000円。装丁は花森安治。『福良竹亭君新聞記者五十年記念祝賀会誌』(昭和14年)1000円。もう一点注文していた児童雑誌『きりん』は残念ながらハズレ。