創文堂が消えた

午前中の行動2日目。朝10時に目黒へ。駅からてくてく歩いて庭園美術館まで。照りつける暑さ。「幻のロシア絵本 1920−1930年代」をやっと見ることができた。春に芦屋美術館に行き損なってから、庭園美術館では見なければと思っていた。すでに図録や「芸術新潮」の特集は見ていたが、思った以上の量に圧倒される。


中でも気に入ったのは、ウラジミール・レーベジェフの絵本。背景がほとんどなく、ヒトや動物だけが描かれているのだが、生き生きとした動きが感じられる。新しいテクノロジーの導入(電灯やタイプライターなど)を描いた『昨日と今日』はとくにイイ。水汲みに行く女性はまったく同じ絵が三つ並んでいるだけなのだが、これぞ構成主義といった感じだ(適当に書いてます)。別のコーナーでは、子どもたちに本や印刷のコトを教える絵本もよかった。これらの絵本をコレクションした吉原治良の絵本『水族館』の色の良さには驚いたし、原弘・柳瀬正夢が所蔵していたロシア絵本コレクションもそれぞれの個性が感じられた。


とまあ、思わず明日にでもロシアに飛んで、田舎の町の古本屋でも回って絵本を探したくなった。いまどき見つかっても、目玉が飛び出るほど高いだろうが。しかし、ちょっとばかり自慢させていただくと、今回の展示物で一点だけ、ぼくが持っている絵本があるのだ。それは、P・ノーヴィコフの『クロスカントリー』(1932年)で、クレヨンで書いたようなタッチと、折本になっているのが面白くて買ったのだった。神保町の古書展で、ナンと500円(出品は畸人堂)。いま改めてみると、色あせているし、エンピツで日本語訳が書き入れてあったりするが、まぎれもなく1932年のオリジナルだった。この本はビニール袋に入れて、玄関先に飾ってある。


見終わって、新館の特設売り場へ。ちょっと離れた場所にあるせいか、客はぼくひとり。ロシアの絵本の復刻を5冊(各1500円)と絵葉書、シール、メモパッドなどを買う。どれもセンスが良く、日本の美術館のグッズにしては「もらって嬉しいお土産」の域に達している。TシャツもあったがLサイズの上がないので断念。前に写真美術館で桑原甲子雄の写真をプリントしたTシャツを買ったが、それが小さめで、ぼくが着ると写真が横長に延びてしまうのだ。哀れ。


またてくてく歩いて目黒に戻る。山手線で代々木に出て、ブックオフ。この店は初めて。規模が小さくてスグ回れるのがいい。中町信を2冊と東直己『札幌刑務所4泊5日』(光文社文庫)を。反対側の出口に向かうと、かつて《傷だらけの天使》のロケに使われたというペントハウスのある古いビルがまだ残っていた。もう取り壊しになっていると思ったが。ただ、上の店はかなり抜けたらしく、以前食べてウマかったロシア料理の店もなくなっていた。一階の〈笠置そば〉でコロッケそばを食べる。そのあと仕事場へ。入稿のラストで細かい作業が多い。


昨日、本が届いた〈町屋堂〉のサイト(http://www.fiberbit.net/user/machiya-do/)を見たら、日記に以下の記述が。
「[8月17日]以前、不忍通りの、道坂あたりに住んでいた。その近くに「創文堂」という新刊本の書店がある。町の本屋、と言うにはずいぶん骨のある本屋だ。(略)日曜でもないのに店が閉まっていた。たまたま出て来たおじさんと目が合ったら、「店を閉めることにしたんです」と言った。急な話である。先月来た時は何も言ってなかったぞ。「奥で事務所はやってますから、そっちに取りに来てください」。私なんぞに何もできるわけではないが、いい客でなかったことが責められる。」
一週間ほど前に、ぼくも前を通ったが、まだ早い時間なのに閉まっていた。このときは、夏休みかな、と思ったのだけど。この店のことは、「本のメルマガ」の連載で何度も書いている。ぼくもけっしていい客ではなかったが、この店に行くとかならず何か買う本があった。

谷根千』のオオギさんに電話で聞いてみると、たしかに閉店したらしい。息子さんが岩波書店にお勤めだと聞いたが、後を継がれなかったのだろう。先日、200メートルほど先の〈博山房書店〉が取り壊されて(建て替えて新しいビルに入るそうだけど)、ショックを受けたところだった。数年前に根津、千駄木の新刊書店が2軒なくなっているので、これで不忍通りの新刊書店は、ほぼ〈往来堂書店〉1軒になってしまった。往来堂はもちろん好きな書店だけど、もっと別のタイプの書店があってこそ往来堂の個性が生きてくるのに思う。とにかく残念。


8月16日の岡崎武志さんの日記(http://www3.tky.3web.ne.jp/~honnoumi/ frame.okadiary04.8.htm)に、
「ナンダロウ氏の日誌、読んでいると、原稿書けずもがいているさま、報告されていてうれしい。もっと苦しんでるところ書いてほしい。耳の穴から血が出た、ぐらい書いてくれたらぼくとしては万歳だ。淋しいのは自分だけじゃないと、ちょっと安心するのだ。いったん書き出すと早いほうだと思うのだが、かかるまでに時間がかかるのだ。しかもアンペア数が低いから、少し仕事がたてこむと、おつむから煙りが出る。走れメロスの心境だ。便所の電球で世の中を照らしてるような気分になるのだ。」
とあった。耳の穴から血は出てないけど、原稿書けないと眠くなります(ダメじゃん!)


続きまして、最近恒例(?)の「blog検索・モクローくん大感謝祭への来場者日記」を二つ紹介。
まず、「行ったところ、読んだもの、食べたもの」(http://d.hatena.ne.jp/YMK/20040814
モクローくんハガキや扇子、マッチなどのキュートな小物もあって、思わずニヤけてしまった。かわいいいい。37歳巨漢坊主あざらしオヤジのどこがカワイイというのか。でも、かわいすぎだ。マッチラベルのコレクションや、嫁姑マンガの切り抜きコレクション(何故に? でもワラタよ)、古いいろいろなラベルもすてきだった。(略)
棚の前にはCDも売られていたので見てみる。わー、なんかこう、同世代だなあ!と思いました。サロンミュージックや立花ハジメや初期テクノもの、パスカル・コラムートなどのフランス実験音楽もの、ドクタージョンにダンヒックス!その他もちょっとくせモノ系音楽がいろいろあって面白かった。椎名林檎に松浦あや、というのもとても納得なのです。
写真で見た南陀楼綾繁さんは、あの体(と内澤さんによるモクローくんの絵)にだまされるが、実はとてもハンサムなのだった。」


「実はとてもハンサムなのだった」というフレーズを、(その前は見ないようにして)何度も読む。こんなこと云われたの、生まれて初めてかも。女性からのオコトバなら嬉しいのだが(でも、たぶん男性でしょう)。


次に「オナニッキ」(http://d.hatena.ne.jp/onanie/20040811)の人も、ほうろうに来てくれていた。この人、モク通を読んでるらしいが、定期購読者か?
モクロー棚から、『文藝別冊 色川武大 vs.阿佐田哲也』と、大西巨人が『深淵』について語っているインタビュー目当てに『社会評論 2004冬号』を古本で購入。古書音羽館発行の『田中小実昌の本』(コミ本の全ての書影が掲載されてる)も購入。あと、『未来』の6、7、8月号は無料で。」
『文藝別冊 阿佐田哲也』を買って下さったのは、デカダン文庫さんではなく、オナニッキさんだったらしい。『社会評論 2004冬号』に大西巨人インタビューが入ってることは、値札にも強調しておいた。それに気がついて買ってくれたのは、狙い通りといった感じで嬉しい。


9時半頃、仕事が一段落して出る。千駄木に行って〈鳥ぎん〉で釜飯。旬公も合流。そのあと古書ほうろうに行くと、今日はCDは売れず、本がやたら売れていた。昨日思い切って入れ替えたのが聞いたか? 花森安治の装丁本、ミニコミ『名古屋で暮らす』など、売れそうなものから先に売れていくカンジ。


谷中在住のチェコ人(日本近世文学専攻)のペトル・ホリーさんと彼女が、ほうろうを覗いてくれる。彼らと旬公がチェコ関係者の噂話をしているヨコで、黙々と本の並べ替えをする。明日も売れてくれるといいなあ。だんだん稲や野菜に話しかける農家の気持がわかってきたぞ。


【今日の郵便物】
赤田祐一さんより 石原豪人『謎とき・坊ちゃん』飛鳥新社、1600円
夏目漱石の『坊ちゃん』は「ホモ」の文脈で読むと、すべて判る、という本。赤田さんの後記を読むと、本書のキッカケは、大伴昌司の本に石原さんのコメントをもらったことだったとある。石原さんが島根県出雲(市?)出身で父は出雲大社の神主だったという。まったく知らなかった。真鍋博じゃないけど、出雲市が石原さんのイラストを全部収蔵していればオモシロイのに。出雲市民ホール(美術館はないので)に石原さんのホモイラストがいっぱい展示されるなんて、素晴らしい。オレが市長だったら、絶対実現させるぞ。
高野ひろしさんより 「イカの筋肉」243号