ついでに生きてる人たち

昨日、観直すのがめんどくさくて飛ばしたが、《マル秘色情めす市場》の原題は《受胎告知》だった。たしかに、テーマもストーリーもこちらに近いのだが、でも、《受胎告知》のままだったら、ここまで多くのヒトの記憶に残ったかどうか、という気もする。このことに触れた、田中登インタビューのテキストは、「日活ロマンポルノ館」で読める。
http://www.nikkatsu-romanporno.com/main.html

夜中に自分の部屋に入るのに、電気をつけなくても奥に進めるコトに感動する。自分で感動しておいて、バカだなあと思うが、今朝がた一旦帰って来た旬公が「床が見える!」と絶叫したのを聞いて、こういう非常識な生活がスタンダードになってたんだなあと思う。べつに反省はしない。


午前中図書館によって、仕事場へ。まとめなきゃいけない原稿が多いが、手近な作業や業務連絡に逃避してしまって、手が着かない。徳島北島町小西昌幸さんが、「創世ホール通信」を送ってくれる。光文社文庫版乱歩全集や松田哲夫『編集狂時代』と並べて、『ナンダロウアヤシゲな日々』を紹介してくれている。「氏の出版界の最初の仕事は、ゆまに書房の『雑誌集成 宮武外骨此中にあり』全24巻だった(企画編集&版下貼り込み)。つまり彼は25歳くらいで編集者としていきなり頂点を極めたようなところがあるのだ。」(サイトでも読める)
http://www.infoeddy.ne.jp/kitajima/hole/bunka/200407.html
小西さんと最初に会ったのは、宮武外骨をめぐる講演会で香川に行き、この集成を会場で販売していたときのコトだった。28歳ぐらいだったか。
じつは、この本に最後まで入れようと思っていたのが、小西さんについての書き下ろしだった。時間切れで書けなかったのだが、いずれ、もう一度話を聞いた上で、書いてみたいと思う。


西秋書店さんからメールで、河内紀さんが朝日新聞に載っていると知らせてくれる。ラジオ欄を開くと、「ラジオアングル」というコーナーで仲宇佐ゆりさんが河内さんにインタビューしている。「音とことばの扱われ方が雑になっている。人間には耳の力があるんだ、ということをいっておかなきゃいけないかなと」(河内さん)。古書ほうろうでの7月30日のイベントでは、河内さんの「耳の力」がライブで聴けるわけで、多くの人に来てほしいと思う。


仕事に切りをつけて、山手線で日暮里の小沢信男さん宅へ。「サンパン」の資料を受け取るだけだったが、ご夫婦ともススメ上手なので、いつの間にか上がりこんでしまう。小沢さんが編者になった、長谷川四郎『鶴/シベリヤ物語』(みすず書房、「大人の本棚」)を頂戴する。楽しみに読もう。30分ほどで切り上げ、〈蟻や〉でちょっとビール飲んで、ウチに帰る。メールをチェックすると、なんと清原なつのさんからのメールが。『ナンダロウ〜』をお送りしたが、お返事は期待していなかった。それだけに嬉しい。清原さんには、「本とコンピュータ」で「お買い物」という短いマンガを描いていただいた(ハヤカワ文庫『千の王国百の城』に収録)。メールには、それ以来だというマンガを『野性時代』に描かれたとあった。コレはすぐ探さねば。ほうろうに台車で荷物を持ち込む。コレで大きな荷物はほぼ運び終わった。あとは紙モノの整理だな。


【今日のしおりページ】
小林信彦『名人 志ん生、そして志ん朝朝日新聞社(朝日選書)、2003年
この本の中には、1970年代の小林信彦と、20世紀末の小林信彦が同居している。
1970年代はこんなカンジ。
67ページ 志ん生の十八番とする人物は、彼自身の表現によれば、〈ついでに生きてる人たち〉である。/酒と遊女の二つを中心にして、ふらふらと吸い寄せられてゆく、きわめて不確かな人物たちで、そのたよりなさと喜劇性は、さいきんのニュー・シネマの描く〈ボニーとクライド〉(『俺たちに明日はない』)や、〈ブッチ・キャシディサンダンス・キッド〉(『明日に向かって撃て!』)といった人物像に酷似している。かりにウィリアム・ワイラー監督を正統派とすれば、ワイラーの造形する人物にくらべて、彼らはなんだか頼りないが、曇らされぬ目でみれば、彼らはよりリアルであり、人間的でもある。そして、まさに〈ついでに生きてる〉連中ではないか!」
異なった題材の結び付け方に創意工夫が見える。読者は思わず、すぐにでも、志ん生が聞きたくなる。


しかし、20世紀末になると、小林信彦の不機嫌さは頂点に達し、志ん朝の独演会に来る自分より下の世代を、「似合いもしない和服を着た若者、ノートをとるおたく」と切って捨てる。若いうちはかなりマニアックな人間でありながら、自分が老年に入ると、遅れてきたマニアックな若者を排除し、けっきょくは同時代に志ん生志ん朝の芸を見ているかどうかで勝負が決まると云わんばかりの特権意識には、ある意味、感心する。そういう臭みも含めて、この本はオモシロイ。