郷土愛の尻がうずく

朝8時半起き。残りの味噌汁とごはん。『新文化』6月29日号の永江朗「業界3者、『もたれ合い』から『自立』へ」読む。出版社、書店、取次の「三位一体」が幻想であることが明らかになったことを指摘している。永江朗さんとは『季刊・本とコンピュータ』第3号(1998年冬)の「欲しい本が本屋にない!」を最初に、ルポの担当をさせていただいたが、問題の立て方が明確で、業界外の人にも届く指摘になっている。今回も、専門紙への寄稿ながら、同じように感じた。ただ、三位一体の幻想を捨てたあとの「自立」のかたちをもっと具体的に示してほしかったと思う。同じ号には、福岡県福智町図書館(ふくちのち)の中に福岡の〈ブックスキューブリック〉が選書を手がける書籍販売コーナーが設置されたという記事も。同館の館長は、昨年秋の〈あぜのまち絵本美術館〉でのトークに来てくれた。あのときは開館準備中だったが、いまではさまざまな取り組みが話題になっている。近いうちに訪れたいものだ。

昼はツナとトマトのパスタ。新宿へ。〈角川シネマ新宿〉で木村恵吾監督『痴人の愛』(1960)観る。「おとなの大映祭」という特集上映で、『痴人の愛』はほかにもう一本の木村恵吾版(1949)、増村保造版(1967)を上映するという凝り方。私が観たのは、ナオミが叶順子、譲治が船越英二。二人の関係が滑稽でかつ哀しい。脇の田宮二郎川崎敬三もいい。始まる前、後ろの席で何か食べている音がしたが、それに向かって私の隣の男が「上映はじまったらガサガサ音たてるなよ!」と脅したのにびっくり。上映中に文句云う客はあっても、まだはじまってないのに云う奴は初めて見た。

紀伊國屋書店〉へ。私の新刊は2階の2か所に平積みされていた。ありがたし。〈新宿高野本店〉6階で早稲田大学演劇博物館特別展「あゝ新宿 アングラ×ストリート×ジャズ展」見る。新宿の街の写真をコラージュっぽく見せているけど、キャプションがないのはイメージを愉しむだけになってしまう。『新宿プレイマップ』は全号をガラスケースに収め、誌面は端末でめくって見るようになっていた。演劇のチラシが多く掲示されていたが、なかでも〈アートシアター新宿文化〉のものは、ずば抜けてカッコいい。これは若者がイカれるわけだよなあ。なんという芝居だったか、キャストに石立鉄男の名前があった。

会場で、高校の同級生の女性Nさんと待ち合わせ。〈紀伊國屋書店〉に戻り、〈紀伊國屋ホール〉へ。ここに来るのは何年ぶりか。中に入ると、昔とまったく変わっていない。「全国"出雲"再発見の旅!」というトークで、『出雲を原郷とする人たち』(藤原書店)を刊行した岡本雅享と、三浦佑之、佐野史郎が出演する。同書はもともと『山陰中央新報』に連載されたもので、岡本さんは出雲高校の同級生だったと友人から聞いた。例によって覚えてないのだが。興味を持っていたところに、Nさんに誘われたのだ。前半は岡本さんのレクチャー、後半は三人の鼎談。配られた地図を見ると、古代に出雲から人が渡った土地が、新潟、金沢、博多、松山、会津、長野と、私が訪れたり、これから訪れるところなのが、ふしぎな縁のように思えた。鼎談は三者三様の内容でまとまりはなかったが、それぞれが面白かった。佐野史郎さんの話は、イメージの飛躍がすごかった。終わってから、サイン会に並び、岡本さんと少し話す。

そのあと、Nさんと〈やんばる食堂〉へ。ココは新宿でも、安くてうまく沖縄料理のメニューが多い。その分、混むのだが、1階に入れてよかった。Nさんは初めての沖縄料理ということで珍しがっていた。旦那さんの仕事で海外生活が長く、いまはジャカルタに住んでいる。いまは一時帰国中だそうだ。私がクラスの週番の連絡ノートに面白いことを書いていて、それが文集(?)に載っていると教えてくれた。完全に忘れてた。混んだ山手線で駒込駅から帰ると。もう11時半。

私はもともと郷土愛が強いほうで、前の奥さんにも出雲の話をするときは「郷土愛の尻がぴくぴく動く」とからかわれていた。でも、実際には30年も東京に住んでいて、年に1回しか出雲に帰れないというジレンマを感じていた。それが「BOOK在月」に関わってから、地元の本好きとの縁も生まれ、今年の私の誕生日には旧出雲大社駅での一箱古本市が実現した。そういうことも含め、そろそろ、出雲について書いておきたいと考えている。興味を持ってくれる編集者と出会いたいものだ。

郷土愛の尻がうずいた一日でした。