飲み屋で本を語る人

萩原朔太郎関連の資料読みを続ける。『萩原朔太郎研究会会報』合本は、前橋で活動している研究会の会報で、講演の記録などが載っているが、この手の刊行物は会員の近況とか雑報とかがやたら面白い。3号に地元の詩人・東宮七男の「朔太郎と恭次郎」という文章が載っているが、そこに「大正九年に恭次郎は詩話会員になり、詩が『日本詩集』に選ばれた時、前橋の榎町にあったポンチバーで祝賀会が開かれた」とある。この「ポンチバー」は、先日前橋に行ったときに昼飯を食べた弁天通り(だったかな?)の〈レストランポンチ〉と関係あるのだろうか。あの店も大正年間の創業だとあったが。


昼はご飯に焼いた餅を乗せた餅茶づけ。伊藤信吉『監獄裏の詩人たち』(新潮社)を読む。萩原朔太郎の生家の近くにあった前橋監獄を舞台に、塀の中と外に関わった人たちについて記す。一見接点のない人たちが、次第につながっていくスリリングなノンフィクション。塀に使われた煉瓦まで追求する著者の姿勢がすごい。本文中に出ていることもあって、寺島珠雄の『南天堂』を思い出した。続いて、同じ伊藤信吉の『ぎたる弾くひと 萩原朔太郎の音楽生活』(麦書房)へ。版元の麦書房は世田谷で古本屋を営みつつ、出版もやっていた。店主の堀内達夫は萩原朔太郎研究会の維持会員(通常会員より会費が高い)で、資料の寄付なども行なっている。この本は図書館で借りたが、著者の署名入りだった。


4時すぎに出かけて、東西線で九段下へ。千代田図書館のブックポストに、大変長らく借りっぱなしにしていた本を返却。また東西線に乗り、阿佐ヶ谷へ。〈ラピュタ阿佐ヶ谷〉で映画観るまで1時間あるので、近所で開いている居酒屋に入る。客は二組で、ひとりは黒づくめで口ひげを生やした男。その男がときどき自分の頬をピシャッと叩いているので何かと思う。ビールを飲みながら『ぎたる弾くひと』を読んでいたら、その男が「失礼ですが、その本はなんですか?」と話しかけてくる。飲み屋で読んでる本のことを訊かれたのは初めてだ。こういう本です、と説明すると、「それはどういうジャンルですか」と訊かれる。まあ、評論ですかねえ、と答えると、それには興味を失ったようで、自分が本好きで昔は哲学や思想の本を読みふけったが、いまでは民俗史(こう云っていた)に興味があるという意味の話を延々とする。そのあと、時代小説の話になり、武田信玄より勝頼が偉いなどとまたしても延々。相槌の打ちようがなく、しばらく付き合っていたが、注文してた焼鳥が来たのをしおに、本に目を戻す。悪い人じゃないんだけど、対話ができないタイプなので付き合いにくい。


そんなこともあり、目算よりも遅く店を出て、ラピュタに戻ると、開始3分前。豊田四郎監督《東京夜話》(1961)。原作は富田常雄。渋谷のうらぶれたバーが舞台。出だしの雰囲気はよかったが、話がもたもたしていて眠くなる。これが初主演という山崎努と団令子のコンビもミスマッチな感じだった。