最初が一番たいへんでおもしろい

26日(土)、27日(日)の二日間にわたる、第一回「あいおい古本まつり」は余震も停電もその他のトラブルもなく、無事に終了しました。いらしてくださったお客さんに感謝します。このイベントのことを心に止めて、わざわざ足を運んでくださったというだけで、力強い応援になりました。知った顔、あちこちで見かけました。過密なタイムスケジュールのため、ろくにお話もできずにすみません。


ぼくはイベント担当なので、古本市以外の各企画について簡単にまとめておきます。


【26日】
★11:00〜 高橋美香スライドトーク「がんばれ、ハイサムとうちゃん」(あいおい文庫)。参加者13人。
オープンと同時にスタートなので、予約者が集まってくれるかが危ぶまれたが、時間前に集合してくれた。当日参加者もあり。高橋さんがパレスチナで撮影した写真のスライドを移しながらのトーク。ぼくは聴けなかったのだが、ガラス越しに見ていると、みなさん熱心に聴いていた。1Fタウンモールでの高橋さんの写真展は4月6日(日)まで開催。


★12:00〜 子ども一箱古本市(ウッドデッキ)、出店者5組。
外会場は、出口から見て左側に古本市、その左がパンの販売(佃のパン屋さんで、どのパンも美味しかった)。右側を子ども一箱古本市の会場にした。震災以後キャンセルが出たこともあり、これぐらいのスペースでちょうどいい。一箱古本市の助っ人さん(ロンドンピックさん、おやじランナーの連帯さん、脳天松家さん)にスタッフを頼む。11時になると店主さんが集まって来る。お父さんと男の子、お母さんと男の子、お父さんと女の子など。子どもの年齢も4歳から12歳までさまざま。4歳の女の子が「買ってくださーい」とかぼそい声で叫んでいると、つい、絵本など買いたくなってしまう。風がつよくて寒かったこと、子ども連れのお客さんが少なかったこと、子どもがだんだん飽きてくることなど、問題はあるが、これは参加店数が増えればかなり解決できると思う。それよりは、子どもが楽しそうに本を並べたり売ったりしてる姿を見られたことが、よかった。本来、終了時に結果発表とかやって盛り上げたかったが、ぼくはワークショップの最中でムリだった。売り上げや子ども店長のコメントなどは、近々、あいおいブックラボブログに発表します。


★13:00〜 ライブペインティング「即興絵画制作」(あいおい文庫)、参加者約40人。
あいおい文庫のガラス3面に全面大の紙を貼り、牧野伊三夫さんとミロコマチコさんが絵を描く。その後ろには、青木隼人さんのギターと柳家小春さんの三味線のセッションが流れている。二人の絵、二人の演奏が交錯し、溶け合う。ココで描かれた絵は、テーマを一言で説明できるものではないのだが、牧野さんのやわらかい線と、ミロコさんの大胆な線が同じ画面で交わっているのを見ると、なにかしら愉しい気持ちになってくる。このメンバーで初めてのライブペインティングだそうだが、はじまりから終わりまで、息の合った即興共同制作だった。時間区切らずに思う存分やってもらえたら、もっとよかったかも。この絵は4月6日(日)まで展示します。


★14:00〜 出版者ワークショップ公開版「画家が出版を行なう理由」(あいおい文庫)、参加者28人。
牧野伊三夫さんが、さまざまな立場で関わってきた雑誌や本についてお話を聴く。まず、なぜ画家になったのかを訊いたのだが、「画家」という肩書へのこだわり話してもらうだけで1時間近く掛けてしまい、あとの時間が足りなくなってしまった。反省。でも、つねに「画家」であろうとする牧野さんの姿勢が、「出版」においても共通していることは確認できたと思う。具体例では『四月と十月』『雲のうえ』『ウイスキーヴォイス』や自主出版の冊子などを紹介。進行中の『キツツキ』、『四月と十月文庫』のことも話してもらった。休憩なしで3時間一気に行なったが、参加者も熱心に聞いてくださったようだ。


【27日】
★11:00〜 被災時とその後のサバイバルマニュアル(あいおい文庫)、参加者8人(?)。
中止になった「佃祭ーどうしたら担げるの?」の代わりに、アニカ刊行の山村武彦著『非常本』を、同社代表の佃由美子さんが読み聞かせるという企画。この時間、ぼくはずっと8Fにいたので、見られず。


★11:00〜 古本屋、はじめちゃいました。(デイサービスセンター)、参加者約50人。
この1年以内に古本屋をはじめた石英書房、古書赤いドリル、古書信天翁ジャングル・ブックスの4組に、古本屋になろうと決めたきっかけや開店準備、夢と現実の違いなどを語ってもらうトーク信天翁の山崎さんが寝坊で遅刻という波乱含みのスタートだったが、それぞれの店の特徴や古本屋という仕事についての考えを、率直に話してくれたと思う。4人ともキャラが違うので、笑いを取るポイントもバラバラなのが面白かった。終わりが厳密に決まっているので、司会者としてはハラハラしたが、ピタッと12時半に終わったのは気持ちよかった。古本屋の肉声トークは、今後もあいおい古本まつりの目玉にしていきたい。


★13:00〜 出久根達郎講演「本の数だけ学校がある」(デイサービスセンター)、参加者45人。
古書店主で作家の出久根達郎さんの講演。月島・佃に縁の深い方なので、最初のイベントのメインゲストは出久根さんしか考えられなかった。あいおい文庫の砂金一平さんも、出久根さんを愛読したのがココに勤めることにつながったそうだ。最初は、幕末に起こった津波から多くの人を救った偉人が、本を通じて、勝海舟などと交流していたというエピソード。その後、皇后が愛読した詩の話、出久根さんが少年時代に通っていた新刊書店の話、そして、月島の文雅堂書店に勤めて、主人から教わったことと続く。「本の数だけ学校がある」という名言は、この主人に云われた言葉だという。全体を通して、「本がつないだ不思議な人の縁」が伝わってくる、いいお話だった。


★15:30〜 オグラ ライブ(デイサービスセンター)、参加者約30人。
本来なら古本市が終了したあとのクロージングとしてのライブだったのだが、施設の都合で早めのスタートとなった。そのためお客さんは少なめだったが、それでも、オグラさんは飄々として、手回しオルガンとともに歌ってくれた。「月光値千金」「東京キッド」などの流行歌や唱歌を中心に、オリジナルの曲も。途中で、ケータイで撮った写真に詩を付ける「ケータイ写真詩」を紙芝居風に読む。施設のお年寄りが5、6人聴きに来てくださったのだが、一番前に座ったおばあさんの一人がノリノリで、一緒に口ずさんだり、「上手ねえ」などとオグラさんに声をかけるので、盛り上がった。年齢とか経歴に関係なく、この場にいる人が、みんな楽しめて、ひとつになれるライブだった。終わったあと、3枚組の『オグラBOX』とシングル『外市の唄』を買ってしまう。


ライブが終わると、外は夕焼け。8階を片付けて、下に降りると、古本市も撤収にかかっていた。イベントに貼り付きでぜんぜん本を見られなかったので、片付けしているヨコで、やすだ書店出品の『サッポロ』という雑誌のバックナンバーを物色し、9冊買う。星新一とか大坪砂男とか、執筆者がシブい。寝床やさんの棚で買おうと思っていた、『わが上林暁』という自費出版の本は、開始早々に砂金さんが買ったそうな。くやしい。


本や什器を車に積み終え、お疲れさんのミーティングをして解散したのは、7時すぎだったか。お蔭さまで、チャリティーの募金がかなり集まった(金額は公式ブログで発表)。古本市の売り上げは、店によってばらつきがあったが、前の準備のことも考えると、全体的にもっと欲しいところだ。でも、今回は顔見せなので、次からは各店がもっと売れるやり方を考えていくことだろう。


3カ月かけて準備してきたあいおい古本まつりも終わってみれば、あっという間だった。初めてのメンバー、初めての会場。手探りで考えていくのだから、なかなかカタチが見えてこないという不安はあった。チラシやブログでの告知も、どれだけの人たちに行きわたったのか手ごたえがつかめなかった。イベントでも雑誌でも同じだけど、最初が一番たいへんで、カタチの定まったあとから見直すと「なんでこんなところで悩んだんだろう」「ここはこうするべきだった」という正解がすぐ分かる。でも、すべてが不定形な状況で、いろんなことを話し合い、一緒につくり上げていく時期が一番おもしろいのは間違いない。『季刊・本とコンピュータ』、不忍ブックストリートに続き、「一番たいへんでおもしろい」時期を体験させてもらって、本当によかったと思う。


施設の中と外をつなぐ役目を見事に果たし、大震災という歴史的な出来事を経てもこのイベントを実現させた代表の砂金一平さんの頑張りには、尊敬の念を抱きます。この場にぼくを呼んでくれ、つねに全体を見ながら進行させていった古書現世向井透史さんにも、ありがとうと云いたい。いちいち名前は挙げないが、他のメンバーの皆さんとも一緒にやれてよかった、次も一緒にやりましょう。


長くなったのでこの辺で。第一回「あいおい古本まつり」は終わりました。でも「あいおいブックラボ」の活動は始まったばかりだし、すでに次のイベントに向けて、なにかしら動き出しています。これは「おわりのはじまり」なのです。