十返肇をスクリーンで

昨夜早く寝たので、今日は早起き。『SPA!』の書評。今回は、根本敬『因果鉄道の旅』(幻冬舎文庫)。元版が出たのが1993年。もう17年も経つとは。1990年代には、社会がフラット化していく半面、鬼畜とか電波とか裏モノとかの本が小ヒットしたのだが、いまでも同じ位置に立ち続けているのは根本敬ひとりという気がする。奥付けに「イラスト、図版多数のオリジナル単行本も版を切らさず販売中」とあるのが、ちょっとオモシロイ。本文中に、『人生解毒波止場』も同文庫に入る予定とあった。


1時ごろに出て、渋谷。いい天気になったので、人通りも多い。〈シネマヴェーラ渋谷〉の鈴木英夫特集。《やぶにらみニッポン》(1963)は、外国人の日本ルポが原作で、オリンピック前の混沌とした東京の姿を描こうとしている。しかし、脚本がお粗末で、コラムのエピソードをひとつひとつブツ切れに読まされているみたい。白川由美もおばさんみたいで魅力ないし。しかし、この映画には評論家の十返肇が出ているのだ。そのことを教えてくれたのは、ブログ「日用帳」(http://d.hatena.ne.jp/foujita/20060711)で、以来、いつか観たいと思っていたのだ(そのワリには、じっさいにタイトルを見るまで気づかなかったけど)。十返は「山岡新張」という小説家役で、他誌の作品と登場人物を間違えて、後ろの助手に「これ、直しといて」とほおるといった演技をしている。もう一人、寺内大吉も出ているが、こっちが確実に大根なのに比べて、十返はそれなりに上手い。あと二カ所出ているが、座談会のシーンは眠ってしまって最後のところしか見られなかった。パーティーでホステスを従えて酒のグラスを持っている十返は、さすがに堂に入っている。もうちょっとオモシロイ映画(田中小実昌の出た鈴木則文映画とまでは云わずとも)に出てくれると、よかったんだけど。


もう一本は、《不滅の熱球》(1955)。戦前戦中の巨人軍の名投手・沢村栄治を池辺良が演じる。大柄で陽性の池辺は、野球選手にはよく合っている。千秋実がキャッチャーというのも、なんか合う。笠智衆が監督なのはどうかと思ったが、意外に適役だった。妻となる司葉子も可憐だが芯の強いところを見せる。最初の招集からやっと帰り、苦労して元の力を発揮しはじめたところで、再招集、そして戦死する。その悲哀を抑え気味の演出できっちりと描く。脚本にめぐまれた鈴木英夫はやっぱり凄い。戦場のシーンもかなり迫力があった。
 

ブックファースト〉で仕事の本を買って、千代田線で西日暮里へ。一箱関係でいろいろ連絡していると、9時前になる。〈ときわ食堂〉で晩飯。最後の一人になってしまった。