楽天羽鳥日記

タイトルは山本周五郎楽天旅日記』より。なんか、この題名が好きなので。もう日付変わりましたが、本日の「羽鳥書店のつくりかた」、無事終了しました。たくさん参加いただきありがとうございます。感想は改めて。参加された方でブログ、ツイッターなどに感想を書かれた方は、ココにトラックバックされるなり、下記をフォローしていただければ嬉しいです。羽鳥さんにもお見せします。
https://twitter.com/kawasusu


その席上でも告知したのですが、6月から神楽坂〈シアターイワト〉「ひょうげん塾」ではじめる「出版者ワークショップ」の残りが1名様になりました。今日のトーク参加者のうち3名様が申し込んでくれました。この反応の良さは、羽鳥さんのお話のおかげでもあると思います。ワークショップがはじまると、しばらく途中参加は受け付けないつもりなので、興味のある方は早めにご連絡ください。
http://d.hatena.ne.jp/kawasusu/20100205
【4月26日追記】最後の1名から申し込みがあったので、受付を締め切ります。ありがとうございました。


午前中、もろもろ準備して12時に出かける。道灌山通りの中華料理屋で昼飯。リニューアルしてちょっと美味くなった? 八朔ゴムはんから今年のスタンプが届いたので、〈古書ほうろう〉に届ける。アルテスパブリッシングのフェア開催中。その棚から和久井光司『「at武道館」をつくった男』を購入。ついでに、CD棚でさねよしいさこ[アイス!]も。こないだ、このヒトの昔のアルバムを図書館で借りて聴き直したら、やっぱり良かった。バスで光源寺へ。水族館劇場の建てこみがはじまっている。宮地さんと落ち合い、トークで使うアンプを借りる。タクシーで東大農学部のなかまで入る。集合時間よりだいぶ早く着いたので、ベンチで資料を眺める。


13時半になると、不忍ブックストリートや「でるべんの会」の面々がやってきて、今日の会場の〈S〉に入る。予約が62人、スタッフが十数人ということで、相当キツキツに詰めてなんとか椅子が並べられた。アンプの有線マイクが反応せず、普段使ってないヘッドフォン式のワイヤレスを使うことに。慣れないと、喋っていてナンか不安だ。その他、懇親会のことなど、打ち合わせもろもろ。


15時に羽鳥和芳さんトーク羽鳥書店のつくりかた」開始。まず、羽鳥書店まつりの話から入る。そこで羽鳥さんがある種の「こりない人」であることを示しておいて、本題へ。羽鳥書店が注目された理由は、(1)このご時世に5人のスタッフでスタートしたこと、(2)法学と美術、人文書という一見バラバラの方向性を持っていること、が大きいと思うが、それはだいたい明らかにできたと思う。次に、さかのぼって東大出版会時代のハナシ。大ベストセラー『知の技法』や『山口晃作品集』ができるまでを語ってもらう。ここまでで残り時間が少なくなり、最後にこれからの出版についてちょっとだけ話す。質疑応答ではプレジデント社の石井伸介さんが、「団塊の世代のリタイアで、もっと出版社が創立されてもイイはずなのに、なぜ少ないのか?(昨年は8社だとか)」という質問をし、それに羽鳥さんが「理由はよく判らないけど、やろうと思ったら出版社をつくるのはそんなに難しくない」と答える。


トーク全体を通して、私が以前から感じていた、羽鳥さんの楽天性が参加者には伝わったと思う。根拠を問われるとそれなりの理屈をつけることは、編集者だからお手のものではあるのだが、本当はその理屈の裏に、この著者、この企画は絶対に大丈夫という、根拠以前の確信をつよく持っている人なのだ。だから、このヒトの出版社なら、なんとかなるだろうと思わせてくれる。団塊の世代が自分で出版社をつくらないのは、企画は持っていても、羽鳥さんのような楽天性も確信も持てずにいるからかもしれない。


もうひとつは、羽鳥さんのエゴの薄さだ。トークのなかに、羽鳥書店のスタッフがいかに優秀で、彼らの意見によって会社が成り立っていることが何度なく出てきた(営業の糸日谷さんなんかは、ほとんど黒幕扱いだった)。これは出版社の経営者としては、すごく珍しいだと思う。


他にもまだまだ訊きたいことは多かったが、あとがあるので5時ちょっとすぎに終了。懇親会に移る前に、いちど外に出て待つ。そのとき、ある男性から「かゆいトコロに手が届くような司会でした。あとで質問しようといろいろメモとっていたけど、南陀楼さんが聴き出してくれるので、だいたい解決しました」と云ってもらったのは嬉しかった。そう云っていただければ、司会冥利に尽きます。


ついでに書くと、ぼくが昨年出した『老舗の流儀 戦後六十年あの本の新聞広告』(とうこう・あい監修、幻冬舎メディアコンサルティング)には、東大出版会の出版物がいくつか入っていて、『知の技法』についての項もある。この原稿を書いたのは昨年の3月ごろだが、まさにその頃、自分の家のすぐそばに羽鳥書店ができていたということは、校了後に知った。ちなみに、もう一冊『日本の活断層』という資料集が、1995年の阪神大震災後に急に売れ出したことも書いているが、これは、『知の技法』の翌年のこと。わずか一年以内に、同じ版元のタイプの違う本が2冊、それまでとは変わった売れ方をしたという事実は興味深い。


懇親会には30人ほどが参加。言問通り上の〈桃と蓮〉のケータリングは、大皿にいくつかの料理を盛り付けている。パエリアをはじめ、どれも美味しかったのは、料理があまり残らなかったことでも判る。参加者といろいろ話す。でるべんの会の常連もいるが、初めてだという人もけっこういた。


トークでは話したかったが、カットせざるを得なかったブログ「たぬきちの「リストラなう」日記」(http://d.hatena.ne.jp/tanu_ki/)についても、何人かと話す。ココで簡単に書いておくと、ぼくはたぬきち氏が会社を辞めるにあたって、その状況をブログで公開したことは、面白いと思う。コメント欄では「しょせん大出版社の高給取りが」みたいな反応が多いが、同じ業界でも会社の規模や年収が違うのは当たり前なのだから、自分の立場をふまえて現状を記録することは(金額を明らかにすることも含めて)正しい。


ただ、やっぱり反応がすごかったことで、舞い上がってしまったんだろう。たぬきち氏のなかで、「会社を辞めること」が「新しい何かを始めること」にいきなりすり替わってしまっている。だって、文章読む限り、まだ具体的に何をやるか決めているわけじゃないでしょ? それなのに、会社を辞めることが出版業界を変える革命みたいになっちゃってるのが、なんだかなあ。若い書店員との飲み会で、「僕らに何してほしいですか?」と問われて、「そうねえ。何か業界ぶっ壊すようなことやってほしいなあ。いますぐに」と答えているが、なんでそういう話になるのか。今日のトークでも出たが、いまの出版業界がいろいろ機能不全を起こしているのは間違いない。だから、ぼくはフリーランスの立場で、ぼくなりのしかたで、なにか別の道が探れないかと模索している。でも、業界をぶっ壊したいと思ったことなんかないよ。なんらの処方箋も示さず、しかも、自分でやるんじゃなくて、書店の現場にいる人に「業界をぶっ壊せ」なんて、飲み会の席とはいえ、底が浅すぎる発言だと思う。


8時半にはお開きになり、会場を出る。ふだんはバーとして営業しているこの店だが、雰囲気がいい上に、お店の人の対応もフレキシブルで、こういうイベントにはすごく合う場所だった。また何かの企画で使わせていただきたい。トークの会場費+飲み放題+ケータリングで、いつもの「でるべんの会」より少し高い会費になったが、みなさん満足してくださったのでは。それにしても、これだけ多くの予約が入っても、ドタキャンが数人出ると主催者としてはつらいんだよね。


この店でやるというアイデアを出してくれたトンブリンさんと、桃と蓮のマスターとタクシーで桃と蓮へ。パエリアの残りを持ち帰りにさせてもらう。ビールを一本飲んだら、なんかぐったりと疲れが出たので、先に失礼して、タクシーで帰る。今週は一箱古本市をはじめ、いろんなイベントの準備や立ち会いがあるので、仕事も早めにやっとかないとなあ。