夏の高遠へ

朝5時半起き。昨夜は蒸し暑くて寝苦しかった。6時前に出て、新宿西口。高遠ブックフェスティバル専用の1泊2日ツアーバスに乗る。一人で参加したので、隣は当然知らない人。2人掛けのシートで身動きできないのはつらい。車内には晶文社の宮里さんの姿も。高速に乗ってすぐに渋滞となり、4時間で着くところが5時間後の12時に高遠到着。以前来たのは秋だったので気づかなかったが、高遠は盆地なので夏は暑いのだという。バスを降りるとたしかにかなり暑い。それでも、風があるので動き回ることはできる。


図書館で、伊那市までの路線バスでやってきたNEGIさんと会う。東京でポスターやパンフが配られ始めたのが7月に入ってからだったので心配していたが、メイン通りだけじゃなくて、裏通りにも人があふれている。若い人だけじゃなくて、家族連れや熟年夫婦も多い。なにか面白いことをやっているみたいだという期待を持って、県内の各地から車で集まって来ている(河原の駐車場は常に満員だった)。本部の置かれる「やますそ」は、今日は期日前投票、明日は投票の会場でもある。投票所の奥に食堂や「世界の本の町」の展示場があるのは、なんだか面白い。本部で取材の腕章(こういうのをちゃんと用意しているのがエライ)を受け取る。


茅野からレンタカーでやって来たツカダさんと相方さんと会い、〈みすず食堂〉へ。1階が満席で2階の座敷に通される。前から食べたかったローメン(汁気のある焼きそばみたいなもの)を食べる。蒸してから焼いたメンと汁がよくからみ、ウマい。暑いので、瓶ビールを3人で分けて飲む。そのあとメイン通りの展示や古本販売を覗く。ブックマーク名古屋にも参加していた〈五つ葉文庫〉さんの「痕跡本」展示がアホらしくて、楽しい。五つ葉さんはこのフェスの中で痕跡本を探すというツアーも行ない、参加者を先導して歩いていた。この企画、不忍の一箱古本日でもやってほしいな。お寺の山門には、長野のミニコミ『街並み』のスタッフがバックナンバーを販売。小布施の特集を買う。


角田光代さんのトークの終りぐらいに会場を覗き、写真を撮る。そのあと、ツカダさんの車にNEGIさんと便乗して、〈高遠長藤文庫〉へ向かう。いちど来ているぼくがナビゲートしてたどり着くが、なんと臨時休業の張り紙が。「当店は高遠ブックフェスティバルには参加いたしておりません」とある。うーん。店主のOさんは知り合いだし、現〈本の家〉と袂を分かった経緯も取材している。だから、フェスに参加しないのは当然でも、わざわざ休むことはないのでは? 我々は車だからヨカッタけど、フェスの地図を見て、バスに乗ってここまで来たらしい人がチラホラ近辺にいたのだ。彼ら、彼女らはさぞやガックリきたことだろう。帰りに〈TETSURO〉へ。築90年の古民家で、豆本や器を展示している。ご主人は鉄をつかった生活用具をつくっている。ぼくにしては珍しく、蓋つきの小さな入れ物が欲しくなる(NEGIさんもそう云ってた)が、用途が思いつかないので断念。ちょっと惜しかったな。


郵便局の前で車を降りると、島村利正の文学碑があった。高遠についての文章が、前面は自筆で、後ろ面は本の反面そのままで彫られている。この日は高遠に縁があったんだとしか思わなかったが、翌日図書館で調べてみると、島村は高遠生まれだった。全集には故郷についての随筆が何篇も収められていた。秩父や奈良についての作品が多いので、出身についてはあまり意識していなかった。そのあと、「お好み本ひろしま」の財津さん、加井さんに会い、〈土味の家〉でコーヒー。11月の広島でのイベントの進捗状況を聞く。


また通りに戻って、美篶堂の展示会場で上島真一さんに取材。飯沢耕太郎さんのトークを聴きたかったが、次のイベントとかぶるので断念。7時に図書館の児童室で、「往復譜面集からの音楽ライブ」を観る。二階堂和美、岡田kaya真由美、黒川紗恵子とこの日参加しなかったもう一人で、曲の断片を書いた手書きの譜面を相手に送り、新たな譜面を加えて完成していくという試み。岡田さんは「譜面もまた書かれた文字なのです」と云う。解説を加えつつ演奏されていく曲は、ジャズのようなロックのようなクラシックのような、不思議な味わいだった。二階堂和美さんの歌がほとんど肉声に近いかたちで聴けて幸せ。しかし、8時には伊那市行きのバスが出てしまうので、途中で抜けざるを得なかった。これに限らず、今回のイベントは微妙に時間が重なるものが多く、どちらかを諦めないとならないのが惜しい。ホントは8時からの都筑響一トーク、10時からの北尾トロトークにも出たかったのだが、しかたない。


町中で出会った知り合い。ブックマーク名古屋実行委員の〈YEBISU ART LABO〉の二人、〈シマウマ書房〉さん(別々に来ていた)。新文化の石橋さん。現在浜松にお住まいのライターの石井政之さん。金沢〈あうん堂〉の本多夫妻。本の町展示を担当した青秋部のイシイ・ナカムラ。などなど。


伊那市までは30分。ホテルの鍵を受け取ってから、部屋に入らずに、近所の飲食街へ。〈来々軒〉というベタな名前の中華料理屋がよさそうなので、入ってみる。ビールとスーローサイ(ローメンの麺抜き)、それとソースカツ丼。どちらも雑というか、あまり凝ってないつくり方なのがイイ。満腹して部屋に戻り、同じ階にある大浴場で湯につかる。バスでもときどき読んでいた、折原一『逃亡者』(文藝春秋)を読了。いつものように仕掛けに凝るのではなく、主人公の女性の逃避行がリアルに描かれている。なんとなく、酒井法子に重ねながら読んだ。ラスト20ページほどでどんでん返しがあるが、これで謎が全部解決したのか、いまいち飲み込めず(誰かに教えてほしくて、翌日、NEGIさんに渡した)。空調の調整がうまくいかず暑かったり寒かったりで、夜中に目覚めてしまった。