「おいどん」と云う志村喬

昼すぎまでに『進学レーダー』の原稿を2本書く。一区切り付いたし、旬公に取材が来るらしいので、外に出る。池袋に着き、〈新文芸坐〉の近くのラーメン屋でつけ麺を食べる。〈K1ブックス〉(だったか?)の均一で3冊買う。〈新文芸坐〉の特集「時代劇ぐらふぃてぃ」で、伊藤大輔監督《鞍馬天狗 黄金地獄》(1942)、マキノ正博松田定次監督《鞍馬天狗 角兵衛獅子の巻》(1938)を観る。大佛次郎マイブームなのでちょうどいい。どちらも16mmでの上映。ハナシが派手で、撃ち合いや爆発シーンなど金の掛かっている前者より、画面が褪色して見にくいし、ハナシも地味な後者の方が断然オモシロイ。親方に叱られて腹を空かせて寝ている角兵衛獅子の兄弟に、娘がそっとおにぎりを差し出す。親方にばれないように、声を挙げて二人を叱りながらおにぎりを渡すシーンなど、泣かせる。志村喬西郷隆盛役で出ていたのに笑う。太い眉を描いて「おいどん」と云っていれば西郷というステレオタイプの見本みたいな演技。とはいえ、前者では爆睡、後者でも少し寝てしまった。客は50人ほどで、女性は一人もいなかった。


終わってから、〈往来座〉へ。店内でドリルを使う音がすると思ったら、瀬戸さんが本棚を製作中だった。なんでも「こないだウチザワさんの本棚をつくって自信を持った」そうだ。大佛次郎の随筆集『ちいさい隅』(六興出版)、『砂の上に』(光風社)、『十五代将軍の猫』(五月書房)、小説『帰郷』(新潮文庫)を買う。いずれも安い。大佛次郎のエッセイ集はやたら多いけど、いったい何冊あるんだろう?


〈リブロ〉で、久米田康治さよなら絶望先生』第12巻(講談社)と岡崎京子『東方見聞録』(小学館クリエイティブ)を買う。後者は、1987年に『ヤングサンデー』創刊号から連載されたものの初単行本化。こんな作品、知らなかった。駅前から浅草行きのバスに乗り、掘割で降り、久しぶりに〈高木〉へ。ビール、焼酎水割りで、煮込み半杯(一杯だとちょっともたれる)とミートボールなどを食べる。この店はいつも適度に空いていて、適度に賑やかなので、本を読みながら飲むのにちょうどいい。バス停がすぐ近くなのもイイ。また浅草行きのバスに乗って、ウチに帰る。