文化批評雑誌『HOLIC』を集めてみたい

kawasusu2008-01-14

明日、ライターの渡邉裕之さん(http://d.hatena.ne.jp/hi-ro/)と久しぶりに会うことになっているので、本棚から、渡邉さんがスタッフとして参加していた『HOLIC』(発行・少年社、発売・雪渓書房)を取り出してきた。B5サイズで80〜90ページ。表紙も含めカラーはなく、文字が詰まっている。各号の特集は次のようになっている。


創刊号(1985年5月) 特集:きわどくパフォーマンス
2号(1985年7月) 特集:まぶしいか? 60年代
3号(1985年9月) 特集:アイドル、見つけた!
4号(1985年11月) 特集:住宅開拓宣言
5号(1986年1月) 特集:細野晴臣観測事典
6号(1986年3月) 特集:声と語りの大宇宙
7号(1986年5月) 特集:美少年マンガと少女


ぼくが持っているのは、創刊号、4号、7号の3冊。ほかの号も集めたいものだ。7号の次号予告に「特集:カルト・ムービーって何だ!」とあるが、出たかどうかは不明(ちなみに国会図書館のデータでは、1巻3号(1985年9月)以後廃刊と大ウソが書かれている)。【追記・渡邊さんの話ではやはり8号は出ずに終わったそうだ】


この雑誌のキャッチフレーズは「文化中毒者のための批評ドリンク」(7号では「元気な批評マガジン」)。特集のほか、各ジャンルの批評・コラムが載っている。たとえば創刊号では、大友良英・神谷一義(音楽)、久保覚斎藤美奈子・長岡義幸(本)、松山巌(建築)、藤井誠二(教育)、朝倉喬司(犯罪)、西垣内堅佑(法律)らが寄稿している。ほかの号でも、小田光雄(本)、石原基久(落語)、近藤十四郎(アダルトビデオ)らの名前が目に付く。三上寛の連載「出前人生相談」もある。


少年社は、東大赤門前の「赤門ビル」という古いビルに入っていた。ぼくが大学1年のとき(まさに『HOLIC』が出ていた頃)、1階に古本屋があってよく行った。そのときに「少年社」というロゴ入り看板を見ている。少年社は冨田均の『東京徘徊』や『聞書き寄席末広亭』などを刊行している。『HOLIC』にはその冨田が、意外にも、テレビとスポーツについて旧かなづかいで時評を書いていて、コレがめっぽう面白い。たとえば、「徹底取材!! 東京新名所100ヶ所マラソン」という番組について、こう書く。

各種学校、博物館、牧場等々胡散くさい施設が次々に紹介されてゆく。歌ひ文句の筈の“マラソン”はどこにもなく、各施設の間を車でレポーターが移動してゐるのは歴然。これは詐欺である。なぜマラソンが面白いかは、各施設をつなぐ経路を写し出すことであるひは東京といふ町の微妙な空間構造が浮かび上がるかも知れないと思はすからである。たとへば谷中の大名時計博物館から渋谷の塩と煙草の博物館に向かふ経路を丹念に追つてみることが、今のテレビで必要なことなのだ。もうどこそこにこんな施設があると教へてくれたところで何も知つたことにはならない。情報の提供、つまりは東京紹介の時期から、今はもう東京をどう映像で表現するかに入つてゐる筈だ。


しかし、この文章から22年経っても、テレビは「東京紹介の時期」から抜け出てはいない。なお、冨田は同じ号で、東京国際マラソンについて、そのルートをたどりながら、「宗(茂)は東京の案内者であった」と書いている。「宗は都市空間の構造を開展しながら、それぞれの町を、坂を、崖下を、丘を吹きぬける風のやうに疾走してゐた」。


『HOLIC』の編集長は森口秀志。現在は在外日本人や教育などについて書いている。渡邉さんは創刊号から7号までスタッフであり、4号の特集「住宅開拓宣言」では、「家は想像力のかたまりだ」という、のちの渡邉さんの仕事に直結するような文章を書いている。


ちょっとハナシがずれるけど、先日、〈古書ほうろう〉の宮地夫妻に誘われて、『雲のうえ』のプロデューサーである中原蒼二さんの逗子のお宅に遊びに行った。中原さんは昔、UPUで編集をしていたそうで、1986年に出した『東京劇場 ガタリ、東京を行く』という本を見せてもらった。文字通り、フェリックス・ガタリが東京に来て、柄谷行人浅田彰と対話したときの記録で、写真集みたいな造りになっている。その中に下北沢の「ラジオ・ホームラン」にガタリが来たときの写真が載っていて、「そういえば、渡邉さんもメンバーだったな」と思った。そして帰ってから渡邉さんのブログを覗いたら、その二日前にそのときの写真がアップされていたのだった(http://d.hatena.ne.jp/hi-ro/20080108)。フシギな偶然。


図版は創刊号に載っていた、宅配ビデオ屋開業の広告。なんだかスゴイので載せてみた。「時代の波に乗って大きく稼いでリッチになろうではないか」とある。開業セットに含まれるビデオデッキにベータがあるのが、哀しい。この広告を見て宅配ビデオ屋を始めて、一山当てた人はいるのだろうか? いたら、会ってみたい。


昨日の東京新聞書評欄に、塩山芳明『東京の暴れん坊』の書評が載りました。筆者は岡崎武志さんです。「本はすべて身銭を切って買っていることが、誰にも文句は言わせないという著者の盾になっている。しかも盾は分厚い」……。よかったねえ、塩山さん。


【追記】「日本の古本屋」で、『HOLIC』3号が出ていたので入手。特集「アイドル、見つけた!」は、タレントのアイドルだけでなく、歌手や文化人なども取り上げているが、1色ページでアイドル特集をやるのは、1985年の時点でももう無理があったのではないか。この中で、詩人の北村太郎戸川純への偏愛を語っていた。ねじめ正一荒地の恋』で描かれていた、アパート住まいの時期に書かれたものだ。