われ、トヨザキ書評講座に参戦す

朝8時起き。洗濯や掃除をして、鎌倉の義父母の到着を待つ。10時ごろに来て、1時間ほど話す。そのあと、自転車で西日暮里へ。某誌のアンケートを書いて送る。山手線で池袋へ。〈往来座〉の「外市」へ。朝寒かったが、ちょうどイイ天気になっている。出足も好調のようで、店番のNEGIさんに「南陀楼さんの出したスクラップブック、すぐ売れましたよ」と云われる。やったー、2万5000円! 牛イチロー先生から早稲田での売り上げも受け取る。これも思った以上の金額で、すっかりいい気分に。


だからというわけではないが、今回は結構買った。『おれたちのジャズ狂青春記 ジャズ喫茶誕生物語』(ジャデック出版)1500円、古山高麗雄『私の競馬道』(文和書房)700円、『縮刷丸の内今と昔』(三菱地所)500円、『雑誌・創刊号蔵書目録』(大塚文庫)500円、都筑道夫『サタデイ・ナイト・ムービー』(集英社文庫)200円、京須偕充圓生の録音室』(中公文庫)300円。


NEGIさんと一緒に西武のイルムス館へ。上の池袋コミュニティ・カレッジで、豊崎由美さんがやっている書評講座のゲストに出るのだ。知り合いの見学も可ということで、NEGIさん、モンガ堂さん、『S』誌のUさん、高野マユたん、『ぐるり』の五十嵐さんが来てくれる。講座は課題本か課題テーマから選んで各自が書いた書評を、匿名状態でみんなが読み、「天・地・人」の評価をしていくというもの。課題本がビジネス本だったので、なかなか書きにくかった。17人書いたうち、ぼくは4位。「ゲストでも最下位になっちゃう人がいるから、いいほうですよ」と受講生になぐさめられる(末尾にその書評を転載します)。豊崎さんと受講生のやりとりが活発で、オモシロかった。最後に『東京の暴れん坊』を「けなし書評の見本」と宣伝すると、豊崎さんをはじめ5人が買ってくれた。


5時に終わって、近くの居酒屋で打ち上げ。さらに場所を移して三次会。みんな何期もやっている常連ばかりで、盛り上がっている。フリー編集者のアライユキコさんと、ゲームデザイナーでライターの米光一成さん、ミステリ評論家の香山二三郎さんらが参加。アライさんとは彼女が文芸フリペ『カエルブンゲイ』をやっていたとき以来、久しぶりにちゃんと話した。トヨザキ社長はあちこちで展開されている話に参加し、ツッコミを入れ、ゲストの飲み物を心配し、追加注文をまとめるという世話振りで、講師が最初から最後まで幹事をやっている講座は初めて見た。みんな酒に強く、果てしなく続きそうな気配なので、12時すぎに失礼して、タクシーで千駄木に帰る。だいたい様子がわかったので、次に呼んでもらう機会があれば「書評王」をめざしたい。


以下は26点獲得の書評原稿です。珍しくけなしてみましたが、いまいち生ぬるかったか。

フランソワ・デュボワ『日本人には教えなかった外国人トップの「すごい仕事術」』(講談社


 最近、『ビッグコミックスピリッツ』で、『GTR―GREAT TARO REVOLUTION―』(椎名理央原作・戸田尚伸作画)というマンガが連載されている。日産が新しいGTRを発表するのに合わせて、広報部員の視点からこのプロジェクトを描くというものだ。よくあるタイアップだが、トップのカルロス・ゴーンの描き方には笑ってしまった。ヘリコプターから降り立つなり、開発責任者(職人気質のガンコ親父。定年間近)と目で語り合い、おもむろにテストカーに乗り込むんだもの。ゾクゾクするほど類型的。
 そのゴーンをはじめ、シャネルのコラス、スターバックスのコラーレス、新生銀行のポルテなど、日本企業もしくは海外企業の日本法人のトップ五人が、自らのキャリアや人生設計を日本のみなさんにたっぷり語ってくださるのが、本書だ。
 ホストは、作曲家・マリンバ奏者であり、慶應大学で「キャリアデザイン教育」を行なっているという、フランソワ・デュボワ。
 デュボワは対話の冒頭で、多くの日本の若者が学歴や仕事上の経歴に縛られ、「人生そのもの」を見ていないと批判し、トップの「いや、私も社長になるなんて思ってもみませんでした」という言葉を引き出す。これで、将来を思い描けないでいる若者は、トップが気持ちよく語る人生行路を自分のこれからに重ねあわせ、豊かな気分を味わえる。対談相手と読者を同時に接待する、憎いお座敷芸者ぶりだ。
 ここでは、ポジティブな思考だけが礼賛され、失敗や挫折も貴重な糧とされる。「チャレンジした上での失敗は、本当に恥ずかしいのでしょうか。(略)むしろ、チャレンジして失敗したことを『恥ずかしいことだ』と思う人こそ、どうかしていると僕は思うのです」。そのあと、外国人が「恥ずかしい」をどう受け止めるかという説明が続く。
 日本文化は素晴らしいとか、日本人は謙虚だとか賞賛する一方で、「日本人には分からないかもしれませんが」「日本人には、そういうタイプの人がいますからね」などと、サラリと全否定する面の厚さにもシビれる。
 デュボワは、人は一人ひとり違う存在であり、キャリアの築き方もまったく違うという。 しかし、ここで語られている五人のハナシには驚くほど具体性がない。クリエイティブなものに憧れた青年期、日本に来て異文化に悩んだ自分、リーダーとしての方法論を見つけた時……。同じだよおんなじ。固有名詞を剥ぎ取り、枝葉のエピソードを刈り取ったまとめ方により、皮肉にも、「トップなんて似たようなものだ」というイメージがかえって強まる。
 それに対して、ホストたるデュボワの語りはやたらと具体的で念入りだ。多摩美術大学では情報デザイン学科の久保田晃弘教授に招待されて、二〇〇五年の後期セミナーをやったことがあります。私のマリンバの教科書は執筆に七年を要し、フランス語、英語、日本語で書かれ、今ではUCLAをはじめ世界中で買うことができます。……聞いてないよ、そんなコトは!
 対談相手に自分が愛用するマレットを持たせて写真を撮るという「羞恥プレイ」を含めて、ここまで無神経でなければ、外国人が日本で成功することはできないのかと、ため息がこぼれる。こいつら全員、即刻、六本木ヒルズに隔離して、「出島」から一生外に出さないでほしい。