出雲もやっぱり暑かった

昨夜7時に東京駅八重洲口から夜行バスに乗った。いつもは渋谷から乗ることが多かったのだが、霞ヶ関から六本木を経て渋谷にいたるルートを夜バスから眺めるのはなかなか楽しかった。渋谷からは満席となり、われわれの隣に母親と子ども三人が座る。小さい女の子がハシャぐのをほほえましく眺めていたが、1時間経っても一向に落ち着きなく騒ぐので、うとうとしていたのを起こされる。ちょっと注意したら静かになり、母子ともにすやすや眠り始める。おかげで、こっちは眠るタイミングを逃してしまう。利かない空調に悩みながら、本を読み、12時前にやっと眠る。終点の出雲市駅に着いたのは7時半。


タクシーで実家に帰ると、家のヨコの道路が完成していた。走る車も少なく、どう見ても不要な道路だと思うんだけどなあ。2階は涼しい風が通り、窓を全開にすると過ごしやすい。しかし、10時ごろになると風が止まり、日が照りつけてくる。やっぱりこっちも暑いのだ。父親が孫と乗るために自転車を購入していたので、前回の帰省でぼくが買ったのとあわせて2台になった。そこで旬公と出かけて、電器屋などを回る。途中、いつも使っている扇子(モクローのイラスト入り)が見つからなくなり、どこかで落としたのだと気づく。昨日手帳が戻ってきたばかりなのに運が悪いなあと思いつつ、来た道を逆にたどったら、駅前の道に落ちていた。見つかったのは嬉しいけれど、よっぽど通行量が少ないんだなあ。


えきねっと」でネット予約していた京都行きのチケットを受け取ろうと駅に行ったら、「予約が確認できません」との返事。帰ってネットで確認したが、ちゃんと予約が入っている。しかし、サービスセンター電話して、JR東日本管内でしか受け取りできないコトをはじめて知る。これは完全にこちらのミス。キャンセルしてもらい、改めて駅までチケットを買いに行く。自転車で往復して大汗かいた。


書庫の本を整理して、〈ガケ書房〉に送る本を発掘する。売れそうな本やCDがもっとたくさんあったような気がするが、すでにもう、何度かの売却でココにはないのだった。満腹だと思っていたら、それが錯覚だったような、さびしい気持ちを覚える。残っていた本のうち、日夏耿之介『瞳人閑語』(高陽社、大正14)を読む。序に「読みぱなしの書きぱなしを綴じてをく」とあるとおり、バラエティに富んだ随筆集。「獄中文学考」「焚書史話」「散歩の説」「映画の持つ芸術的境地に就いて」など、寝転んで読むのに最適。「大森あたり」には馬込文士村が成立する以前の大森、山王の様子が描かれている。「地獄風呂」という短文集には、神保町の古本屋街の批判が入っている。おもしろいので、全文引こう(踊り字などは普通の表記に換えた)。

読書子に贅沢は允されぬ。たまに古本街を見て廻る位しきや楽みはないが、その古本屋が特に神田神保町辺の店と来たら下種商人の根性を無遠慮に発揮して不愉快此上もない。これは対手とする書生のたちが誠によくないから自然さうなつたのでもあらうがこれこれにまかりませんかと云へば、黙つてそつ方を向く位はよい方で、ともすれば、あべこべにがみがみ噛み付くやうに怒鳴りつけられて仕舞ふ。いつか、ある本の値を訊いてこれには小別けにした目次はあつた筈だがと云へば、そんなものがあつてたまるものかい、人をバカにしたと顔色をかへて叱られてしまつた。これは松村の付近の色白い丸顔の三十位な主人の家であると覚えてゐる。少しヒポコンデリヤにでもかかつてゐたのであらうが、怒鳴つても暮しがつくから怒鳴りがきくのであらう。田舎出の学生特に女学生などは見てゐても気の毒な扱ひをされても買ひに行かねばならないのは、古本が割に高いと云つても幾分でも新本より安くつくから忍んで怒鳴られに行くのである。古本やの比較的上品なのは大学前の通りだ。早稲田は喧しいけれど乱暴ではない。神田も水道橋へゆく通りや丸善支店から国民英学舎へ行く通りは温和なしい。神保町と来たら、下種で、乱暴で卑しくして欲張りな店が十の七は占めてゐる。本好きはどうかしてこのインフエルノオを改めてやりたいとよく話してゐる。それには静かな散歩道に比較的人柄の古本屋のみの(沢山ゐるかどうか分らんが)組合で店だけの露店を開くのに、セーヌ河岸の古本屋が用ひてゐるといふホンの簡単な但し岩畳な箱に夜は鍵をしてかへるやうにしてゐる方式でもよからうが、日本の事だから箱を破つて盗まれてしまふのであらうから夜は車で持つてかへるやうにでもしたらどうかなど考へて見た。今のやうではヒステリーの本屋殿の機嫌を伺つて売つていただくのである。


負けてくれないからとココまで毒づくこともないとは思うが、「怒鳴つても暮しがつくから怒鳴りがきくのであらう」というのは当たっている気がする。ぼくが上京した頃でも、神保町の古本屋で店員にナニか尋ねるときにはビクビクしながらだったもの。


明日8日の〈カフェ・ヒナタ屋〉での書肆アクセス本の作業ですが、当初の時間を18時に変更したそうです。2時間ほどで終わるということなので、参加できるヒトはお願いします。