田端の小さな歴史に出会う

8時半起き。『週刊読書人』の原稿を書く。青木茂『書痴、戦時下の美術書を読む』(平凡社)の書評。珍しく短い時間で書けた。風は通るが、気温はけっこう高い。昼前に銀行や郵便局に行ったら、汗をかいてしまった。帰ると〈荻文庫〉から注文した本が届いていた。『千里相識 集古会記念華名冊』(非売品、昭和10)5000円。和装。集古会の会員に、出生地、住所、職業、研究の事項、蒐集分野、雅号などをアンケートしたもの。さっきの青木氏の本に出てくる、木村捨三(仙秀)が編集発行している。


韓国から本が届く。Yu Jong Koog(柳鍾局)『東京ロマン散歩』(デザインハウス)。東京のレトロ&アートな場所をめぐったフォト・エッセイ集という感じの本。オールカラー。谷中銀座、朝倉彫塑館、いろはに木工所、青空洋品店、ショップnakamura、結構人ミルクホールなど谷根千エリアが前半に載っている。「不忍ブックストリートMAP」の図版も。昨年の夏、Yuさんとイラストレーターの女性を案内したコトがあり(http://d.hatena.ne.jp/kawasusu/20050812)、それがこの本に反映された。ハングルなので読めないが、新潮社の「Yonda?」が4ページも取り上げられているなど、スポットの当て方がオモシロイ。大量の図版の著作権をクリアしたのかなど、多少の不安もあるが……。


『未来』も到着。新連載の内藤寿子「〈事件〉は誘惑する」がオモシロイ。1回目は「サルトルボーヴォワール、団地へ行く」。この二人が日本の団地を訪れていたとは。あと、フィルムセンターの板倉史明が日活アクションについて書いていて、興味深い指摘があった。だけど、掲載誌のせいなのか、それとも元からこうなのか、いかにも論文的文体なのに辟易。1974年生まれなのになあ。セドローくんの『早稲田古本屋街』(256ページ、予価1800円)の広告も載っていた。


午後は資料を読む。6時ごろ、根岸図書館(最近、台東区では休館日をズラして、月曜日開館の館がある)にちょっと寄り、西日暮里の〈はやしや〉でチューハイ。そのあと、JRの高架沿いを自転車で走り、田端新町のほうへ。暗くなった空の下、高台から山手線や新幹線が走る田端操車場を見下ろし、諏訪優の詩「田端事情」を思い出す。「崖下の操車場」についてうたった部分があるのだ。〈ブックマート〉に行く。出たばかりの新刊がすばやく入っている。東野圭吾『赤い指』(講談社)を安く買う。


ウチに帰り、昨日のハヤシライスを食べる。10時、田端の〈デニーズ〉で、「秋も一箱古本市」のナカムラ・イシイ組に会う。ナカムラちゃんの家は、田端駅を出てすぐのマクドナルドなどが入っているビルを持っているとのこと。しかも、以前は駅裏の小山にあった〈アンリィ〉という喫茶店を経営してたという。ええええっ? アンリィといえば、冨田均が幼なじみたちと過ごした喫茶店ではないか。『東京私生活』(作品社)には、そのアンリィにつづく「蛇のようにくねった細長い石段」のことも記されている。ぼくもかろうじて、その石段は見ているが、もちろん、いまはアンリィともども消失している。ナカムラちゃんのお父さんは、2階のアンリィと1階の焼肉店を経営していたという。あとになってナカムラちゃんが『東京私生活』を読んだことから、お父さんと冨田氏が文通したこともあるそうだ。なんか、すごく小さい、私的な、ささやかなことだけど、確実に歴史を感じさせるエピソードだ。


「秋も一箱古本市」の相談に乗り、『彷書月刊』の伝言板広告用の版下を旬公が描いたりしてるうちに夜が更けた。自転車に乗って、ウチに帰る。