意外性のない男

昨夜、名古屋で買った小峰元『青春抒情死抄』を読んでいたら、「阪チョン」というコトバが何の説明もなく出てきた。文脈から東京から単身赴任した男を「大阪チョンガー」と呼んだのだろうと判るが、そんなに普通に使われていたコトバなのか、これは? ネット検索してみると、いまでも使っているヒトがいるみたい。


朝8時半起き。もう一度最初からゲラを見直す。本文と注の整合性など、気をつけねばならぬところは多い。途中、日暮里図書館に行ったりしていると、すぐに夕方になった。7時に西日暮里で右文書院の青柳さんと待ち合わせ、焼き鳥屋へ。ゲラを渡し、代わりに索引を受け取る。1000項目あったのを、600にまとめてくれたという。


なんだったかで1980年代の話になり、宮沢章夫『「80年代地下文化論」講義』(白夜書房)は記録としては貴重だけど、もうひとつだったなあ、と話していると、青柳さんが「私もピテカントロプスには何度か行きました」と云うので耳を疑う。ええええええええええーっ? このつねに反時代的なお方がピテカンへ。続けて、「(高橋)ユキヒロのブランドの服がほしくてアルバイトして買った」とか、「弟と(ムーン)ライダーズのコンサートによく行った」などの、衝撃発言が続出。ぼく以上に1980年代文化を満喫していたんじゃないですか。それがどうしていまみたいに? と聞くと、1990年代に入って変わったそうだ。いずれ、その辺のコトをじっくり聞き出したい。


駅で別れて、山手線で新宿へ。〈テアトル新宿〉で、石井輝男監督《異常性愛記録ハレンチ》(1968)のレイトショー。これまでの石井監督の特集でも上映されてなかった作品がニュープリント上映されるとあって、場内はかなりの客。タイトルどおり、SM、スカトロ、覗視、同性愛などの異常性愛が描かれるが、さほど強烈なものではない。強烈だったのは、若杉英二の演技だ。囲っている女(橘ますみ)に、「ぼく、サビシイんだよ〜ん」「愛してるんだよ〜ん」と詰め寄ったり、唐突に「シアワセ?」と訊いたりする。最初から最後までそれを繰り返す、一本調子の変態ぶり。それなのに、タイトルでは、ちょっとしか出てこない吉田輝雄のほうが大きく扱われている。『石井輝男映画魂』(ワイズ出版)によれば、若杉は石井監督のデビュー作《リングの王者・栄光の世界》(1957)でボクサー役を主演するはずだったが、「ブクブクだし、ものすごく大きいし、どうやってもボクサーには無理だなあってことで」、宇津井健に決まったのだという。そのほぼ10年後にめぐってきたのが、変態の役……いろんな人生があるものだ。


ウチに帰り、旬公にさっきの青柳さんの話を伝えると、やっぱり死ぬほど驚いていた。「オレにもそういう意外な過去がないかなあ」と、そのあと1時間ぐらい、いろいろあげつらうが、どれもいかにもやりそうなコトばかりで、意外性のかけらもなかった。なんか、無難すぎるのだ。つまんねえなあ。