萬葉堂で1時間半

朝8時、前野家で目覚める。朝の風は涼しいというよりも、ちょっと寒いぐらい。宵っ張りで朝に弱いめぐたんも起きてくる。出かける前に、マンションの地階にある倉庫を見せてもらう。各部屋ひとつずつ倉庫が使えるのだ、いいなあ。とはいえ、段ボール箱が山積みで、動かしにくい状態ではあった。


保育園の前で健一さんとめぐたんと別れ、久美子さんの運転で30分ほどのところにある〈萬葉堂〉へ。仙台を訪れた古本好きがかならずといっていいほど驚きをもって語る、巨大な古書店。入ってみるとたしかに、どれぐらい奥まであるのかがワカラナイほどの広さだ。規模的には岡山の〈万歩書店〉本店と同じぐらいか。まず地下へ。ここも広い。ジャンルごとに整理されていて、本が探しやすい。久美子さんがこのあと用事があるので、速見モードで棚を回る。イイ本があるけど、わりとキッチリ値段を付けているというカンジ。原田三夫宇宙旅行の話』(現代教養文庫)500円、「地下の文学界リトル・マガジンの世界」という章のある諏訪優『ビート・ゼネレーション』(紀伊國屋書店)300円、持っているけど安いので、真尾悦子『たった二人の工場から』(未来社)500円、『新編・谷根千路地事典』(住まいの図書館出版局)800円、を見つける。


出版関係のコーナーで、『雑誌の編輯』(内外社、1932)3000円を見つける。内外社は昭和初期に『綜合ヂャーナリズム講座』全12巻を刊行しているのだが、コレは、その中の雑誌編集に関する記事を一冊にまとめたものらしい(あとで確認したら、その通りだった)。状態は悪く、背のところがテープで止めてあるが、このメンバーでこの値段なら安い。資料になるかもしれないので、収録内容を書き写しておこう。後ろの巻数は『綜合ヂャーナリズム講座』のもの(国会図書館DBで検索)

 
雑誌編輯の要諦      前博文館編輯局長・森下雨村→第3巻
雑誌体裁論                  山六郎→第5巻
原稿の依頼から整理まで   文学時代編輯・佐佐木俊郎→第10巻
座談会と合評会    前「モダン・日本」編輯・菅忠雄→第6巻
談話手記法       中央公論社営業部長・牧野武夫→第10巻
経済雑誌の新編輯      経済知識社長・後藤登喜男→第1巻
文芸雑誌の編輯       新潮編輯主幹・中村武羅夫→第5巻
婦人雑誌の編輯          婦女界社長・都河竜→第10巻
娯楽雑誌の編輯・その他   犯罪公論編集長・田中直樹→第12巻
幼年少年少女雑誌の編輯   前「赤い鳥」編輯・木内高音→第5巻
演劇雑誌の編輯に就いて   前「劇場文化」編輯・久保栄→第4巻
運動雑誌の編輯      国民新聞運動部顧問・太田四州(DBでは太田茂)→第8巻
プロレタリア雑誌の編輯  前「戦旗」編輯局・山田清三郎→第1巻
美術雑誌の編輯     「アトリエ」編輯長・藤本韶三→第7巻
自然科学雑誌の編輯    前「科学画報」編集・原田三夫→第5巻
雑誌記事モンタアジユ論  中央公論社出版部・雨宮庸蔵→第3巻
埋草・ゴシップ・編輯後記の解剖 前「近代生活」編輯・梶原勝三郎)→第9巻


ああ疲れた。ついでに「埋草・ゴシップ・編輯後記の解剖」を見てみると、こんな一節が。

聞くところによると、講談社で発行してゐる「キング」「富士」以下九種の雑誌に採録される埋草原稿なかりを書いて、妻子を養ひ生計を立ててゐる人が少なくとも十人はあるとのことである。その連中は、一年の大半を公私立の図書館の中で暮す。そして、もう世間から忘れられたやうな古い書物や、五年や十年も前の雑誌などを根気よく調べ上げ長短大小硬軟様々の穴埋原稿を幾十枚幾百枚となく生産するのである。


などと脱線しているとキリがないので、〈萬葉堂〉に戻る。1階に上がると、こちらは最近の本。じっくり見ていけばいろいろ見つかるだろうが、時間がないので、文庫を数冊と、『素敵なワンダー・ソウル・ランド』(大和書房)300円を買う。これは「新しい世代のためのブック・マガジン」と題した『青春の詩』の3巻目(広告には4巻の予告があるが、出たかどうかは不明)。松本隆の「夏よ光の帆を揚げよ」など、若手作家や歌手の小説やエッセイが載っている。「吉見佑子小詩集」の吉見佑子はあの音楽ライターと同一人物なのだろうか? 表紙の矢吹申彦をはじめとするイラストレーター陣もいい(勝川克志さんも)。どことなく『宝島』っぽいが、ブックデザインの渡辺行雄は初期『宝島』にも参加していたのではなかったか(うろ覚え)。


1時間半ほど経つと、外に出ていた久美子さんが戻ってくる。会計して外に出る。ほかの支店にも行きたかったが、次の機会に。〈火星の庭〉に行き、豆のカレー(味も量も素晴らしい)とバナココという飲み物をいただく。久美子さんは打ち合わせで出かけたので、食べ終わってから健一さんに挨拶して、タクシーで駅に向う。30分後の新幹線に乗り、上野に着いたのは3時ごろ。ウチに帰ると、さすがに疲れたのでヨコになった。