悶絶・静謐・歓喜・熱狂

昨夜、久々に「買わなきゃよかった」と実感させるマンガを読んだ。山名沢湖レモネードBOOKS』第1巻(竹書房)というので、ときどき新刊マンガに拾い物のある神保町の〈すずらん堂〉で見つけた。ビニールが掛かっていてナカが確認できないのだが、帯に「普通の女の子な彼女と読書オタクな彼の始まったばかりの恋」がどうとか書いてある。いつもなら、〈高岡書店〉あたりで中身を確認してから買うのだが、この日はどうも疲れていたらしく、まあイイやとすぐに買ってしまった。そして、寝る前に読んで悶絶……という次第である。まず絵が受け付けない(カバーには小さく使われていた)し、「読書オタクな彼」の本の趣味がほとんど判らない。具体的な作家や書名もあまり出てこないし。このマンガでは「本」はたんなる雰囲気をつくる小道具でしかない。なんか、『クーネル』系雑誌での本屋や本の取り上げ方と通じるものを感じる。


朝9時起き。出勤日。仕事場で資料づくり。昼は神保町へ。〈三省堂〉に資料を買いに行ったら、1階がリニューアルしていた。入って左側にあった催事スペースを雑誌コーナーにして、その分、後ろにあった棚を全体に前のほうに持ってきている。古典文学や、映画、演劇、古典芸能は4階へ移動して、余った奥が地図関係になった。文芸評論が手前に来たのは、ぼくにとっては便利だが、慣れるまではしばらく戸惑うだろう。


田村書店〉の外台で、金森徳次郎『書物の眼』(慶友社、1953)200円、を買う。初代の国会図書館館長となった政治家の随筆集。「図書館いろはカルタ」「図書館雲に乗る」「図書奴隷のおぼえ書」など、興味をそそるタイトルが並ぶ。終わりのほうの「アゝわからない」という文章を読むと、「考えうべき一番標準的な図書館が何であるかが、よくわからないのである」として、学校図書館公共図書館、調査図書館、宗教図書館などの特色を挙げている。そのあとに「気狂が書物を愛読すると見きわめると、気狂い愛読者をあつめる図書館があつてもいい」とある。これ、どういう意味だろうなあ? この「気狂」は、ブックマニアを指しているのか、それとも文字通りの意味なのか。この本、パッと見ただけでかなり誤植が多い(古本屋が「右本屋」になってるとか)ので、「気狂い愛読者」は「気狂い(の)愛読書」なのかもしれないが。この本については、「書物蔵」(http://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/)で何度か触れられている。奥付裏の慶友社の広告を見ると、たまたまいま探しているツヴァイク昨日の世界』が載っている。広告じゃなくて現物に出会いたいものだが。2年ぶりぐらいに、田村の店内に入ってみるが、探していた本は見つからず。


そのあと、喫茶店〈きゃんどる〉に入ってみる。前の場所のときは何度か行っているが、新しいビルに入ってから初めて。場所は変わっても、落ち着いた雰囲気の内装が維持されている。前からの常連っぽい老夫婦が、並んでコーヒーを飲んでいたりと、心和むのだが、静謐をぶち壊したのが、中年二人組の会話。出版(たぶん電子出版系)関係者らしいのだが、なんだかいまさらなあという内容の伴わないハナシに気炎を上げていた。


仕事場に戻る。5時にライターの渡邉裕之さんと会い、ある企画の打ち合わせ。例によって、編集の手間がすごいのでタイヘンな企画だが、出たらイイ本になるだろう。渡邉さんとはあとでもう一度会うことにして別れ、仕事場で片づけをして、また神保町へ。〈書肆アクセス〉で、入ったばかりの『本の雑誌』3月号を買う。畠中さんが「坪内祐三さんの日記で、川崎彰彦『ぼくの早稲田時代』が取り上げられてますよ」と教えてくれたのだ。たしかに載っている。五木寛之氏の帯文を引きながら、この本を紹介している。『ぼくの早稲田時代』については、日本経済新聞の2月5日付で川本三郎氏が書評してくれた。右文書院の青柳さんによると、電話注文がバンバン入ってきてるらしい。とても嬉しい。


千駄木の〈古書ほうろう〉へ。ブルースシンガーAZUMIさん(http://azumisroom.at.infoseek.co.jp/)のライブがある。7時半頃に行くと、あまりヒトが入ってないので心配したが、あとから増えてきて、30人入ったようだ。渡邉さんも来てくれた。差し入れの日本酒を紙コップで飲む。今日は冒頭に30分ほどライブがあり、そのあとAZUMIさんのドキュメンタリー映画《地下の日だまり》(小沢和史監督)の上映があって、またAZUMIさんのライブという構成。映画はぼくにはいま一歩だった(旅するシンガーの姿がもっとストレートに出てほしかった)が、ライブは素晴らしかった。とくに後半は大盛り上がり大会で、ギターのインプロビゼーションと同じフレーズをスキャットで唸るのには、大拍手。ぼくがチラシでリクエストしておいた「黄昏ビアホール」もちゃんと演ってくれた。AZUMIさんの客をつかんで離さないライブ・アクトにはいつも感心する。1時間ある映画を間に挟んだので、終わったのは11時。寒い日に床に座ったので、やたら冷えた。新しいアルバム[AZUMI 10 PLAYS at JAMES]を買い、みんなに挨拶してウチに帰り、晩飯を食べる。