好もしき秋葉原ヨドバシビル

7時起き。短い原稿を一本書く。ファクスのインクが切れていたので、朝9時からやっている秋葉原の〈ヨドバシカメラ〉に行ってみる。先日のオープン時から話題になっていたが、秋葉原に用事がないのでいままで行く機会がなかった。秋葉原駅の電気街口と反対方向に下りると、真正面にヨドバシのビルがある。たしかに1フロアがものすごく広くて、驚く。平日の開店直後というコトもあり、やたら静か。


インクを買い、上の階にあがってみる。7階には〈タワーレコード〉と〈有隣堂〉が入っている。書店はともかく、朝9時半から開いているタワレコなんて、ほかにあるのか? 当然客は少なく、かなりゆったりとスペースが取ってあるので、まるで自分ひとりの店みたいな錯覚を覚える。なかなかイイ気分になって、高校生のときによく聴いた、立花ハジメの[Hm]と[MR.TECHIE&MISS KIPPLE]、西岡恭蔵「ろっかばいまいべいびい」、渋さ知らズ[Lost Direction]、フィッシュマンズのDVD[若いながらも歴史あり 96.3.2@新宿LIQUID ROOM]と買い込んでしまう。ああ。さらに、向かいの〈有隣堂〉を覗くと、ココもガラガラ。果たしてやってけるのだろうか? と思いつつ、ゆっくり棚を見て回る。大村彦次郎『時代小説盛衰史』(筑摩書房)、伊達得夫『詩人たち ユリイカ抄』(平凡社ライブラリー)、ちくま文庫復刊の種村季弘編『東京百話』天の巻、野中英司『魁!!クロマティ高校』第15巻(講談社)を買う。またしても買い込んでしまった。このところ、カード払いをしないようにしてたのに……。〈有隣堂〉のレジで、「ヨドバシカメラのポイントカードが使えません」と大きく表示しているのが、どことなくオカしかった。


ゼンゼン期待してなかったのだが、思いのほか堪能してしまった。大手電器店レコード屋と本屋が同じビルに入っている例はほかにもあるが、ぼくにとって余計な店(服屋とか雑貨屋とかスポーツ用品屋とか……ようするに、上記3店以外のすべて)が入っているのがジャマだ。このビルは、そういった余計な要素を入れてないのが好もしい。あとは、同じビルか、それがムリなら隣あたりに〈TSUTAYA〉と〈ブックオフ〉ができれば完璧だ。仕事場からも近いし、けっこう通うコトになるかもしれない。……と思わずホメてしまったが、〈有隣堂〉の品揃えはいまのところ、とりあえず全部並べたというだけで、まだまだ変更の余地あり。まあ、そのうちカタチができてくるでしょう。


ウチに帰り、谷中のアパートへ。机の上を片付けて、12時半に根津駅暮しの手帖社のMさんと待ち合わせる。昭和30年代に入社し、花森安治にシゴかれたという歴史的存在。来年2月4日から、世田谷文学館で「花森安治暮しの手帖展」(仮題)が開かれるのだが、Mさんはその図録に収録する花森安治の装幀本リストを作成中で、ぼくが多少持っていると聞いて、わざわざ見にいらっしゃったのだ。1時間ほどかけて、作成中のリストと照合し、何点かはリストにない本を提供できた。これらは展示用にお貸しするコトにした。そのあと、一緒に日暮里駅に向かうが、71歳にしてはお元気なMさんが、あっちを見たりコッチを見たりしてしばしば道の真ん中に動いてしまうので、車にハネられないか心配した。この辺は、細い道が抜け道になっていて、車がひっきりなしに通るのだ。そういえば、Mさんと根津を通ったときに、おにぎり屋の〈いなほ〉の入口に「貸し店舗」の掲示があったようだ。しばらく行ってなかったのだが、閉店したのだろうか。だとすれば、ショックだ。


またウチにとって返し、今度は西日暮里駅へ。『散歩の達人』の取材で、高野ひろしさんや編集の女性と会う。まず写真を、というので、旬公と二人で富士見坂で撮影。カメラマンがやたらこの辺りに詳しいヒトだと思ったら、谷中銀座にあった〈ボンフォト・スタジオ〉の方だった。『ボンフォト通信』を出してたトコロですか? と訊くと、その通りだった。いまは谷中銀座の店は閉めて、尾久で写真の店をやっているそうだ。そのあと〈花歩〉で取材される。うまく喋れたかどうかはワカランが、高野さんは古本も詳しいし、一箱古本市に一日中参加してくれたので、信頼がおける。取材のあと、日暮里図書館で本を返却。今日はやたらと風が冷たい。


晩飯は、図書館の近くの製麺所で買ってきた焼きそばに、鶏肉やゴボウ、キャベツを入れたもの。たぶん未見だった《バック・トゥ・ザ・フューチャー3》を脱力しながら観て、「書評のメルマガ」の編集をする。しばらく前から考えていた、こんな企画を発表した。

ちくま文庫20周年復刊フェア記念、「この版元がエライ! 番外篇」募集
 今年ももう11月。早いですねー。「書評のメルマガ」では、毎年1月に前年にすぐれた出版物を出したり、ユニークな活動を行なった版元を勝手にほめたたえるアンケート企画「この版元がエライ!」を、増刊号として配信しています。今年は12月上旬発行号で、回答者を募集します。たくさんのご参加をお待ちします。今回はこの企画と関連して行なうツモリの、特別企画のお知らせ。


 筑摩書房ちくま文庫が20周年を迎えたことを記念し、先日から同文庫のフェアがはじまっています。その目玉が復刊フェアです。これは、数ヶ月前からサイト上に品切れ本のリストを公開して、読者から復刊希望のアンケートをつのり、その結果をもとに9点・14冊を刊行するというもの。
 サイトの報告を見ると、「ホームページ・ハガキをあわせて約700件、投票数では延べ5800票におよび、書目に換算すると実に600点以上が候補に上がった」そうです(http://www.chikumashobo.co.jp/top/fukkan/index.html)。読者の声が復刊企画に反映されたコトが嬉しいことです。
 しかし、あくまで仮定のハナシですが、もし、せっかく復刊されたこれらの本がやっぱり売れずに終わってしまった、としたら? 復刊フェアという好企画じたいが見直しになり、続いての復刊は難しくなるかもしれません。また、ちくま文庫の動きを見てウチも……と考えているかもしれない他社の文庫も二の足を踏むでしょう。


 さて、そこで。
書評のメルマガ」では、「この版元がエライ!」の番外篇として、「ちくま文庫復刊フェア・スペシャル」を年内に発行したいと思います。
この企画では、(1)復刊フェアに対する感想と、(2)復刊対象本の読書感想文、のふたつを募集します。字数はそれそれ800字前後。とくに(2)については、9点すべてについての感想文が揃うコトを希望します。締め切りは12月15日(木)です。ちなみに、私(南陀楼)はちくま文庫には無関係です。辛口の批判も歓迎します。
 ブログやサイトで、ちくま文庫の復刊フェアを歓迎した皆様には、ぜひともお一人一冊ぐらいは感想文をお願いしたいです。刊行後に読者からの反応があってこそ、版元の企画は継続が可能になるのですから。書いてくれないと、コッチから依頼にいきますよー。


回答は以下までメールでお願いします。
kawasusu@nifty.com


補足しておくと、今回の復刊フェアについて紹介したり、アンケートに投票したというブログはいくつも見かけた。そうやってフェアが盛り上がっていくのは、いいことだと思う。だけど、出版社にとってみれば、本当の勝負は復刊が刊行されたあと、きちんと売れたかどうかだ。その結果の責任を読者が負う必要はないのだけど、たんに煽っておいて終わりじゃ、せっかくの試みが可哀想、という気がする。だから、こんな企画をやってみようと思うのだ。ぜひ、協力をお願いします。各自のブログで書いたものを、そのまま送ってもらっても構いません。


長くなったので、「書店員ナイトin東京」のお知らせは明日にします。