「一部屋古本市」の三日間(その1)

朝8時に起きる。まとめておいた本を紙袋に詰めて、自転車で谷中のアパートへ。今日から三日間、ココで「一部屋古本市」を行なう。「本コ」が終わってから、緊急避難としてこの部屋にダンボール箱を10箱ほど置いていた。そのうち引越しするから、そのときに持っていけば……と考えていたのだが、現在のマンションの家賃が下がったため、引越しは中止になり、これらの箱をナンとかしなければならない仕儀にあいなった。セドロー牛イチローのコンビに来てもらい、一気に処分するのが、順当な処置で、今年だけでも2回来てもらっている(なのに、一向に減らないのはナゼだろう?)。まあ、最終的にはそうするにせよ、その前にコレをネタにちょっと遊べないか、と思いついた。以前から、書物サイト・ブログの人たちに取材したり、メールをやりとりしたりしていても、一度も会ったことのないヒトが多い。「一箱古本市」でぼくを見かけたというヒトは多いが、あの日はとても話せる状況ではなかった。そこで古本の処分を名目に、これらの人たちと会う機会にできないか、というのが、今回の「一部屋古本市」の動機である。


積み上げてあった段ボール箱を開けて、売る本と残す本を分ける。いつものコトだが、「この本はココにあったのか!」と気づくこと多し。あと、買った覚えのない本があり、「こんなイイ本持ってたっけ」と感心したり(幸田文の『「流れる」おぼえがき』というパンフレットみたいな本とか)。100冊近くを引っ張り出し、値段を決めて付箋を貼っていく。緑は100円、赤は200円、青は300円、だいだい色は500円、黄色は1000円。1200円なら、黄色と赤を貼ればよい。「古書モクロー」のときは、書名やコメントを書くのだが、今回は付箋を貼っていくだけなので、作業が早い。11時過ぎには終了。根津まで降りて、〈ふくや〉でラーメン。今日明日と根津神社の祭りなので、街全体が浮かれて、賑やかになっている。


アパートに戻り、大テーブル(旬公が製本の作業する台)の上に、適当に本の山を並べ、上に布をかぶせる。全員が揃うまでは、いちおう隠しておきたい。12時50分ごろ、ノックの音がして、最初のお客さんが。「トンブリン」(http://imaginarybeings.com/tomblin/)のトンブリン2号さんだ。次に、「Web読書手帖」(http://yotsuya.exblog.jp/)の四谷書房さんが。そして、「ふぉっくす舎」(http://negitet.at.webry.info/)のNEGIさんと、「とり、本屋さんにゆく」(http://d.hatena.ne.jp/tori810/)のとりさんがいらっしゃる。近くでバッタリ会ったのだとか。四谷さんととりさんには、以前「彷書月刊」で取材させてもらったら、会うのははじめて。トンブリンさんとNEGIさんは「一箱古本市」の店主だ。


販売について説明し、1時過ぎに布を取り払って、開店。「ゆっくり見てくださいね」と云ったが、やっぱりみんな、素早く本の山に手をのばす。そこに、「【書庫】 書物のトポス=書物のトピック」(http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Library/1959/)の「書誌鳥」こと森洋介さんが遅れてきて、挨拶もソコソコに参戦。30分ぐらいかけて、じっくり見てもらい、会計を。コレはあの人向きだなと混ぜておいたのをちゃんとその人が見つけたり、こんなのに興味示す人がいるかなと思った本が売れたりと、売れ方を観察するのが愉しい。買った本は各自のサイトにアップしてもらうコトになったので、そちらで見ていただくとして、全体では36冊、2万2100円売れた。たくさん買ってくれて、ありがとうございます。計算にアタマが一杯で、値引きしようと思っていたのを忘れてしまったが、もともと今回はかなり思いきって安くしているので、あらかじめ値引き分を含んでいるというコトで、ご勘弁ねがう。


終わって、〈NOMAD〉に移動。ココでトンブリン1号さんも合流。チェコマッチラベル展を見てもらったあと、奥のテーブルで、手持ちの資料(マッチラベルに関するものとか、コレクター雑誌とか)をお目にかける。いちばん反応が良かったのは、『レモンクラブ』連載の書評のスクラップブックだった(2日目も同じく)。「本になったら読みたい」と何人かが云ってくれ、嬉しい。いままで何人かの編集者に見せたけど、「書評はそのままじゃあ本になりません」とすげない反応ばかりだったのだ。今日のメンバーは、ほぼ全員が初対面だし、ぼくもホスト役としてその場を盛り上げていくのがヘタなので、すぐさま会話がはずむというワケではなかったが、文献探査レーダーが身体に埋め込まれているような書誌鳥には、みんな驚いていたし、NEGIさんが西荻の〈ハートランド〉で持っている棚から、とりさんが本を買ったハナシなどが出て、それなりに場が沸いていた。例によって、本が多すぎてどこにナニがあるか判らない、という話題になり、ぼくが閉店した本屋かギャラリーを借りて、自分の蔵書を並べてみたい、というとみんな乗ってくる。古本市ではなく、各自が100冊ぐらい本を持ち寄って並べる「展覧会」をやろうか、などと。


たちまち2時間が過ぎ、次の予定があるので、残念ながら解散。店の前で皆さんと別れる。そこにはもう、「アート遊覧」(http://www.art-yuran.jp/)のライター・白坂ゆりさんたちご一行が待っている。奥のテーブルになんとか10人入っていただく。「アサヒ・アート・フェスティバル」(http://www.asahi-artfes.net/program/13.htm)の一環として、谷中のアート巡りをしているのだ。少し話してほしいという白坂さんのリクエストがあったので、チェコマッチラベルについて資料を見せながら説明する。アート関係の人だけあって、印刷やデザインについての鋭い質問があった。一通り話して、先に出る。


4時間ぐらいしゃべりっぱなしで疲れたらしく、ウチに帰ると、声が枯れていた。夜は書評の本を読んだり、『ぐるり』のゲラ戻し。早めに布団に入るが、《やりすぎコージー》の新人芸人(オリエンタル・ラジオという、ヒップポップにコントを乗せている新感覚のコンビ)による相談というのがナカナカおもしろく、最後まで観てしまった。