書誌鳥たちとの夕べ

早起きして、原稿書きに励む。まずは『進学レーダー』の受験記事のまとめ。本文のほかにコラム、キャッチ、リード、見出しまで書かねばならぬ。ライターなら当然の仕事ではあるが、けっこう苦手。1時までにはなんとか書き上げるが、そのあと編集部からの直しが入り、それを反映して学校に送ったのは3時すぎていた。一休みして、次の原稿にかかる。あと数行というところでタイムリミットになり、自転車で出かける。


根津の〈オヨヨ書林〉へ。先日の中央線古書展の目録で、オヨヨが草森紳一ナチスプロパガンダ 絶対の宣伝』(番町書房)4巻揃いを、3000円で出していた件(http://d.hatena.ne.jp/kawasusu/20050721)について山崎さんに訊くと、「あれ、一ケタ間違えてました」と云う。注文殺到した(アタリマエだ)そうだが、3万円と聞いてみんな引き下がったそうだ。罪なことするなあ。高校生のときに創刊号を買って、ピントはずれな印象を抱いたサブカル雑誌『月刊MOGA』(東京三世社)の第5号(1986年9月)を500円で買う。内容よりも、5号も続いたのかというコトに驚いたので。


山崎さんから、文鳥堂書店四谷店のミニコミ『かると』創刊号(1980年)を見せられ、500円だというので即買い。当時の『本の雑誌』のフォーマットを真似して、本や映画に関するコラムを入れている。保坂和志「孤立無援の翻訳者が二回転半ひねりを打ちながらヴォネガットのことを」という文章があるが、これ、あの保坂和志だよねえ。巻末の近刊情報では、マイナー版元の情報が押さえてある。小沢書店の『小沼丹作品集4』3800円と、大和書房の柳瀬尚紀編『猫文学大全』1900円と、葦書房の『山本作兵衛画集』予価30000円と、プレイガイドジャーナルの『ぶがじゃイヤーブック80』(コレは初耳だ。ホントに出たんだろうか?)予価800〜900円と、情報センター出版局の村松友視『私、プロレスの見方です』780円と、北宋社橋本治×糸井重里『悔いあらためて』の予告が一緒に並んでいるのは、なかなか壮観。ないものねだりではあるが、この時代に(たっぷり現金を持って)タイムスリップしてみたい気がする。


もっとも、あくまで「近刊情報」なので、この通りに出たかは検証する必要がある。北冬書房は「つげ忠男の作品集『懐かしのメロディ』の刊行準備をはじめた」とあるが、つげ忠男サイトのリスト(http://www.mugendo-web.com/t_tsuge/tankou.htm)を見ると、同著が刊行されたのはコレより3年先の1983年5月である。「四谷の文鳥堂は、うるさく電話してきて、しつこいから、だまって他の書店で、売り切ってしまうそうです。要注意!」とは、いかにもこの版元らしいコメントだ。また、北宋社は、亀和田武『舌下風雲選抜雑貨店 亀和田スーパー・マーケット』8月刊、としているが、コレは1983年に同社から出た『1963年のルイジアナ・ママ』の仮題だったのだろうか?(同書がパッと出てこないので、あとがきなどが参照できないが)。北宋社からはほかにも「倉多江美(原文は「倉田」) 題未定(絵本です)」とあり、国会図書館で調べると、同年9月に『どっちライン』という単行本が出ている。……などなど、調べだすときりがない。こういう資料がたくさんあれば、「仮題」や「刊行予告」とじっさいにできた本との違いを比べるという、意地悪な遊びができるのだけど。


ココで、〈金沢文圃閣〉の田川浩之さんと、書誌学の森洋介さんと待ち合わせる。田川さんから森さんのコトを聞き、サイト「【書庫】*書物のトポス=書物のトピック*」(http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Library/1959/)も見て、ぜひ会いたいと思っていた。3人で根津を歩き、〈往来堂書店〉を覗いてから、〈乱歩〉に落ち着く。森さんは現在、日大の博士課程に在学中で、匿名批評の系譜を研究している。そのもっと前は、復刻専門の出版社で編集をやっていたそうだ。ちょうどぼくがゆまに書房をヤメた頃だったから、直接のコンタクトはないのだが、近い場所にいたので、やたらとハナシが通じる。田川さんからは、「お中元に」とある資料をいただいてしまう。嬉しいなあ。手元に置いて役立てます。


ブックオフ〉→〈古書ほうろう〉と案内し、西日暮里の〈大栄〉へ。旬公が先に来て、場所を取っている。4人でサンギョプサルにチヂミ、冷麺やコムタンなどを食べ、いろいろ話す。森さんが取り組んでいるテーマはどれも興味深いし、印刷物でもウェブでも旧字旧かな表記を貫く姿勢もすごい。まだ若いのに、古武士のようなヒトだ。帰りに、コンビニで日大の紀要『語文』に載った「一九三〇年代匿名批評の接線――杉山平助とジャーナリズムをめぐる試論」をコピーさせてもらう(この論文のタイトルも本文も旧字旧かなだけど、ココでは新字でご勘弁)。田川さんと森さんは、痩せていて眼鏡をかけているだけでなく、雰囲気もちょっと似ている。旬公はあとで「仲のいい鳥みたい」と云っていた。森さんと田川さんは、人から「君たちは書誌顔だね」と云われたのだとか。じゃあ、二人は「書誌鳥」かな。なんか始祖鳥みたいだけど。二人の書誌鳥と会って、いろいろ教えてもらい、刺激にもなった。世の中には、まだまだ面白いヒトがいるのだ。いい気持ちでウチに帰り、先刻の原稿の残りを書き上げた。