飯能で鈴木地蔵さんの出版を祝う

昨日の日記で書き忘れていたこと。谷中のアパートに行く途中、〈間間間〉(さんけんま)というオープンスペースとして使われている一軒家の前に、「古本長期アルバイト募集」という貼り紙があった。なぜ長期アルバイトの前に「古本」を付けるのか、ヘンな言語センスだなあと思ったら、ネット専門の〈古書ことば〉の山崎さんが出した広告なのであった。彼とはセドローくんたちとの飲み会で出会ったのだが、そのときは、「古本の仕事は三時間ぐらいで片付けて、あとはコラージュ(見せてもらったがバクハツしていた)をつくったり、ギターを弾いたりしています」とステキな生活をエンジョイしていた。その彼がバイトを雇うとは、よっぽど儲かっているのか、それともコラージュ制作が忙しいのか。ちなみに「18歳以上の女性希望」というコトでした。誰かバイトに行ってみない? きっとイイ体験ができるだろうから、それを書いて『彷書月刊』の「古本小説大賞」に募集すればきっと入選しますよ。密偵おまささんとか、どう?


昨夜はぐっすり寝た。今日は9時過ぎに出て仕事場へ。2時間しかいられないので、テキパキと仕事を片付ける。12時半に市ヶ谷から有楽町線に乗る。そこから直通で飯能へ向う。空いた電車のナカで、多川精一『焼跡のグラフィズム 「FRONT」から「週刊サンニュース」へ』(平凡社新書)を読了。一気に読めた。所沢から先、どんどん風景が変わってのどかになってくる。「仏子」(ぶし)「元加治」(もとかじ)など、駅名さえも今出来のものではなく歴史をカンジさせる。終点の飯能で降り、駅に直結している飯能プリンスホテルへ。今日はココで、鈴木地蔵さんの『市井作家列伝』(右文書院)の出版を祝う会があるのだ。この本の投げ込みの「栞」に短い文章を寄せたので、呼んでいただいたのである。


エレベーターで会場まで上がると、すでに受付がはじまっていた。堀切直人さんと奥さん、右文書院の青柳さんも来ていた。著者の鈴木地蔵さんに挨拶。短髪でクールな感じだが、笑うと眼がやさしい。『市井作家列伝』の現物は今日はじめて手にしたが、落ち着いた造本(ぼくの隣に座った古舘明廣氏の手になる)。紙の手触りもイイ。会場は立食ではなくテーブルへの着席で、いいタイミングで料理が出てくる。立食のパーティだと、喋るのも食べるのも忙しくなるから、こっちの方がイイ。司会の中村さん(ペンネームは秋口巌生)をはじめ、今日の会は鈴木さんが主宰する同人誌『文游』の仲間が準備したもので、ホテルを使っているわりには全体に手づくりで堅苦しくない、いい会だった。堀切さんのスピーチを皮切りに、ほとんど全員が一言ずつ話した(ナカには旺文社文庫小山清木山捷平を出した編集者の方も)。飯能在住の変わったヒトたちが大集合という風情で、オモシロかった。ぼくもナンだか判らないことを早口で喋った。


ホントはこの会だけで失礼するハズだったが、誘われるままに、近くのカフェ〈夢月〉で行なわれた二次会にも出席。もと創樹社社長の玉井五一さん、中谷孝雄や古木鐵太郎とも交流があったという作家の田中順三さんらと話す。鈴木地蔵さんは、場違いの若造を気遣ってくださったのか、やたらぼくに古本ネタをふってくださった。しかし、5年間で1万冊買った時期があるという地蔵さんには、とても敵わない。早めに出るツモリだったのが、気がついたら7時になっていた。あわてて今日西日暮里で打ち合わせするはずだったラデクに電話して、会えないことを伝える。


8時にお開きとなり、三次会に向かう皆さんと別れて、西武線に乗る。地蔵さんの親戚だという教育評論家の斎藤次郎さんが途中まで、堀切さんの奥さんが西日暮里まで一緒だった。ウチに帰り、旬公が買ってきてた『のだめカンタービレ』第12巻を、にゃふにゃふと弛緩しつつ寝転んで読む。ままならぬコトの多い世の中だけど、楽しいヒトたちとオモシロイ本がある間は、とりあえず満足して生きていける。