クリスマスイブに資料探し

朝寒いので、起きるのがつらくなった。世間的にはクリスマスイブらしいが、関係ないねと、今朝も神保町へ行く、男一匹、37歳児。10時過ぎに古書会館に着いたら、駐車場からバックして出てきた車がぼくを轢きそうになる。なんだ、コイツはと思ったら、運転席から「おはようございます」と挨拶。なんだ、〈三楽書房〉のアキヒロくんじゃないか。会館前で掃除している女性に向かって挨拶したらしく、ぼくが「おはよう」と云ったらビックリしてた。会場入り口で、濱野奈美子さんが受付をしている。「塩山さんの宴会、遠くから覗いてみたかったですぅ〜」。そういう声、やたら多いんだよねえ。というワケで、来年は「実況中継 嫌われ者の記」を開催する予定。

古書展は大混雑。じっくり見る気力なく、ざっと流す。〈豊川堂書店〉の棚で、樋口麗陽『皮肉滑稽風刺諧謔 抱腹絶倒辞典』(大明堂書店、大正9)2500円を見つける。「デモクラシー」「新劇」「カッフェー」「女学生」「非常線」など、当時の風俗、流行について皮肉な珍解釈をほどこした、いわば大正版『悪魔の辞典』。ま、御本家ほどにはキレはよくないようですが。うーん、と悩んだ末、買っておく。いつか役に立つ日が来るだろう(と思いたい)。著者の樋口麗陽は、明治末から歴史、文学、政治、経済、社交術などあらゆる分野の本を書きまくっている。この本の広告にも『日米戦争未来記』という未来戦記が載っている。加藤美侖もそうだが、こういった「ブックメーカー」については、人物辞典にも記載がなかったりして、調べるのはなかなか大変だ。だから、国会図書館のデータベースがウェブで利用できるようになって、著者名や版元から検索できるようになったコトは本当にありがたい。


そのあと、〈田村書店〉の均一を覗いたら、後ろから肩を触られる。後ろの客が押し込んできたかと思って振り向いたら、またしてもアキヒロくん。彼とは妙に縁があるのか、早稲田を歩いていたときも、別の場所で二回出会ったことがある。神出鬼没なのか、向うの行く先にこっちが回っているだけなのか? 〈書肆アクセス〉でサイン本を書き、開店前の〈キッチン南海〉に並ぶ。カウンターに座る客が全員順々に「カツカレー」と注文するのがおかしい。もちろん、ぼくも久しぶりにあのコールタールのようなカレーを食べた。そのあと、〈ブックパワーRB〉で『ハッピーエンド通信』を2冊、〈@ワンダー〉で『小学一年生』『小学四年生』を4冊買う。いずれも「本コ」次号の資料なり。


12時に仕事場に着き、連絡や資料整理。青弓社サイトの「ある日の編集者」(http://www.seikyusha.co.jp/aruhi/index.html)で、交通新聞社高野麻結子さんの文章が掲載されている。タイトルは「いい筒になりたい」、本文もマユ語の連発だが、云いたいことはよく判る。たしかに、著者の個性を生かしながら自分の色もちょっとだけ加えるという点で、編集者って筒(フィルター)みたいなものだ。次号で決まってない部分を会議。たっぷり3時間。終って決まったばかりの企画を、著者にメールで打診したら、すぐ「書きたい」という返事があった。この瞬間、編集者でヨカッタといつも思うのだ。そうだよねえ、マユタン。


中央線で高円寺まで行き、南口を5、6分歩いたところにある〈勝文堂書店〉へ。小学館の社史が出てたハズだと、「日本の古本屋」で検索すると、今年出た『小学館の80年 1922-2002 DVD‐ROM版付』が5000円で見つかった。店からもスグ返事が来た。たまたま今夜、高円寺に用事があったので、店で受け取ることにする。取材の資料がこんなに早く手に入るなんて、インターネットのおかげである。もっとも、ここまでタイミングがいいコトはめったにないが。店でその社史を見ると、かなり詳しいものなので、購入する。その斜め前の飲み屋っぽい食堂で、肉豆腐定食を食べる。おばあさんが一人でやっている。豆腐に味が染みていて、ウマかった。


北口まで出て、〈JIROKICHI〉へ。前に一度来たような気がしていたが、入ってみて、初めてだと判る。なんどもココでのライブのスケジュール、調べたことがあったんだけど。7時15分に入ったけど、どうにか座れた。一人でライブハウスに来ると、はじまるまでの1時間ほどが手持ち無沙汰でしょうがない。なので、遅れてきたのだが、ライブがはじまったのは8時前だった。


小川美潮のライブを見たのは、「リハビラル」というユニット名でやったときが最後なので、もう10年以上前になる。板倉文(g)、大川俊司 (ag、b)、勝俣伸吾(pf)、そして、来られなくなったドラムのれいちに替わって、イギリス帰りだという若いドラマーが参加。小川美潮の独特の声は健在だった。チャクラ(「YOU NEED ME」のロックバージョンがよかった)やソロアルバムに入っている曲もやったけど、大半が初めて聴く曲だった。やたらと曲間のチューニングや調整が長く、もたついた構成ではあったが、ほぼ満足。アンコールでやった、歌詞も演奏も即興のセッションが良かった。来年春には小川美潮のソロ三枚と、板倉文のキリングタイムが再発されるらしい。ちょうどいい時期に戻ってきたのかも。しかし、いまの若いヒトには小川美潮もキリングタイムもピンと来ないだろうなあ。もう十数年やっているサンクスのテレビCMで「すぐ、そこ、サンクス」という声が小川美潮だと云えば、少し判るヒトもいるか。ちなみに、小川美潮公認サイト(http://www.mishio.com/)は、過去から現在にいたる情報が詳しいので、重宝してます。


10時半に終って、出口でチャクラの[南洋でヨイショ](ボーナス曲入り)を買ってサイン色紙をもらい、電車に乗って帰ってくる。のはー、疲れた。ウチでは旬公が、花道家中川幸夫を撮ったNHKのドキュメンタリーを観ている。90歳近くでアルツハイマーの傾向がある中川が、花を生けることは「破壊することだ」と云いきっていた。すごい。


【今日の郵便物】
★〈街の草〉と林哲夫さんより 『間島一雄書店 間島保夫追悼文集』がそれぞれ届く。前者は購入したもので、後者は好意で送ってくれたもの。古本屋さんに読んでほしいから、1冊は誰かに上げよう。じっくり読みたい文集だ。
★古書目録 みはる書房、一栄堂、共同古書目録(京塚やほか)、高円寺展