古本市のち結婚式のち飲み会

朝8時半に起き、9時に出かける。バスに乗って、早稲田リーガロイヤルホテル前へ。穴八幡まで歩き、青空古本市会場へ。雨に降られることが多い時期だが、今年はまったく心配なし。むしろ暑いぐらい。セドローくん、イチローくん、アキヒロくんの若手三羽烏に挨拶。よく考えると初日の開場前に来たのは初めてだ。すでに20人ぐらいがテントの周りを取り囲んでいる。入口に張られたヒモの前に立って、向こうの棚を覗いていたら、アキヒロくんから「目が怖いですよ」とからかわれる。


隣のおじさんが「もう10時過ぎてるよ」と声をかける。でもまだヒモははずされない。その一瞬後、左側のヒモがはずれ、そこから客がなだれ込む。隣の親父は辛抱たまらず、ヒモをくぐって突進。気がついたら、ぼくもその後に続いていた。「吶喊」という単語が思い浮かぶ。ともかく人がいない棚から見始める。立石書店の棚で、『婦人公論』昭和21年2月号、300円。昭和13年の「中央公論社発行図書目録」300円。『松陽堂書店図書目録』500円。内外タイムズ社『スターのいる町』(近代社)値札なし。


次に五十嵐書店の棚に移ると、どっかで見たことのある背表紙が。白木正光編『大東京うまいもの食べある記』(丸ノ内出版社)の昭和8年版ではないか! しかも1000円。一瞬のうちに手が動いて確保。体育の成績悪かったのに、どうして本のときだけ反射神経がよくなるのか。この本、つい先日、昭和10年版を荻文庫で手に入れたところだ。あとで比較すると、文章そのものは流用が多いが、構成が多少違うのと、8年版には折込の地図が入っていることが判った。


そのあと30分ぐらいかけて、回る。書店名略で列記する。秋山紅之助『最高効率 新商略』(長久社書店、大正5)1800円←別刷り広告意匠の図が多数入っている。『山川方夫全集』第3巻(冬樹社)400円・月報なし。むのたけじ『雪と足と』(文藝春秋新社)472円。岩井宏実『小絵馬』(三彩社)300円。古谷綱武『ぼくの日本旅行』(中央公論社)300円←著者謹呈署名入り。表紙・挿絵は岡村不二男。長谷川幸延『随筆大阪今昔』(青朗社)315円。瀧澤敬一『ダンナさまマーケットに行く』(暮しの手帖社)315円←装丁・花森安治阿佐田哲也『外伝・麻雀放浪記』(双葉社)420円。三好貢編『浪花節一代』(朋文堂)600円。十一谷義三郎『笑ふ男・笑ふ女』(改造文庫、昭和8)250円。上司小剣『木像』(文潮選書、昭和23)200円。小谷野敦『反=文藝評論 文壇を遠く離れて』(新曜社)1700円。北村和哉『レコードジャケットという神話』(東京書籍)1300円。両手に抱えて帳場に持っていく。会計はアルバイトの女子学生(早稲田の放送研究会だとか)で、何度も計算しなおしていた。


下に行き、文庫コーナーを見る。ここでもイイのあったなあ。光文社文庫都筑道夫コレクションが一冊300円で4冊。黒川博行『絵が殺した』(徳間文庫)100円。戸川昌子『赤い暈』(徳間文庫)100円。など10冊買う。もうコレ以上は持ちきれない。会計していたら、岡崎武志さんに肩をたたかれる。いま来たところだと。あまりゆっくりしてられないので、穴八幡を出て南門通りへ。朝早くから動いて腹減ったので〈稲穂〉でタンメンを食べる。おじさんが「もう授業はじまったんですか」と話しかけてくる。卒業生ですというと、「若く見えるねえ」などとおだてる。口がウマイねえ。早稲田OBが出しているという『月刊日本』という雑誌をくれた。


店を出て歩くと、喫茶店〈ぷらんたん〉の前に出る。この店のコトをこないだ原稿に書いたが、閉まっているようだ。閉店したのか? それと南門前のコピー屋の名前、どうしても思い出せなかったが、〈早美舎〉だと判る。再びリーガロイヤル前からバスに乗って、西日暮里に帰ってくる。ちょっと雑用したら、すぐに出かける時間。スーツにワイシャツ、白ネクタイというメッタにしない服装で出かける。暑いなあ。


日比谷公園の〈松本楼〉へ。戦前からある由緒正しきレストランだが、入るのは初めて。今日はココで故・大伴昌司の三十三回忌に際して、しのぶ会が開かれる。ぼくはこのあと結婚式に出るので、出席できないが、早めにうかがって大伴氏のご母堂・至四本アイさんにご挨拶する。90を超えてらっしゃるはずなのに、かくしゃくとした方。話しぶりもしっかりしているし、記憶も確か。市ヶ谷に仕事場があるというと、左内坂の突き当たりのところに、三上於菟吉長谷川時雨が住んでいて、昭和初期にそこによく通ったというハナシをしてくれる。女学生の頃、長谷川時雨の雑誌『女人芸術』の手伝いをしていたとか。また、団子坂の高村光太郎のウチの近くに下宿していた、とも。だから、当時千駄木にあった講談社のことをよく知っているとおっしゃる。それから40年後、息子の大伴昌司がその講談社の『少年マガジン』に深くかかわるようになるとは、すごい歴史の縁である。もっと話していたかったが、お客さんも集まりつつあったので、内田勝さん、赤田祐一さん、香川眞吾さんに挨拶して退散する。


帝国ホテルは公園を出て真正面。はじめて入るけど、広いなあ。ロビーにも待ち合わせの椅子がたくさんある。そこで本を読んで旬公を待っていたのだが、例によって一向にこない。さすがにヤバいぞと思い、会場前で待っているかと、そちらに移動。あと5分というときに、ようやくやってくる。今日は、『日曜研究家』時代からの友達で、ガラクタ蒐集家のさえきあすか(安田由美子)さんの結婚式。お相手は神保町で三代続く製本会社の跡取りというので、一番大きい部屋をブチヌキで使う。テーブル数30以上、総勢350人という豪勢な式である。同じテーブルには、編集者、写真家など、知り合いが多い。隣のテーブルには、田端ヒロアキくんや濱田研吾さんも。


3時間30分にわたる式のコトはとても書ききれないが、詩吟での入場からはじまり、ジャズ、シャンソン、オペラの演奏、スライド上映、新郎新婦との撮影などなど、とにかく盛りだくさんであった。まあ、珍しいものを見たというカンジ。さえきさん、おめでとうございます。


ココのバーで飲んでいくという旬公と別れ、濱田くんと地下鉄で高田馬場へ。FIビルの地下〈紫蘇の実〉で、セドローイチロー、エンテツ、魚雷、それに〈古書ことば〉の山崎さんが呑んでいた。2時間ぐらい話して、ウチに帰ると12時。《タモリ倶楽部》を見ているとバーで酔っ払った旬公が帰ってくる。即、寝る。


【今日の郵便物】
★古本 高原書店より 松本昌次『戦後文学と編集者』一葉社、1400円