『雲遊天下』の船出を祝す

月半ばにひとつ仕事が終わったと思ったら、すぐに「小説検定」の締め切りが迫っていて、1日3冊をノルマに読み続けている。いつもだったら息抜きに関係ない本を読んで気分転換するのだが、今回はその余裕もない。佐々木譲さんの直木賞受賞第一作『北帰行』(角川書店)も、買ったら読んでしまうのが判っているので、書店で見て見ぬふり。


そんななか、ビレッジプレスから『雲遊天下』101号が届いた。同じ版元の『ぐるり』が休刊してから3カ月。その編集長が、前に出ていた『雲遊天下』の誌名を受け継ぎつつ、新しい雑誌として新創刊した。それで101号。前の『雲遊天下』は四六判だったが、こんどはA5判・64ページ。500円+税。山川直人さんの表紙イラスト(本文カットも)に、シャープなロゴが載っていてイイ感じ(表紙デザイン・丹野宏之)。
http://www.village-press.net/html/un_new.html


特集は「雑誌のゆくえ」。『彷書月刊』編集長の田村治芳さんインタビューは、岡崎武志さんという最良の聴き手を得て、田村さんの思い切りの良さが伝わってくる。ほかに大竹聡『酒とつまみ』、平野公子=『イワト』、林哲夫=『sumus』、『K8』=児玉雄大。特集以外には、早川義夫友部正人田川律豊田勇造岸川真大塚まさじら、貴島公が寄稿。旧『雲遊』+『ぐるり』の混成軍という感じで、知っている人も多いけど、ふしぎと既視感がない。つまり、同じ人に書いてもらっていても、違う雑誌になっているということだ。


では、新しい『雲遊天下』が何の雑誌かを一口に云うのは難しい。『ぐるり』の「コーヒー1杯分の情報マガジン」というようなキャッチは、今回は入ってないし、また一行のコピーとして表現できるような雑誌にはしたくないと、編集長は考えているのかもしれない。ただ、創刊号を一通り眺めて思ったのは、「ことば」を大切にする雑誌だなということだ。ユニークな人を紹介したり、その人のキャラクターに拠りかかるのではなく、自分のことばで書かれた文章ばかりが載っている。この先も折に触れて思いだしそうなことばが、この創刊号にはいくつも見つかった(たとえば、平野公子、早川義夫)。


ぼくも「いつか、どこかで」という連載を書かせてもらっている。当初は別のルポを考えていたのだけど、準備不足でとりかかれず、一筆書きみたいなエッセイを書いた。次回どうなるかはまったく考えていない。でも、誌面に載ってみると、前からこの雑誌にこんなコトを書きたかったような気がしてくるから、雑誌というのは面白い。


とはいえ、キャッチフレーズのない雑誌に、どれだけ広告が入り、どれだけの読者がお金を出して買ってくれるかという不安もある。号を重ねるにしたがって、誌面の雰囲気や書き手やデザインが読者に認知され、無理やりなコピーをつけなくても、売れる・読まれる雑誌に成長していってほしいと思う。