金沢古本めぐり・完結篇

けっきょく寝たのは4時半。9時半に起きて、フロントから宅急便(取材のために借りたを資料。……買った古本もあるけど)を出し、チェックアウト。さて、ドコから歩こうか。昨日思い出した〈駅前シネマ〉を検索してみたら、笠市町にあるらしい。とても映画館があるような界隈じゃないんだけど。その辺りをウロウロを歩き回ってみたが、まったく見つからなかった(しかし、東京に戻ってから届いた、徳島の創世ホール小西昌幸さんのメールでは、「駅前シネマは今もご健在です。今月、ニュースを出しておられて、これが抜群に面白いです」とのこと。小西さんは数年前、金沢に行ったときに支配人の藤岡さんに会ったそうだ。してみると、探し方が悪かったか。


地図を見て、浅野川に掛かる彦三大橋を渡る。そこから川沿いに歩く。それにしても、金沢には、古い木造住宅や古いビルが多い。歴史的建造物として保存するほど珍しいモノではないのだろうが、そういう建物が無造作に残っているために、かえって、昔の金沢が想起できるのだ。「秋聲のみち」というのを通って、今年4月に開館したばかりの〈徳田秋聲記念館〉へ。入館料300円。うーん。ちょっと展示物が少ないなあ。梅ノ橋を渡り、泉鏡花記念館(入らず)の脇を通って、尾張町の交差点へ。商店街の入り口にある〈近八書房〉へ。寛政元年(1789)創業だという由緒正しい店。仏教書が多いが、古い文学書もある。本を見ていると、お寺から買い取りの依頼が入っていた。


魚屋などが並ぶ近江町市場へ。日曜日なので、開いている店は少ない。〈弥生〉という店に入り、「マグロソースカツ丼」というのを食べる。揚げたマグロのでっかい切り身が3つ、ご飯の上に乗っているという質実剛健なメニュー。ソールをかけて食べる。これはウマイ。百万石通りをずっと歩き、一昨日も行った三店合同経営の古本屋へ。〈本の広場〉という名前だった。昨日、田川さんと話していて、「あそこに清水誠の小冊子がありましたよ」と云われたので。その確認だ。郷土関係のパンフレットや雑誌があるあたりで探して、『清水誠先生伝』(清水誠先生顕彰会、1965)2000円を発見。昨日見た卯辰山の碑ができたあとに発行されている。清水誠の小伝、息子の清水武雄「父の思い出」、履歴書、年譜、顕彰事業の記録など。これを読んで、市内の玉泉寺に清水誠の墓があるコトを知った。次に来たら、お参りしよう。ほかに、小松で暮らした作家・森山啓の文学碑竣工記念(1975)のパンフレットを1000円で買う。年譜を見ると、このとき、まだ存命だったのだ。これは、この間ぼくもしおりの文章を書かせてもらった『市井作家列伝』(右文書院、5月刊)の著者・鈴木地蔵さんにお送りしよう。ぼくは森山啓のことを、この本のゲラで初めて知ったのだった。 


そこから南へ下り、犀川大橋を渡ってしばらく先にある〈ダックビル〉(http://www.duckbill.co.jp/)へ。わりとこぢんまりとした店だと思ったら、レジの奥にももう一室あり、そこにも本棚があった。テーブルがあり、座って本を読むこともできる。石川県の文学史の本を買い、店主の女性と少しお話しする。この先にある〈やまくら書房〉は店売りをせず、予約者にだけ棚を見せるそうなので、電話をかけてもらったが、不在のようだった。残念。石川県古書籍商組合のサイト(http://ishikawa.kosho.gr.jp/)に載っている地図のプリントアウトをいただく(あとで見たら、このサイト、どこに地図が載っているか判りにくい)。


桜が満開で、花見で盛り上がっている犀川のほとりを歩き、新竪町へ。この辺は骨董屋、雑貨屋が多い。その先、住宅街のちょっと判りにくいところに、〈ぶらり〉(http://blogs.dion.ne.jp/burari/)という店がある。木造一軒家をそのまま店にしており、1階と2階で、「和の書籍とガラクタ」を売っている。本に関しては古本好きを相手にしていない品揃えと値段だったが、ガラクタはソフビの人形、郷土玩具、マッチ、ポスター、ガラス皿など種々雑多でオモシロイ。上野桜木町の〈エキスポ〉に似ている。店主は金沢の〈ヴィレッジヴァンガード〉出身だそうで、本やがらくたに無造作に付けられたPOPがモロに〈ヴィレッジヴァンガード〉ぽいのが可笑しい。


中央通りを片町のほうへ。途中、左側に古風な建物(けっこう大きい)が見える。〈ぼたん〉という純喫茶だ。外観だけでなく、中もイイ。4人掛け、2人掛け、明るい席、暗い席などさまざまなタイプがあって、選べる。柱やテーブルも生半可でなく古い。コーヒーはあまり美味くなく、ババロアなどという妙なメニューがある。「ザッツ・純喫茶」と呼びたい店である。コーヒーとババロア(ウマい)のセット680円を頼み、地図を見ながらしばらく過ごす。空港行きのバスに乗るまで、あと3時間ぐらいある。もっと時間がかかると思っていたのだが、意外に早く回れてしまった。


そのあと、〈明治堂書店〉に寄って一冊(石川県文学全集の森山啓篇)買い、〈一誠堂野瀬書店〉に行こうと思ったが、それよりも遠いから今回はヤメようと思っていた、金沢市郊外の古本屋へ急速に行きたくなってきた。そこで亀鳴屋の勝井さんに電話する。〈やまびこ書房〉へのバスでの行き方を教えてもらうためだが、「ひょっとして車に乗せて行ってくれないかなあ……」という気持ちがあった。その下心がすぐに伝わってしまい、勝井さん、お客さんを待っているのに、車で来てくださった。ホント、すみません。5キロほど離れたトコロの街道沿いに、3軒が並んでいる。いちばん手前の〈宝の本〉で下ろしてもらい、勝井さんと別れる。


小さな店に入ると、典型的な新古書店タイプ。しかし値段が破格に安い。文庫はほとんど100円。単行本は200円〜500円、マンガも100〜300円ぐらいだ。亀和田武『寄り道の多い散歩』(光文社)200円は安い。持っているような気もするが(→日記検索して持ってるコトは判明。これは「古書モクロー」に出します)。文庫3冊、マンガ4冊、単行本1冊をレジに運ぶ。勝井さんが「ここの店番のおばあさんは、一冊ずつ確かめたり拭いたりして、すごい時間がかかるんです」とおっしゃっていたが、ホントにその通りだった。値段を見る前に、なぜか全ページをめくり、なにかを確認している。そのあと値段を見る。全冊それをやって、なにやら計算して、「全部で1500円です」と云う。ぼくの計算では1150円なので、「いや違うでしょう?」と云い、値札を見せる。「すると、ああココにあったんですか」とおっしゃる。じゃあ、さっきのは何の仕草だったのか。それからが大変で、一冊ずつの値札を見せ、計算機に打ち込み(何度か「消しちゃった」といって、最初から繰り返した)、手取り足取りで、ようやく合計金額を出してもらった。レジに出してから店を出るまで、20分ぐらいかかったのではないか。要介護の古本屋だ。トボけたおばあさんだったから、なんだかオモシロかったけど。


少し歩いたところにチェーンの〈ブックマート〉がある。ここでは1冊。その斜め向こうに、〈やまびこ書房〉がある。店内は広いが、棚と棚の間が狭く、天井いっぱいまで本が並べられているので、圧迫感がある。いかにもオンライン中心という風情。店主は戦前の歌謡曲を聞きながら、パソコンをいじっている。木山捷平玉川上水』(津軽書房)800円ともう一冊を買う。これで金沢市内の古本屋は、開いてなかった〈南陽堂書店〉〈やまくら書房〉、行けなかった〈一誠堂野瀬書店〉〈内田書店〉以外は全部行ったことに。わずかな時間で、コレだけ回れたのは、田川さん、勝井さんのおかげです。感謝します。



バス停に行き、金沢行きのバスを待つ。しかし、一向に来ない。早めに待っていたのだが、金沢行きに限らず、30分ぐらい一台もバスが通過しないのだ。車はひっきりなしに通るが、タクシーはまったく通らず、このままバスが来なければちょっとヤバいなあと思った頃に、やっと到着。金沢駅には5時過ぎに着いた。駅のうどん屋で腹ごしらえして、小松空港駅のバスに乗る。フライトは7時半。羽田に着き、モノレール経由で西日暮里に着いたのは9時。〈大栄〉で旬公と待ち合わせ、久しぶりにサンギョプサルを食べ、ウチに帰って荷物を整理したら、ドッと疲れが押し寄せる。郵便や宅急便がいろいろ届いていたが、すべては明日にして、早めに寝る。