ようやくスタート、「古書モクローin上々堂」

昨日の日記が長くなったので書かなかったが、帰りの電車で、篠原章『日本ロック雑誌クロニクル』(太田出版)を読み終えた。『ミュージック・ライフ』『ニューミュージック・マガジン』『フォークリポート』『ロッキング・オン』『宝島』『ロック・マガジン』の6誌を取り上げ、うち4誌の編集者にはインタビューをしている。これらの雑誌の歴史についてはごく少ない知識しか持っていなかったので、期待して読んだのだが、全体に図式的なまとめに終っている。


内容よりも問題なのは、「注」のことだ。この本には各章50以上の注(一冊では300以上)がついているが、その大半はヒドイものだ。おそらく編集者が作成したのではないかと思うが、なんのために注をつくるのか、どれぐらいの知識を持った読者に向ける注なのかが、ゼンゼン考えられていない。ぼくは大ざっぱに云って注には、1・固有名詞や出来事の解説、2・資料や発言などの出典明記、3.本文を補足する説明、という三つの機能があると思う。この本では、1がメチャメチャなのだ。人物の生年が入っていたりなかったり、没年があったりなかったり、同じ人物の注が各章に出てきて記述がちょっとずつ違っていたり(おそらく雑誌掲載時の注をそのまま引っ張ってきたのだろう)する。


解説になっていない注も多い。YMOを「元祖テクノポップ・バンド」としておいて、次のクラフトワークには「YMOに大きな影響を与えた元祖テクノポップ・バンド」とある。どっちが元祖なんだ。バンドについての解説はかなりひどく、「カリスマ的人気」「変態バンド」と片付けられているバンドが多いのに、トーキングヘッズは20行も費やされている(本文で大きく扱われているわけではないのに)。なんだ、このアンバランスさは。解説自体がよく判らない注もある。たとえば、植草甚一は「アメリカのリトル・マガジン文化の第一人者」ってあるが、なんだそれ。津野海太郎は「ミニコミ誌『水牛通信』などの編集のかたわら黒テント、六月劇場などを拠点に演劇評論活動を手がける。現在、『季刊・本とコンピューター』総合編集長、晶文社顧問」とあるが、この短い解説に5つぐらいの事実誤認や、意味不明の語句がある。おそらく、事典や書誌などの基本的な資料に当たらず、おそらくはインターネットで調べたことを適当につぎはぎしたからこうなったのだろう。ぼくは『クイックジャパン』の創刊準備号以来、太田出版の雑誌や単行本の、クドいまでに情報を詰め込んだ注がけっこう好きだった。ときには本文よりも。だけど、それはあくまで注としての本来の機能(上で書いた1と2)が果たされた上でのことだ。今後、音楽雑誌などにこの本の書評が出るだろうが、この注(と本文・表・注の誤植の多さ)を指摘しない書評はマユツバである。


口直しに、『本』1月号の井上章一「関西性欲研究会と『性の用語集』」を読み、笑う。講談社現代新書から出る『性の用語集』の編者を、版元の意向で、本来の名前である「性欲研究会」ではなく、「関西性欲研究会」とされてしまったことに関して、「関西」のニュアンスがエロとつなげられしまいがちだと書く。たしかに、性に関して関西は開放的、という幻想(ぼくの、ではなく、世間的な)はずっとあるよなあ。井上氏はいずれ、関西とエロの「語彙史研究」に望むというので、期待しよう。この文章のオチも皮肉が利いている。


ココまでは昨夜の話。今朝起きて、上の日記を書いていたら、某紙から電話。ヒドイ話もあったもんだよ。げんなりして電話を切ったあと、旬公と散歩に。よみせ通りのアップルパイの店で、焼きリンゴとガトーショコラを買い、ウチでコーヒーを入れて食べる。昼飯に焼きそばを食べたあと、旬公に三鷹上々堂〉ではじめる「古書モクロー」の看板をつくってもらう。時間がないと云いながら、えらく凝ったものをつくってくれた。それを持って出発。


上々堂〉に着いたのはジャスト3時。長谷川さんに挨拶。店内で「世界の砂糖展」をやっている西村博子さんが、店の手伝いを。上々堂にはすでに、イン・ショップとして、岡崎武志さんの「岡崎堂書店」と、浅生ハルミンさんの「ハルミン古書センター」の二つが入っている。その激戦区に新規参入するのだし、先輩お二方のように三鷹までこまめに補充に来れそうもない。そこでない知恵をしぼって、「大型の本や画集を中心に置く」(冊数が少なくて済む)ことと、「本以外の紙モノ、CDなどを置く」こと(差別化を図る)の2点だった。しかし、準備に時間が掛かってしまい、9月にはハナシがあったのに、もう年末になってしまった。


上から旬公制作の看板を掛け、とりあえず2棚ぶんを並べてみる。大型の画集やムックを面出しにして、どうやらカタチをつける。でも、一冊売れたらスグにスカスカになっちゃうな。大量買いしてあったマッチラベルは、100枚ごとに束になっていたので、そのまま値付けする。パラパラめくってみて、ナカに気に入った絵柄があれば買ってほしい。意外だったのは、戦前のデザイン図案。正月やクリスマス、歳末大売出しなどのを図案化したもので、一枚ずつのシートになっている。30枚近くあるので、まとめて値付けしようかと、長谷川さんと西村さんに見せたら、「これがカワイイ!」と大騒ぎ。ぜったい一枚ずつ売るほうがイイというご意見を尊重し、売り方はお任せする。というわけで、本日から「古書モクローin上々堂」がスタートしました。期間限定でなく、モノと気力と忍耐(店とお客さんの)が続く限りは、継続する所存ですので、どうぞヨロシク。
*古書上々堂 
〒181-0013 三鷹市下連雀4-17-5  正午〜11時頃
TEL 0422-46-2393


そのあと、中央線と山手線で渋谷へ。ハチ公前のあたりはヒトの多さにまともに前に進めない。ちょっと早いので、〈旭屋書店〉や道玄坂上の書店を覗いてから、ラブホテル街のド真ん中にある〈2's Yoshihashi〉へ。店の前で、『ぐるり』の五十嵐洋之さんと待ち合わせ。リハーサルで開場少し遅れて、中に入る。バーだと聞いていたが、小さめのライブハウスといってもいいぐらい広い店。今日はココで「中川五郎/オフノート ブレゼンツ イミグラントノクリスマス・パーティ」を聴くのだ。4000円で飲み放題、食べ放題(料理はとても美味しかった)というお得なシステム。
 

7時過ぎに、渡辺勝のイミグランド(今日は小編成)からスタート。その後、小暮はな、水晶(ウクレレ)、薄花葉っぱ、mui(三絃)という順序で、一組5曲程度を演奏する。薄花葉っぱは、夏に〈アケタの店〉で見たときよりも、パワーアップしていたなあ。初めて聴く曲も2曲あった。ボーカルの下村よう子はパフォーマンスがうまくなっていたし、坂巻さよ(香川京子似。あくまでぼくの主観では)のピアノもいい。もっと曲をたくさん聴きたいので、休憩時に下村さんに「東京でもっとライブをやってくれ」とお願いした。


そのあと、よしだよしこのギターと歌。相当なベテランらしい、しっかりした歌い方で、しみじみ聴いた。途中で演奏した、「マウンテンダルシマー」という膝に置いて弾く弦楽器が気に入った。そして、かしぶち哲郎。渡辺勝をバックに、ムーンライダーズやソロの名曲を歌う。最後にやった、薄花葉っぱの二人をコーラスに従えての、「Frou Frou」にはシビレた。来年はライダーズの新作も出すそうだ。そして、トリは中川五郎。いつも元気な55歳。ライブでよくやる、ルー・リードの「ビッグ・スカイ」が今日も良かった。全部終ったら11時過ぎ。4時間で30曲ぐらい聴いたのではないか。今年最後にして、最高のライブだった。モルダウ・ディスクから出た、かしぶち哲郎の[つくり話]を買って、外に出る。


ライブのあいだ、五十嵐さんと、来年はじめることになった『ぐるり』の連載をどうするか、話す。なんとなくのイメージをやり取りしているうちに、どうやら書けそうな気がしてきた。帰りの山手線で、『WiLL』第2号を読む。創刊号と同じく、セドローくんと日垣隆の文章以外は読むところナシ。竹村健一のインタビューもヒドい。アメリカには「ブログ」というものがあると、とくとくと話しておられる。日本にもありますよ。ウチに帰ったら、12時過ぎ。今日は一日も日記も長かった。


【今日の郵便物】
★古書目録 リヴィン春日井(愛知)、書砦(梁山泊
★『エルマガジン』2月号 特集はキモノ。「京阪神 本棚通信」というページが新設。〈ちょうちょぼっこ〉の郷田さんが、大阪・新町の〈Bor-is〉を紹介。フランスの蚤の市で仕入れてるんだとか。