11年前の仕事に美術館で再会

今日は五反田の古書展なので、朝9時に出て10時頃に着いていようと思ったが、朝はどうにも動作が鈍い。古本より寝るほうを選ぶ根性なし。毎週、古書展の会場前に並んでいるヒトたちはスゴイと心底思う。旬公も付き合うというので、10時過ぎに出て11時頃に到着。一階の会場はごった返している。あまり欲しい本が目につかなかったので、切り上げて二階へ。


月の輪さんのところで、黒柳勲『ペンレターペーパー帖』(大阪屋號書店、大正15)を1500円で。函が丸く抜かれていて、中を引き出すと、「誕生日に友を招く」「観劇に誘う」「書物の借用を申し込む」などの用途ごとに、女性や男性の筆跡の崩し字で書かれた便せん(もちろん印刷されたもの)が綴じられているという、凝った本。薄い便せんを上に敷いてなぞれば、そのまま手紙が書けてしまうというスグレモノ。デザインもいいし、現代にあわせて楷書版を出したら、けっこう売れるのでは?


ほかに、田村紀雄編『ミニコミの論理』(学陽書房)500円、注文していた松山思水『趣味百話』(誠文堂、昭和3)2000円を。後者には「燐票の蒐集」という項があり。もう一点注文していた、森本一成『足で集めた喫茶店ガイド』(昭和42)1500円はハズレた。月の輪さんの書いた目録には「美人喫茶/同伴喫茶/サービス喫茶/モダンジャズ喫茶他」とあり、ぜひ欲しかったのだが。


「四季の味」の藤田くんが来ていたので、サ店に誘う。最近上演された新国劇のパンフレットが買えたと喜んでいる。明日、同じ趣味の濱田くんと一緒に新国劇の一派だかの上演を見に行くらしい。ぼくにはまったくワカラン世界。変わってるなあ。もっとも、向うも『樟脳専売史』(日本専売公社)というでかい本を買って喜んでる旬公やぼくを同じように思ってるだろうが。


仕事場に行き、原稿や座談会出席の依頼状をじゃんじゃん書く。前から読んでいる著者に手紙を書くときは、期待と不安が交差する。昨日、すでに一人から断られてしまったので、引き受けてもらえるよう慎重に手紙を書く。5時頃に出て、王子経由で浦和まで。6時ジャストに〈うらわ美術館〉へ。ココは8時まで開館してるのがアリガタイ。エンテツさんはすでに来ていた。岩波書店に所蔵されていた明治から戦後までの雑誌(創刊号を多く含む)約1500点を展示する「創刊号のパノラマ」展を見る。興味深い展覧会ではあるが、雑誌の表紙だけというのは展示として地味だし、岩波から出た図録も持っているので、まあ流して見ようと思ったのだが、そうはいかなかった。


時代別に雑誌の現物が壁に掛けられていて、ジャンルも判型もデザインもバラバラなそれらを一通り見て回るだけで大変。気に入った表紙や、初めて聞く誌名はメモを取る。美術雑誌のようにジャンルでまとめられているコーナーもあった。宮武外骨が発行した雑誌群もあり、そのヨコには、ぼくが26歳のときに編集した、ゆまに書房の『雑誌集成 宮武外骨此中にあり』の数巻が置かれて、読むことができるようになっていた。な、懐かしー。当時やった仕事がいまになって資料として扱われるようになったというのは、とても嬉しいことだ。


結局、見終わるまでに1時間掛かった。表紙だけでなく、一目でいいから中身を見たかった雑誌がいくつも。来週の土曜日には、森仁史さんの解説による館内ツアーがあり、中が見られる雑誌もあるようなので、可能なら参加しようとエンテツさんと話す。帰りの電車で、安食文雄三田村鳶魚の時代 在野学の群像と図書館体験』(鳥影社)を読了。さっきの展覧会で展示されていた雑誌についても触れられていて、興味深かった。


【今日の郵便物】
★古本 神無月書店より 田中小実昌本を3冊