山崎邦紀の新作は最高の誕生日プレゼント

今日で43歳になった。とくに感慨なし。午前中は不忍の連絡のやり取りで、気づけばもう12時。千駄木で不忍助っ人関係の打ち合わせ。集まった人が小声でハッピーバースデーを歌いはじめるが、全力で拒否する。大人げないが。


3時に出て、都営新宿線の直通で京王線の柴崎へ。こないだ、ジャズ喫茶に入るのに降りたのが初めての柴崎下車だったが、それからわずか2カ月で同じ駅に降りるとは。ヘンに時間が余ってるので、そのときウマかった中華料理屋に入ろうと思ったら休憩時間。その先にもう一軒あったので、生ビールのグラスとギョーザ、ラーメンを食べる。駅前に戻ると、山崎邦紀さん、一水社の多田さん、遠藤哲夫さんが集まっている。あとから、女性小説家のKさんが降りてくる。東映ラボテックで山崎さんの監督作品の試写会があるのだ。


駅から10分ほど歩くが、駅周辺には中華料理屋や飲み屋がやたらに多い。その先の野川沿いを歩き、しばらく行ったところに東映ラボテックがある。なんか、1970年代から変わってなさそうな建物。待合室に行くと、プロデューサーの浜野佐知さんほかスタッフがいた。十数人で試写室に入り、上映開始。タイトルは《美尻エクスタシー 白昼の穴快楽》(あとで監督にタイトルを訊いたら、本人もよく覚えてなくて、エンテツさんが教えてくれた。ピンクのタイトルって、そんなもん)。


冒頭、玉子の黄身にエクスタシーを感じる女が出てきて、そこに眼球のイメージがダブるので、ははあ、バタイユだなと思うが、その後も玉子=眼球=丸い=尻と、連想しりとりのような即物的な映像が続く。バタイユに影響されたらちょっとは幻想的だったり難解になっちゃったりしそうなものだが、山崎監督の場合は徹底的に即ブツ主義。いや、本人はファンタジーのつもりかもしれないが、バタイユを中学生が図解したような判り易さなのである。


さらにスゴイのは、いきなり「尻子玉」というのが登場するところ。カッパが抜くというアレだが、山崎監督はその尻子玉を反対から読むと「玉子尻」だと規定し、あくまでも玉子に話を戻そうと頑張る。で、その尻子玉を抜かれたような生気のない男を元気づけようと、流しの女医(いきなり「尻子玉はアフリカのカメルーンにもある!」などと云いだす。最近山崎さんはカメルーンに旅行したらしい。このあたりの取り入れ方も即物的だ)が、そいつの肛門に眼球のカタチの「仮の尻子玉」を突っ込むと、たちまち元気百倍! その場で女医とファック。さらに、こんどはゆでたまごを男の尻に突っ込み、女の子には「前の尻子玉」を突っ込むと、ふたりはすっかりフィーバー! 寝たきりだが孫娘のファックを覗き見(双眼鏡を逆さまにしたのを装着しているのが、バーチャルリアリティの装置みたいで笑える)するジジイや、キモイくせにいっちょまえに二股かけようとする男もからまる。最後の取ってつけたようなオチも最高。


最初から最後まで笑っぱいなし。こんな馬鹿げた発想の馬鹿げたシナリオの映画をつくってしまい、しかもピンク映画館で公開してしまうというのは、どんな前衛芸術よりスゴイ。コレ観て発情する男がいたらお目にかかりたい(とはいえ、主演の女優はかなりキレイでエロかった)。役者もスタッフもこのばかばかしさを目いっぱい愉しんでいるのが判る。音楽なんか絶妙だったもんなー。山崎さんの映画は4、5本しか観てないが、ゲイ映画はあっけらかんと明るく、楽しいのに対して、ピンクの方は妙に観念的でその観念が空回りしている嫌いがあった。しかし、本作は観念を一筆書きにして見せたような、人を馬鹿にしたような明快さがある。山崎さんのこれまでの作品では、ゲイムービーの《パレード》と同じぐらい好きだな、これ。


数日前にこの映画を観た配給会社の人は、「なんでこの映画に(うちが)お金を出しているか判らない」と、山崎さんに云ったそうだ。カネを出してる人をして、よく判らないと云わしめるとは、ますますスゴイ。ここ一年ほどで、「つぶれないのが奇跡」と云われた出版社がやっぱり本を出せない状況になっているのだが、山崎監督は、出版業界よりも何十年も先に崩壊した映画業界の末端で、やっぱり「存在しているのが奇跡」と云われつつ、それでも新作を撮り続けているのだ。もうね、元気出ますよ、山崎さんを見てると。好きなことを好きなようにやっていけば、なんとかなる(こともある)と思わせてくれる。最高の誕生プレゼントだなあ。


この映画は5月以降、上野オークラ劇場ほかで公開されるらしいので、詳細分かったらお知らせします。観賞ツアーでも組もうかな。あと、どっかの映画館(あるいは、映画を上映できるスペース)で、「山崎邦紀映画祭」をやってくれないものか。自殺しようとしてる人がアホらしくなって死ぬのをやめるぐらいの力のある映画です。ぜひ、どこかでやってください。


【4月21日追記】この日の試写会について、山崎さんがブログで書いてます。
http://blog.7th-sense.sub.jp/?eid=894604
配給会社の人の言はちょっと間違って伝わっているとして、

さすがに、そこまでは言わないね。前日に行われた映倫試写では、配給会社の諸君に「尻子玉って、わけ分からない」「あまりにもバカげたことを大真面目にやっているので、しらけた」「次があるかどうか分からない」などと散々だったが、面白がってくれるスタッフもいた。

と訂正している。……ほとんど同じ意味じゃないですか(笑)。これでも「そこまで」言われてない、と思える山崎さんの強さとおめでたさは、本当に素晴らしい。いまどき稀有なヒトですよ。周りから楽天的だ、危機感がないと云われまくっている私ですら嫉妬します。