バーミヤンにはじまり、終る

旬公はしばらく朝型に生活を変えるといって、早起きするようになった。昨夜も〈NOMAD〉で「早起きしてるから眠くて眠くて」と云ったら、店の人に「いつ起きたんですか?」と訊かれた。でも、「7時半とか……」と答えて笑われていた。この程度、早起きのうちに入らないんだろう。でも、ぼくはその旬公よりもっと遅くまで寝ている。


というわけで、今日はちょっと「早起き」に挑戦してみる。ま、8時半ですが。先に旬公が〈バーミヤン〉で仕事してると云って出たので、歩いてそっちに向う。もうこの時間でカンカン照りだ。10分近く歩いて(遠いのです)到着するが、店内には誰もいない。あとで聞いたら、うるさい集団がいたので、別の店に行っていたとか。せっかく起き出してきたのに……と思うが、しょうがない、駅のほうに戻り、〈ヒロ〉という喫茶店に入る。ココは薄暗い雰囲気なのでスナックかと思ってたけど、フツーの喫茶店だった。モーニングのホットドッグを食べてコーヒーを飲む。空いていたが、ココでパソコンを広げる気にならず、また歩いて〈ルノアール〉へ。喫茶店ジプシーですな。


ココで原稿を一本書く。もうちょっとで書きあがるというところで、バッテリー切れ。最近フルに充電しても二時間もたない。ウチに帰って残りを書き、充電してるあいだ、本を読む。旬公が帰って来たので、1時過ぎに今度は自転車で出かける、〈ときわ食堂〉でビールとカツオのたたき、カレーライス。いつ来ても落ち着くなあ。隣の〈博山房書店〉のあたり、更地になっている。新しいビルにも書店が入ってくれるとイイが。本駒込図書館に久しぶりに行き、小沢信男さんの聞き書きをまとめる。引用文を決めて入力するだけで、バッテリー切れ。


またウチに帰り、ちょっと休んでから聞き書きの続き。8時半頃、旬公と出かける。いつもの〈大栄〉は定休日じゃないのに休み。こうなると、途端に行くところがなくなる。どうせ同じ方向だからと歩き、〈バーミヤン〉の前にある中華料理屋へ。あまり期待していなかったが、けっこうウマイ。豚耳、豆苗炒めなど。そのあと、〈バーミヤン〉で仕事。行くところのない若者が溜まりにタマって、喧騒とよどんだ空気が充満してる。その中で、なんとか聞き書きを最後まで持っていく。


【今日のしおりページ】谷沢永一『文豪たちの大喧嘩 鴎外・逍遥・樗牛』新潮社、2003年
明治32年森鴎外高山樗牛論争への評価。
「樗牛の正攻法から体をかわす為に、鴎外が工夫し採用した防衛戦術は、こののち長く我が国の各界で、既成の社会的威信および名声を頼りに、実質的な論争を回避する張り子の虎たちが、常に愛用した虚仮威し様式の原型となっている。まず提起された問題が本質的な重要性を持たぬと、有無を言わせず劈頭から貶価する格好を示し、従って真っ当に相手と渡り合う意志がないと早い目に公言して置き、その上で自分に都合の好い些末事を捉えては、観衆目当てに身振り大きく独善的な陳弁を試み、最後の仕上げとして相手側の動機に、嫉妬や怨恨や権勢欲など悪意に満ちた、卑劣な情念の蟠りが潜むらしいと仄めかしつつ、自分は争気を去った太っ肚の静謐な諦念に住して、小人の客気を憐れみつつ静観する旨を鷹揚に呟いてみせる。論争相手の面貌を獰猛で理不尽な下克上に仕立て上げ、対立が生じた原因を何から何まで、論敵の内に秘められた鄙吝賤劣な動機に見出し、論理とは無関係な次元で●(鳥冠に几=けり)をつける術策が、鴎外の奥の手として模範的に演じられたのである」
しかし、対鴎外では鮮やかだった樗牛が、対逍遥の論戦では、鴎外と変わらない「姑息な目眩まし」に走ってしまうところが、論争の難しさであり、面白さでもあろう。